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喫茶店の敗北者

 昨日は秋葉原の喫茶店にこもって作業をしていた。作業自体は捗ったのだが、なんというか落ち込んでしまった。というのも、目の前の席に前途ある若者が鎮座していたからだ。
 詳しく言うと偉い感じの大人と採用にまつわる話をしていた。どうやら、なにかしらの界隈で活躍している活動者が会社に入るか否か、という話らしい。恰幅の良い西洋系のおじさんが3人に、リクルートスーツを着た若々しい青年が一人。微笑ましく、そして応援したくなるような光景だ。必死に自らをアピールする青年、ユーモアを交えつつも会社の厳しさや制約を説明する大人たち。
 二時間ぐらいして、彼等は退席していった。青年の今後はどうなるのだろうか?こういう形で面接を受けたことがないから分からないが、主導権は彼の方にあるのだろうか。
 そんなことを考えていると、今度は女性客が二人、隣の席に入ってきた。秋葉原らしいオタク趣味の女性たち。しかし、どうやら女性の片方は単なる消費者ではなくVtuberもやっている立場らしい。
 機材や人気など、様々な悩みを吐露しながらパフェを食べる女性の話に聞き耳を立て、私はこっそりとメモをする。すっかりと集中は解け、小説作業の手は止まっていた。
 じきに閉店時間が近づき、どんどんと人影がまばらになって来る。気がつけば隣の女性客も帰り、店内に残っている客は私だけだった。
 ぽっかりと空いたテーブル、角席に私は一人。なんとも言えない嫉妬心と孤独感。外で作業をしているだけで、こんな気持ちになるとは思わなかった。やっぱり、都会の喫茶店は違いますね。喫煙席なんてのも名ばかりで、IQOSしか吸えないし……
 そんなことを思いながら、最後に煙草を一服してから私は帰った。奥の奥に押し込められた紙巻き用の喫煙室はとても小さい。敗者の領土はこんなもんだと言わんばかりに。
 外に出ると、夏特有のもわついた風が吹いた。暑い、しかしこの不快さはみな共通だと思うと、少し救われるものもある。そんな気がしてしまう。

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