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20210525 日記145『くれなずめ』の感想

お休み。映画を観ました。(※以下ネタバレがあります)

例によって、後輩に「観に行きませんか?」と言ってもらった映画で、私が邦画を良く見るきっかけになった友人や、今年同じように映画を観ていたフォロワーさんも絶賛していて公開に気づいた。

最近、物事に対するアンテナを皆さんに頼りすぎているな……とやや反省している。

というのも、後輩に言われてキャスト陣をみたら、俺の中ではアベンジャーズのような布陣が揃っていることに気づいた。

顔が好きすぎてドキドキしてしまうのに演技も大好きになってしまった成田凌さん『アンダー・ユア・ベッド』で俺(俺ではない)を熱演した高良健吾さん『佐々木、イン、マイマイン』の独白の熱量が強く印象に残っている藤原季節さんらがメインキャストに名を連ねている。これはちゃんと己で気付いておくべきだったな………と思った。

正直、もうこの3人の演技が観れるだけで眼福(お前はマジでなんなんだ)だなと思って臨んでいたのだけど、それ以上に内容が凄まじく良かった。

ぶん殴られすぎて、終わった後「良かったね……」ではなく「ヤバかったな……」しか出なかった。

この3作は比べるものではないという前提があり、それは捉え方によって、どう『喪失』を描くのかが変質するのは必然のことで、この3作は、それぞれの視点から「いなくなった気がしない」誰かがいなくなったことを、誠実に描き切った作品だったからだ。

だから、3作全てが傑作で、全てにぶん殴られてきたのだけど、ちょっと『くれなずめ』に関しては衝撃だったと言わざるを得ない。

最近、中学時代の友人のところで髪を切っている。

彼も俺も30手前で、お互いに社会人としての顔を体得した上で話していて「お店に行くよ」って連絡する時、なんとなく業務連絡のニュアンスが混じってぎこちなくなってしまうのだけど、会うと中学時代のバカみたいな話しかしないし、共通の友人の近況とかを話しあったりしている。

『くれなずめ』も、6人はお世話になった先輩の結婚式の余興をやるために、5年ぶりに再会して、それぞれの現実で、それぞれの人生を生きているのだけど、6人になると学生時代のノリでバカ騒ぎをするという空気感の描き方が見事だった。

それでいて、ソースなんかは結婚して子供もいて、決して「あの頃が楽しかった」「あの頃が良かった」と、必ずしもノスタルジーに縋っているというワケではないというのも、かなり絶妙なバランス感覚だったと思っている。

6人は、また「あの頃」を取り戻すために、赤いふんどし一丁で踊っていたというのではなく「あの頃」が自分たちの中に確かにあることを反芻して、納得して明日からを生きていくために踊ったのだと思っている。

人間は二度死にます。一度目はその肉体が生命を終えた時。二度目は、その方のことを覚えている人が一人もいなくなった時。

主人公(?)の吉尾が作中で引用する永六輔さんの言葉なのだけど、終盤の畑で不死鳥となって復活する吉尾と、みんなが心臓を取り出して「肉体的な死を超えたぞ!」と叫ぶシーンにこれが対応していたように思う。

画的にはマジでバカなんだけど、肉体的な死を超越した6人は、その後、お花畑の空想の中で、吉尾を含めた6人で全力で赤フン一丁で踊ることで「二度目の死」をも超越したのだと感じた。

外からみたら「安い笑いでごまかしてる」と言われても、結婚式の空気をぶち壊しにしてしまっても、校庭の真ん中のメインステージで踊るソーラン節じゃなかったとしても、この6人だけにとっては、この先の人生で忘れることのないものとして刻み付けられたからだ。

あと、6人の他ではミキエも吉尾のことが見えて、6人の踊りもバカじゃないのと言いながら笑ってみていたのも、めちゃくちゃ良かったね……。

彼女も年忌にはお線香を上げにくるくらい、吉尾のことを覚えていながら、吉尾に子供の写真を見せて「幸せに暮らせよ!」と叫んで、勝手にいい感じのクライマックスを迎えようとした吉尾に対して「もう幸せに暮らしてるわ!」とブチぎれて、太陽の方へ歩いていった。

死を乗り越えるとか、受け入れるとか、そういうのではなくて、引きずりながら笑って今を生きている人たちの話だったんじゃないかなと思う。

それを映画として描くって、相当に繊細なバランス感覚が必要だと思っているのだけど、2回目の「トイレをすませた後に手を洗うのは、チンチンに失礼だから、最初に洗うべきなんじゃないか?」のくだりから、ずっと笑いながら泣いて観ていて、それがこのバランス感覚を描き切った証拠のようにも思えた。

暮れなずむという言葉は日が暮れそうでなかなか暮れないでいる様を示していて、くれなずめというというタイトルは「早く日ぃ暮れろや」くらいの意味だと思っている。

予告編でも「忘れてやる。思い出にするくらいなら――」というキャッチが出てくるのだけど、忘れてやるという言葉に込められた意味がくれなずめというタイトルそのものなのかなと思った。

ここの生々しさで引き込まれたまである。

私たちは滅多に人がこない校舎の隅っこの方で弁当を食べていて、偶然、同級生のイカついやつが通って「邪魔なんだけど」と言われて、すんません……ってなってしまったやつのことを思い出した。

メインの若葉竜也さん、浜野謙太さん、目次立樹さんもモチロン、城田優さん、前田敦子さんといったサブの演技も非常に光っていて、俳優さんが好きになる映画でもあったね……。

特に、前田敦子さんは俳優になってからの演技を見るのは初めてだったし、ある意味、巨大アイドルグループの元センターに求められる立ち位置とは離れた役柄だったように思うのだけど、本人に抜群にハマっているように思えて素晴らしかった。

個人的には、今年No.1を更新する映画でした。

演出面で拾うべき要素も非常に多かったと思うので、機会があったらまた観たいと思う傑作でした。

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