お手伝いする子が育つ家庭はココが違う
元テレビ局のアナウンサーで、NHKの「すくすく子育て」の司会も務めた天野ひかりによる連載です。 今まで5万人以上から相談を受けてきた親子コミュニケーションのプロが、実際によく相談される悩みをどうやったら解決できるか、自己肯定感を育てる会話のコツをお話します。
今回は「お手伝いしなさい!と言わなくても、自分からお手伝いできる子になってほしいです。どうしたらいいですか?」というご相談です。
この連載では「〜しなさい」と指示してやらせても、意味がないことをお伝えしてきました。もちろんそれはお手伝いの場面でも同じ。自分からお手伝いしたいと思って行動する。そんなお子さんに育てることが大切ですね。
「自分からお手伝いしたいと言う子? 本当にそんな子に育てられるの?」と半信半疑かもしれません。でも大丈夫です。
まずはNGマンガを見てみましょう。
■「手伝って」がネガティブワードになっている
NGマンガのような感じが続くと「お手伝いして!」という言葉が、遊びを中断させられるイヤな言葉としてインプットされてしまいます。これは本当にもったいないことです。
それに、「お手伝いして!」という言葉では、子どもは何をしたらいいのかわからないのです。
自分に置き換えて考えてみましょう。
たとえば、新しいプロジェクトに「手伝ってほしい」と呼ばれて、途中から参加したとします。他のみんなは内容がわかっているから着々と進めていますが、自分には何の説明もない、一緒にやってくれる人もいない、となると何をしたらいいのかわからず戸惑ってしまいますね。
この状況は、急に親から「お手伝いして!」と言われた子どもと同じなのです。
プロジェクトの趣旨や目的がわかれば、考えながら手伝えるかもしれません。具体的に説明を聞きながら一緒に取り組めば、動きやすいし自分の役割が明確になりそうですよね。
子どもにお手伝いをうながす場合も同じです。
「お手伝いして」という曖昧な表現ではなく、「何をどうしたらいいのか」という言葉を補って伝えてみましょう。最初は一緒にやるところからスタートするのがおすすめです。
■「手伝って!」を他の言葉に言い換える
OKマンガのように「お手伝い」を具体的な言葉に置き換えてみてください。
たとえば
「食器をシンクまで運ぼうね」
とお手本を見せながら一緒に運ぶ。
「このふきんで、テーブルを端からこんな風に拭いてくれたら助かるよ」
と一緒にふきん掛けをする。
「それぞれのお箸をこの向きで並べようね」
と一緒に並べる。
こんなふうにお母さんお父さんと一緒にやってみることで、お手伝いもがぜん面白くなります。人に言われてやるのではなく、やる意味を見つけられると、さらに効率的なやり方を子ども自身が見つけるかもしれません。
それに、片付けをしたらみんなでトランプが楽しめるなんて、やる気になりそうですね。
■「家事はお母さんの仕事でしょ!」と言われてしまった
そしてもっと根本的に大切なことがあります。
それは、「家族の一員なら家事をするのは当たり前」という考えをもって子どもを育てることです。
NGマンガとOKマンガの決定的な違いは、全員が家事に参加していること。お父さんお母さん(場合によっては、おじいちゃんもおばあちゃんも)子どもたち全員が当たり前に家事をする生活が理想ですね。
お母さん(あるいはお父さん)だけが料理したり片付けしたり掃除している間、他の人がリビングでくつろいでいるような家庭では、自分からお手伝いをする子には育たないと思います。それにそんなお父さん(あるいはお母さん)が、「手伝いなさい!」と言っても、説得力はありませんよね。
あるお母さんが「手伝って!」と言った時、子どもに「それはママの仕事でしょ!」と言われたそうです。愕然として日頃の言動を反省しました……という声も多く聞かれます。
まだまだ今の日本では、「家事=お母さんの仕事」だと思われている面がありますね。
未来を生きる子どもたちには、男女関係なく家事をするのが当たり前だと育ってほしいものです。そう考えると「お手伝い」という言葉もそろそろ見直さないといけないのかもしれませんね。
■今日のコミュポイント■
家事は、「手伝って」するのではなく、家族全員が「当たり前に」しよう!
マンガ:とげとげ。
■プロフィール■
天野ひかり
上智大卒。テレビ局アナウンサーを経てフリーに。NHK「すくすく子育て」キャスターの経験を生かし、親子コミュニケーションアドバイザーとして 講演や企業セミナー講師を務める。子どもの自己肯定感を育てるため自身で立ち上げた「NPO法人親子コミュニケーションラボ」代表理事、一般社団 法人グローバルキッズアカデミー主席研究員。主な著書に『子どもが聴いてくれて話してくれる会話のコツ』(サンクチュアリ出版)
や『賢い子を育てる 夫婦の会話』(あさ出版)などがある。