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20210823 日記235 「子供はわかってあげない」の感想

日記の順番をヤクザ的にぶっちぎることになりますが、この映画の制作が発表された日から一緒に観に行こうと誓っていた友人と、感想を話しあうことが出来たので、先に出力しておこうと思います。

本当は去年の夏に公開予定だったのだけど、コロナ禍の影響で1年延期に。

前述の友人は、初めて出会った頃(もしかしたら、まだ直接出会う前だったかもしれない)に原作漫画を教えてくれた人で、受け取ったこの作品は、年に1度は必ず、ことあるごとに読み返すほど、私にとっては宝物のような作品になった。

大好きな漫画が実写映画化されるということ、俺はそこまでマイナスには捉えておらず、特にこの作品はセールスのために原作の知名度を借りるタイプの実写化ではなく、原作完結から5年以上経ったタイミングで実写化されることを奇跡のように感じていたので、発表があってからはワクワクとした気持ちしかなかった。

実際に観ても、いい映画だったな~~~と心から思う。

原作には「ほぼ面識のない生みの父親と過ごす夏休み」「新興宗教の現金持ち逃げ事件」という二本の幹があるのだけど、映画において、後者はばっさりカットされる形になった。

後者の要素、蛇足というワケでは全くなく、むしろ「子供はわかってあげない」という作品を語る上で非常に重要な要素の1つで、私が最も好きなセリフ(子供はわかってあげない下巻104p)が発されるのには、後者の要素が絶対的に必要でもあった。

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映画では、このセリフが語られることは無かったのだけど、言葉には語られずとも、間違いなく「誰かから渡されたバトンを次の誰かに渡す」ことを愛として描いた映画であったことが、一番嬉しかったことだと思っている。

映画に追加されたセリフとして「何でもかんでも映画化すればいいってもんじゃないからね」というメタ的な発言があり、この映画も、原作を完璧に再現した映画では無かったのだけど、だからこそ、映画という媒体でこの物語を表現し、届けるために、原作への愛とリスペクトを尽くした一作であったように思えたのだ。

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冒頭5分くらいガチのアニメーションから始まるのだけど、俺は原作と映画の予告編知ってたから良かったけど、周りの普通に映画観にきた人たち、入るスクリーン間違えたか不安になるだろ……と思って笑ってしまった。

しかも、この映画だけの追加要素であるKOTEKOのアニメーションが、演出としてかなり機能しており「新興宗教の現金持ち逃げ事件」を省いた上で、一本の映画として成立させるためには不可欠な要素となっている。

正直、この映画で富田美憂さんの声をこんなに聞くことになるとは思っていなかったし、何ならEDテーマまで歌っていて笑ってしまった。(富田さんのオタクは把握してるのか?)

上白石萌歌さんも存在感が抜群だった。

俺が以前に観た上白石萌歌さんの出演作が『未来のミライ』だったからというのもあるかもしれないけど、アニメの世界の人のような感覚があって、ガチのアニメーションからスタートする不思議な実写映画のヒロインとして、この上なく嵌まっていたと思うし、朔田美波という女の子の像自体が、いい意味で演者に引っ張られているところがあった。

あと、何といっても豊川悦司さん演じる藁谷友充さんね……。

原作と映画の最大の違いが、生みの親である藁谷友充さんのキャラクターと物語だったと思うし、ここにこそ、監督が描きたかった意味があるのかなとも感じた。

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豊川悦司さん、あたしンち2巻のイメージしかなかったので、アントニオ猪木みたいなガタイのいいオジサンが出てきた時、教祖にしては肉体派すぎるだろ……と笑ってしまった。

同時に、生みのお父さんと出会い、過ごした夏が、娘である美波に、誰かを愛する気づきと一歩を踏み出させただけではなく、お父さんもまた、娘との生活からバトンを受け取ったことが分かるものになっていたのが、非常に良かったと思う。

原作における藁谷友充さんは、超能力者であることが周囲に明確に認められており、どちらかというと与える側の人間、超越した人間として描かれている。(最後に整体師としてバトンを繋ぐことが示唆されているが)

反面、映画における藁谷友充さんは、新興宗教の教祖で超能力者という設定は残されたが、それが本当かウソかはどちらでもいいようになっていて、娘の美波も門司くんも、能力を信じている描写はなかった。

神様に近い存在として描かれた(ある意味では教祖的であった)原作に対して、映画は明確に人間として描かれており、それは豊川悦司さんのあまりの人間臭さ、あまりの寂しそうなパパ姿が生んだものであったとも感じている。

この映画のラストが『水泳』をする父のカットで終わったのは、血の繋がり以上に、娘から教えてもらった技術が、彼女と過ごした時間と繋がりを証明しているからなのだと思い、観終わった後に唸ってしまった。

とてもとても愛しい映画でした。ほぼ日に掲載されている田島列島先生のインタビューと2作目の連載作品である『水は海に向かって流れる』も超オススメです。


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