【読書記録】十二国記 月の影 影の海
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感想
ネタバレなし
ある日突然、自分のことを捜していたという謎の人物に出会い、見たこともない異形の獣に襲われる。たどり着いた見知らぬ世界では、壮絶な冒険が待ち受けていた。『魔性の子』とは異なり、いかにもファンタジーである。
雰囲気こそ異なるものの、『魔性の子』で得た十二国記の世界の知識のおかげで多少理解がしやすい。あるいは、『月の影 影の海』をはじめに読んでいたら受けたであろう衝撃はなく、その点では「ネタバレ」ともいえるかもしれない。
ネタバレあり
ケイキとはぐれた後、なんやかんやあり服を盗みに入った家で家主に見つかってしまう。しかし、彼女はそれを咎めるどころか、陽子に服も風呂もご飯も寝床も用意してくれる。それに加え、右も左もわからない陽子にこの世界のことを教えてくれる。説明もなしにこの世界に連れてきた上、はぐれてしまって迎えにも来ないケイキとは大違いである。彼女を信じてしまうのも無理はない。
その後一人になりたまたま立ち寄った宿で、初めて海客に出会う。同胞を見つけたと喜んだのもつかの間、その老人にもまた裏切られる。
その頃には獣を斬ることにもすっかり慣れ、剣で人を脅すことにも躊躇いがなくなっていた。元いた世界で初めて剣を握った時からは考えられない変わりようである。
誰も信じないと決めた陽子の前にネズミの姿をした半獣である楽俊が現れ、共に旅をすることになる。その道中妖魔に襲われ、楽俊もけがをしたようだった。しかし、彼を信じておらず、捕まることを恐れた陽子には、彼に止めを刺すという考えが頭をよぎる。
後に延王が言った「人は愚かだ。苦しければなお愚かになる」という言葉がまさにこの時の陽子の様子を言い表しているだろう。
この一件もあり、陽子は自分が愚かだということを身をもって知っていた。だからこそ王にはなれないというのだが、傍から見れば、却ってそれが王としての資質があるように見える。このあたりを読んでいて感じたことはまさに楽俊が作中で代弁してくれている。
麒麟は正義と慈悲でできているが、延王の言う通り、それだけでは国は治められない。だからこそ、人の醜い部分や浅ましい部分が必要で、王と麒麟がそろってちょうどいい塩梅になる。素晴らしい考え方だと感動した。
景麒と再開した場面。
再開の前の戦闘の様子が一切描かれていないのが印象的だった。
悪びれない口調の景麒に笑う陽子を見て、この二人は良い相棒だなと思った。この二人が治める国は良い国になるだろう。
既に契約は交わしているが、改めて互いの想いを確認するように契約の言葉を交わす。外で巻き起こっている戦闘の喧騒から離れ、静かな中佇む二人の様子が目に浮かぶようで、本当に美しい。
ところで、ネタバレなしの感想に書いたように、先に『魔性の子』を読んだことで、作中で明かされる前に分かってしまったことがあった。それは陽子が景王であるということ。『月の影 影の海』を先に読めば陽子と同じタイミングでその事実を知ったのだろう。その衝撃を味わってみたかった気もする。
それから、陽子が王だと判明した後妖魔に襲われた際に助けてくれた男について、もしやこの人こそ延王なのではないか、という予想が当たった時は、固まった二人を見て彼と同じように心の中で笑っていた。
そしてこれは今後の教訓なのだが、『月の影 影の海(下)』の30周年版帯に『「友」に出会う』とでかでかと書かれている上、あちこちでネズミのイラストを見かけるものだから、楽俊が現れた時点で「こいつが友になるんだな」と察してしまった。別にそれでこの作品の面白さが損なわれてしまうわけではないのだが、せっかくならば存分に楽しみたいので、今後は帯と背表紙のあらすじはできるだけ目に入れないようにしたいと思う。果たしてどこまで実践できるかはわからないが。
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