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拝啓 サッカーGK・GKコーチのみなさまへ ~GK育成におけるフットサルの価値~

前提)フットサルはミニサッカーではなくフットサルです。フットサルは魅力があるスポーツだと思っていますし、フットサルに尽力している方々に対するリスペクトは持っているつもりです。今回のnoteはあくまで「まだフットサルを知らないGK関係者に向けて」という趣旨で書いています。


1.はじめに

  ここ数年、フットサルの価値がサッカー界に注目されています。技術面、戦術面、IQ面、様々なところでサッカーに良い影響を及ぼすのがフットサルという競技だという認識はいまや指導者であれば当たり前の物だと思います。そのあたりに関しては自分よりもこの人を始めとしたその界隈の指導者の方々のツイッターやノートを見てもらえばと思います。(そもそも作陽がフットサル界に進出し、自分が勉強するきっかけになったのは三好さんだったのですね。彼の後ろをついて歩いてたらいろんな経験ができてました笑)
 そういった時代の流れだからこそ、GKにとってのフットサルの価値ももっと注目されるべきだと私は思います。実際、JFAの取り組みフットサル日本代表GKコーチの内山さんと大宮アルディージャGKコーチの松本さんの活動などサッカーGKとフットサルGKの交流は始まっています。那須大亮さんのYouTubeで放送されたJリーガーvsFリーガーリベンジ編まで含めて見ごたえがありましたね。イゴールのプレーは圧巻です。ただ、FPの指導者のフットサルへの関心と比べるとまだまだ足りないしもったいないと私は感じています。そこで、作陽高校で微力ながらサッカーとフットサル2つの競技に携わった者として感じたことや考えたことをまとめて残すことで誰かに何かが伝わればいいなと思いこの記事を書くことにしました。所々上から目線になるのは筆者の人格がその程度だということでご容赦ください!
 

2.フットサルの競技特性

 私は、サッカーGKもサッカーFPと同じく、積極的にフットサルに取り組むべきだと考えています。なぜなら、フットサルをすることによってサッカーGKとしてのレベルアップにつながると思うからです。 
 フットサルとサッカーはピッチ・ゴール・ボール・人数が違います。そういった中で、私がサッカーGKに有益だと考えるフットサルの競技特性として
① 再現性の高さ
② 時間的/空間的なシビアさ
をあげ、これらの特性からフットサルをすることでサッカーGKとしてのレベルアップにつながると私が考える訳を2つ説明します。

3.① 再現性の高さ→GKIQの向上(頭の成長)

 フットサルは5人で行なうスポーツなので「1vsGK~5vs5」の25通りの局面しかありません。故にフットサルでは局面ごとの技術や戦術、プレーモデルがサッカー以上に整理されています。語弊を恐れずに言えば「(局面の構造を)知ってれば守れる」ということです。その「知る」というのが認知決断の速さにつながり実行のストレスを下げるのです。逆に能力があっても「知らない」から守れないという場面はこれまで死ぬほど見てきました。
 局面の構造を知って守る。そしてその場面が1試合通して複数回起きる。1年やれば数えきれないほど同じ局面に遭遇する。成功体験が何度も得られるのは再現性の高いフットサルならではだと思います。もちろん、それは表面的な「形」の話ではなく、「ゴールスポーツの目的」と「ルール」をかけ合わせた「原理原則」の理解から始まるものなのでどう考えても「フットボールIQ⇒ゴールキーパーIQ」は高くなります。

3.② 時間的/空間的なシビアさ→被シュートへの心理的負荷の軽減(心の成長)


 サッカーが105m×68mのピッチと16.5mのペナルティエリアでプレーする一方、フットサルは40m×20mのコートと6mのペナルティエリアでプレーをします。ゴールとゴールが近い分、常にシュートを打たれる可能性はありますし、実際0-0で終わる試合はほとんどありません。
 さて、サッカーのGKや指導者が「(シュートを)打たせるな!」と自陣ゴール前のDFに叫び狂っているのはよくある光景です。もちろん「シュートを打たれなければ失点しない」という考え方はよくわかります。しかしよほどの実力差がなければ現実的ではありません。被シュート0で終われる試合がどれだけあるでしょう。(フロンターレですらシュートは打たれます。)
しかし【打たせるシュート】と【打たれるシュート】の違いを理解していればそのような被シュートへの恐怖心は取り除けます。(元々はハンドボールのGKから教わった考え方です。)

【打たせるシュート】=守備側が(だれが・いつ・どこで)シュートするかをコントロールする。(受動)
【打たれるシュート】=攻撃側が(だれが・いつ・どこで)シュートするかをコントロールする。(誘導)


 普通にサッカーをしていると時間的にも空間的にもシューターに余裕が多分にあるのでなかなか「打たせる」感覚というのは得にくいです。一方、そうした余裕が少ないフットサルにおいては「シュートを打たせる」ことはサッカーに比べれば容易なのです。当然、守備側が誘導した中で放たれたシュートが決まる可能性は限りなく低いです。枠を外れればそれはもはや「外させたシュート」になります。その理論と感覚を身に付ければサッカーにおいても被シュートを怖がる必要はなくなります。

4.2vs1+GKの局面を例に

 ではこれまでに説明した「GKIQの向上」と「被シュートへの心理的負荷の軽減」を「ネガトラ~2vs1+GK」の数的不利の局面で考えてみましょう。

 フットサルにおいてはよくある局面のひとつです。当然守り方のセオリーが存在します。(もちろん、シュートを打たせないのが最善ですが、それを言うと話が進まないので、シュートを打たせるという前提で。また、戦術的な細かいことや言い回しはテーマと関係ないのでフル無視したうえで)結論を言うと、GKは〈パスラインを遮断させて10m付近からのミドルシュートセーブ〉か〈パスを出させて6m付近でのブロッキング〉の2つから選択することができます。DFとうまく協力すれば自分の守りやすいシチュエーションで「シュートを打たせる」ことができます。特に、ブロッキングはサッカー以上にゴールを隠しやすく、相手との距離も近いので、数歩詰めるだけで効果的なブロッキングを発揮できます。(今年の作陽のゴレイロは相手がシュートモーションに入った瞬間に止めれることを確信し「オーレー!」と声が出てます(笑)そのうち痛い目にあえばいい(笑))
 

 サッカーで2vs1+GKの局面で「シュートを打たせる」のはかなり難しいことです。しかしフットサルでは「シュートを打たせて(も)守れる」のご普通なのです。要因は局面の戦術が整理されていることとコートが狭いことだと思います。そしてその経験をもってサッカーに戻るとフットサル未経験の時と比べれば格段に「守れそう」と思えるはずです。状況分析、コーチングの質、メンタルのコントロール、技術の発揮、全てにおいてもう一段上のレベルにいけると思います。
 


5.まとめ~余談3つ

 以上のことから、サッカーGKやサッカーGKの指導者はフットサルについて触れ学ぶべきだと私は思います。決して「ブロッキングがうまくなるから」フットサルをするわけではありません。それは副産物です。あくまで【頭】や【心】の成長のためにフットサルを経験すべきだと言っています。フィールドプレーヤーが【ハイブリッドフットボーラー】を目指すようにゴールキーパーも【ハイブリッドGK】を目指し、指導者も【ハイブリッドGKコーチ】を目指しましょう。


余談①~コーチ・監督のGK観~
 正直、自分の経験上、サッカーの指導者のGK観はフットサルの指導者の足元にも及ばないと思ってます。フットサルの指導者でGKを戦術に組み込まない人はいません。5人しかコート上にいないので攻守においてGKとFPの連動を要求する以上、GKのプレーに対してもしっかりとした考えを持って要求するのがあたりまえの世界です。一方、サッカーの指導者でGKを戦術的に組み込めている人はなかなかいません。非常に残念に思っています。専門的な技術指導は別としてもサッカーの指導者はもう少しGKについて考えないといけないと思います。

余談②~トレードオフ思考と確率論~
 フットサルの指導者はサッカーの指導者に比べて「これはやられてOK」という言い方、考え方を持っている人が多い気がします。【トレードオフの思考】とでも言うでしょうか。
例えば、「パス繋がれてもOK」「突破されてもOK」「シュートされてもOK」「○点までとられてもOK」など。どれも実際に公式戦で聞いた言葉です。もちろん、その言葉の前後や背景には条件(トレードオフと確率論)がありますが、サッカーをしていて「やられてもOK」というのはあまり聞いたことがありません。GKとしても、この「やられてもOK(やらせてもOK)」マインドを持っているのは精神衛生上良いことだと思います。

余談③〜第24回全日本フットサル選手権vsバルドラール浦安〜

 2年前の卒業式の翌日。幸せなことに作陽高校がF1所属のバルドラール浦安にガチンコ勝負を挑む機会がありました。今は天皇杯に高校生チームが出場することはできないので(女子の皇后杯は高校生チームも出場可)とても貴重な機会でしたが、その試合で感じたことが2つあります。

1つ目は(当たり前ですが、)やはりプロはレベルが違うということです。作陽のゴールを守ったGKも「ディドゥダ選手のシュートは今まで受けたことがない」と言っていました。2点目の宮崎選手のゴールは個人的には絶対に一生忘れられない失点です。1試合通して、しっかりプロの凄みを見せつけられました。
(この半年前の夏、代表関係者の方に「大学の1年間よりFリーグの1分の方が濃密」と言われたことがありましたが、バルドラール浦安との試合で、間違いないと思いました。)
2つ目は、プロ相手といえど【打たせたシュート】は止まる(外させられる)ということです。この試合、浦安は45本のシュートを記録しました。しかし、ベンチから見てても打たれる前に「ナイスゴレイロ!」と叫べるシュートもたくさんありました。FPと連携し、打たれてOKの状況を作ることができればFリーガー対高校生でも簡単に決められるものでもないというのは意外な発見でした。(エースの加藤竜馬選手を温存された上、バーやポストも味方につけたのに8点取られましたが笑)
何物にも変えがたい経験をさせてくれた生徒たちに感謝です。



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