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公序良俗ってなに??弁護士が解説
先日、とある顧問先様から『「公序良俗(こうじょりょうぞく)」って何のことですか?』というご質問を受けました。
たしかに法律に携わっている人ならともかく、普通の方からすると馴染みのない言葉でしょう。
しかし法律、特に民事法においては、根幹にある原則論といっても過言ではないくらい重要な概念といえます。
そこで今回は「公序良俗」について、簡単ではありますが解説したいと思います。
公序良俗とは
「公序良俗」とは略されている言葉で、正式には『公の秩序・善良な風俗』のことをいいます。
「公の秩序」とは、国家社会の一般的利益を、「善良な風俗」とは、社会の一般的道徳観念を意味します。
ただ、両者の区別は必ずしも明確にできるものではないので、あわせて行為の社会的妥当性と捉えられています。
そして条文上には、下記のように規定されています。
(公序良俗)
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
すなわち公序良俗に反する法律行為、言い換えれば、社会的妥当性を欠く法律行為は、無効となります。
この条文が規定された理由は、本来、民事法上においては、契約自由の原則(契約を締結するかどうか及びどのような契約内容にするかは当事者が自由に決定できる原則)というものがあります(民法521条参照)。
しかし、契約自由の原則に何らの制限もかけないとなると、犯罪など違法行為を契約内容としたり、違法でないにせよ一方当事者があまりにも不利な契約をさせられるなど、結果として個人の自由が危ぶまれることになります。
そこで、契約はもちろん法律行為において、社会的にみて不当なものは無効にすることで、個人の自由を守ることにしたのがこの規定です。
ちなみにこの条文は、民法の法律行為における総則(全体を通じて適用する決まり)のところにあります。
ですので、いわば当たり前のルールという意味合いを持ち、それゆえ契約書や各種規定などであえて記載せずとも、公序良俗に反する法律行為があれば無効となることから、普通の方が見聞きする機会が少ないものといえます。
とはいえ、前述のとおり、きわめて重要な規定であることには間違いありませんので、以下、実際にどのような行為が裁判例で公序良俗違反の問題となったのかについて解説していきたいと思います。
公序良俗違反となった主な裁判例
家族道徳に反する行為
・配偶者がいるX(男)と、それを知っているY(女)が、Xが離婚した場合に結婚するとの契約、及びこの契約に基づいて結婚までの間、XがYを養う費用を支払う旨の契約。
簡単に言うと、愛人関係での将来の結婚予約、及びそれまでの経済的援助を伴う愛人契約です。
日本は、一夫一婦制であり、法律上も重婚が禁止されていることからしても(民法732条)、当然の帰結といっていいでしょう。
正義の観念・社会的倫理に反する行為
・男性の定年を60歳、女性の定年を55歳と規定する就業規則。
性別のみによる不合理な差別を定めたものであり、憲法14条が保障する平等権からしても、妥当な判決といえます。
・違法ギャンブルに使われることを知った上で締結した金銭消費貸借契約。
賭博行為が犯罪(刑法185条)である以上、異論はないでしょう。
暴利行為
・借金を返済しない場合には、借金額の約8倍もする借主所有の不動産を貸主が取得する旨の契約。
借りた金額と比べて、実質的な返済額が著しくかけ離れた契約であり、社会的妥当性を欠いているからです。
まとめ
他にも様々な裁判例はありますが、それぞれ法律行為を行った時点における社会的妥当性という観点から、判断されているといえます。
では、公序良俗違反として無効となる法律行為はどうなるのでしょうか。
以下、実際にあった相談事例(一部改変)を挙げて解説いたします。
法律行為が公序良俗違反となった結果について
相談事例
相談者は女性。
パパ活サイトで、とある既婚者男性と知り合い、月1回肉体関係をもつことを条件に毎月10万円をもらう旨の約束をしました。
しかし半年後、ケンカとなり関係を解消。
すると男性から、今まで払ったお金を返せと言われました。
このお金は返さないといけないのでしょうか。
解説
上記のようなパパ活での肉体関係が伴った既婚者とのいわゆる愛人契約は、公序良俗違反で無効です。
法律的にいうと、既婚者との肉体関係(性行為)は不貞行為(民法770条1項1号参照)であり、共同不法行為(民法719条、民法709条)となるものだからです。
すなわち、違法な行為を条件とする契約ですので、公序良俗に反して無効ということです。
そうすると法律上は、愛人契約は当初からなかったものとされることになります。
その結果、女性の受け取ったお金は、法律上の原因なく利益を受けたものとして、いわゆる不当利得(民法703条)となり、本来ならば男性に返還義務を負うのが帰結となります。
しかし、共に不法行為をした男性の返還請求を認めてしまうと、裁判所が不法な行為をした者に手助けすることになってしまいます。
そこで、自ら不法に関与した者には裁判所の救済を与えないようにするべく、下記条文が適用されることになります。
(不法原因給付)
第七百八条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
したがって、男性はこの不法原因給付をした者となりますので、女性に対して、今まで払ったお金の返還を請求することはできません。
以上から、女性は、今まで受け取ったお金について男性に返還しなくてよいということになります。
なお、愛人契約を解消後、任意で返還すると約束した場合には、返還しなければなりません。
上述のとおり、あくまで自ら不法に関与した者に裁判所が救済を与えないための条文であり、返還義務がないにもかかわらず、あえて返還すると約束したものまで否定することはないからです。
まとめ
前半部分で述べたとおり、根幹にある原則論ということもあって、公序良俗違反については契約書や規約などに記載がないことがほとんどです。
しかし、社会的妥当性を欠くような契約や法律行為であれば、公序良俗違反で無効を主張できる可能性があります。
また公序良俗違反で無効となれば、約束段階であれば約束を履行しなくてもよくなりますし、既に何か受け取ったものがあれば、基本的には返還しなくてよいことにもなります。
したがって、これは社会的にみて不当な契約や法律行為と思う際には、公序良俗違反の観点からも検討した方がいいでしょう。
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