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水銀燈と真紅、ローゼンメイデンと2024年の私

 子供の頃はローゼンメイデンで一番好きなキャラと言えば圧倒的に『水銀燈』だった。銀髪、ゴシック風のドレスに赤い眼。クールで孤高で厭世的な雰囲気にすっかり魅せられてしまったのだ。
 当時の私は中学生、虚無主義と厨二病を拗らせ切った面倒なお年頃。そんな折に触れて、彼女の事を好きにならないわけがない。くっつきすぎず、離れすぎない共犯者とでも呼べる関係。夕焼けの教室、たった二人だけで人生と死についてのお洒落な話をする、そんな光景をよく夢想したものでした。
 それから十数年が経ち、世界も私も変化した。いつからかパートナーにしたいドールは水銀燈から翠星石、そして真紅へと変遷を遂げている。
 ――真紅。金色のツインテールと赤いドレス、そして赤よりも紅い美しい信念を持つ少女。正直言って、昔の私は彼女の事があまり好きではなかったように思える。偉そうで小言が多くてうるさい、と、初期のジュンと同じような感覚を感じていたのだろう。
 世間的にも、真紅はあまり人気ではなかったという印象だ。実際のところどうなのかは分からないが、感覚的には納得できる話だ。だって、オタクに向けるにしては彼女は少々”強すぎる”から。
 自分が寂しくても、怖くてもプライドを張り続け、巣立とうとするジュンを見守る姿勢は自分の部屋を好む陰のものにはあまりにも眩しい。その姿勢は、部屋に残ることを肯定し、弱いまま、子供のままでいることを求める翠星石などとは対照的だ。(逆説的に言うと、だからこそ翠星石はオタクに人気があるんだと思うけど)
 本音で言えば私だって、翠星石と部屋の中で過ごし続ける何でもない日々や、水銀燈と過ごす夕暮れ空なんかを今でも妄想することがある。
 でも、虚勢でもいいから、真紅のパートナーであれる自分でいたいと、2024年の私はそう思っている。闘うことは生きることだから。
 薔薇の指輪はないけれど、真紅色をした記憶の中の小さな影は裏切れない。だからいつ本当のマスターになってもいいように、紅茶の腕でも上げながら日々を過ごそうと思う。


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