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百日草

映画館のドアを押し開け、上映開始ギリギリに滑り込む二人。

「ホラー映画ねぇ・・・」と、彼女は笑顔で見上げて言った。その笑顔に、直人は救われるような気持ちを覚えつつも、まだ高校生である彼女を映画に誘ったことへの罪悪感に苛まれた。彼は彼女に対して、幼い頃からの友達のような親しみや守りたいという強い感情を抱いていた。
「知り合いからもらったんだ。映画の内容も知らない、ごめん...」映画を見ることよりも、彼女をデートに誘ったことに意味を見出してくれた彼女に、何かを伝えたいという気持ちがあった。しかし、その気持ちは言葉にすることなく、心の中にしまい込んだ。

楓はスマホに熱中するたかしを静かに観察していた。二人の間に言葉は交わされないものの、その沈黙が何かを物語っているようだった。そんなとき、待ち望んでいたナポリタンとカルボナーラがテーブルに到着した。彼らが交わした唯一の会話は、それぞれの料理を味わった感想についてだった。

本が並ぶ喫茶店で、奈津は実世と会話している。
両手の指を伸ばし、親指を内側に曲げ、両手を胸の前で交差させ、両手の親指と人差し指を伸ばし、その手を胸の前で交差させた。実世は「うん」と本当に楽しそうに答え、社会人としての自信に満ちた様子を奈津に伝えているようだった。その笑顔は、奈津にとって前を見ることができない状況においても、迷いなく進むための導きとなり、押しつぶされそうな重圧からも彼女を守ってくれるように感じられた。それはまるで、暖かい光のようなものだった。

ベッドに横になった三智は、窓から見える星の数の少なさに思いを馳せていた。溢れ出る感情を誰かが抑えることができるのだろうか。伝えたい言葉や届けたい思いがある。圧倒されそうになりながらも、救いの笑顔を決して忘れなかった。壊れそうなほど、涙が溢れる夜だった。

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