【詩】崖下の先
突き放される感覚が欲しい
崖際で背を押される
それではつまらない
刷毛で以て一息に塗り上げた
濃紺の夜空
その真中へ仄黄色く蟠る月
陳腐な感傷的風景
そこへ風のふっと流れ込んだかと思うと
夜幕の端から竜が躍り出た
ごう
と吠え嘶く
私の鼓膜は粉々に砕け
全くの森閑に感じる
空気の震え 肌の痺れ
ただその一声の
勇猛たる残滓に酔い溺れる
秋の夜長の風物は
押し並べて物悲しい
まさしく愁い
そよぐすすき野原の中へ
一際嫋やかになびく女の髪
艶めく黒は夜の藍に馴染まず
月光は半ば染み入り半ば滑って
墨汁を撒いたように翻る
見惚れていると目が合って
女の投げた包丁が私を貫いた
すすき
黒髪
血飛沫
よく なびく
苛烈に責められ
隘路へ追い込まれて
ふと落っこちる
理不尽に突き放されたい
どうしようもなく
超常に
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