マガジンのカバー画像

読書感想文マガジン

65
読書感想文の倉庫
運営しているクリエイター

2023年12月の記事一覧

【BOOK】『あの夏の正解』早見和真:著 「甲子園」という魔法が解けた時、何をすべきか

2023年の夏の甲子園大会(第105回全国高等学校野球選手権大会)は、慶應高校が大会2連覇をかけた仙台育英高校を破って107年ぶりの優勝を飾った。 アフターコロナの時代を象徴するように、声出し応援やブラスバンド演奏の解禁、熱中症対策や投球数制限、ベンチ入りメンバーの増員、5回終了時のクーリングタイムなど、話題も多く盛り上がった。 だが、この盛り上がりは遡ること3年前の「大会中止」があったことも大いに関係があると思う。 2020年5月20日、第102回全国高等学校野球選手権

【BOOK】『Aではない君と』薬丸岳:著 十字架を背負う子に寄り添う覚悟

同級生を殺害した容疑で14歳の息子・吉永翼が逮捕される。それなりに平和に暮らしていた日常から一転、加害少年の親となった主人公・吉永圭一は、ニュースで見る匿名の「少年A」ではなく、自身の息子と正面から向き合うことで、自分自身の心の奥底にある弱さと向き合うことになる、葛藤と決意の物語。 日本の少年犯罪の現実日本の少年犯罪は、1960年代から1980年代にかけて増加傾向にあったが、1990年代以降は減少傾向にある。 平成29年版 犯罪白書 第3編/第1章/第1節/2 によると、昭

【BOOK】『カラフル』森絵都:著 大人へのファーストステップ

「十人十色」という言葉があるように、人は誰しも「色」を持っている。 その人がその人たる所以を色に例えると、みなそれぞれ違った色をしているはずである。 他の誰とも似ていない色を持つ者もいれば、なんだかとても近しい色をしている隣人と出会うこともあるだろう。 だが、日常生活に忙殺されて、違うはずの色が同じ色に見えてしまうような気持ちになるときもある。 変わり映えのしない生活。変化の無い日常。 世界がモノクロームに塗りつぶされて、味気の無い毎日に押しつぶされそうになったあの頃の自分を

【BOOK】『お台場アイランドベイビー』伊予原新:著 見えない鎖をひきずって生きてゆく

首都直下型地震が発生し、首都東京が壊滅的なダメージを受けた平行世界の日本が舞台。 刑事を辞めていまはヤクザの用心棒をやっている巽丑寅は、不思議な黒人の少年・丈太と出会う。 震災を機に見かけられるようになった「震災ストリートチルドレン」を追ううちに、政治家、ヤクザ、謎のアナーキスト、あらゆる外国人労働者たちが入り乱れ、沈みゆく日本の中で雄叫びを上げる。 圧倒的筆致で描き出す「震災後の落ち行く日本」の姿がリアルに迫る傑作だ。 首都直下型地震のリアル本作は第30回横溝正史ミステリ

【BOOK】『永遠についての証明』岩井圭也:著 世界で最も美しい数学と友情の物語

なんという美しい物語なのだろうか。 数学の世界の純粋性と人が人を想う真っ直ぐな純粋性との完全なる調和。 森に代表される自然界の摂理と深遠さ。 自然と宇宙との運動に身を任せることで得られる圧倒的な世界への手がかりが脳内で煌めく瞬間の、なんと饒舌なることか。 「21世紀のガロア」とも呼ばれた数学の天才・三ツ矢瞭司と、その天才に嫉妬しながらも憧れ、愛したもう一人の数学の天才・熊沢勇一の、数理の世界でしかつながり合えなかったふたりの友情に胸が締め付けられる。 「数学」は「言語」であ