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【妄想】正平叔父さんの彼女


2年前に定年退職した元同僚の男性Kさんが職場に顔を出してくれた。
一緒に働いていた時は大変お世話になった方で、年賀状のやりとりはしていたのだが、お元気そうで何よりだ。

Kさんの印象を一言で言うならば、ズバリ、火野正平だろう。

自称ダニエル・クレイグ似のKさんだが、周りの意見は満場一致で「火野正平そっくり」だ。火野正平のほうがダニエル・クレイグよりいい(何が?)と思うのだが、本人はどうも納得いかないらしい。

火野正平といえば、私の中で印象深いのが、以前書かせていただいた記事『もしも芸者が弁護士だったら』で取り上げた土曜ワイド劇場「京都の芸者弁護士」。
主人公の弁護士・藤波清香が夜は芸者となって悪事の証拠を集め、法廷に芸者姿で現れてしらばっくれている犯人を白状させるという、現代版遠山の金さんな2時間ドラマだが、火野はこちらで清香の同棲中の恋人・冬木多喜男を演じている。

冬木はフリーカメラマンだが、実質、清香のヒモ。
弁護士である清香の調査活動に協力し、証拠写真を撮ったりして清香から小遣いをもらっているダメ男なのだが、お調子者でどこか憎めない人物だ。
火野正平のかわいくて飄々としたキャラクターが実にはまっている。

さらに、40代以上の方はご存じのことと思うが、火野正平と言えばプレイボーイ。プレイボーイといえば火野正平。
子供の頃、火野正平が数々の女優と浮名を流し、リポーターに追いかけまわされている姿をワイドショーでよく見たものだった。

Kさんのオシャレなスーツの着こなしはなかなかダニエルだが、火野正平のほうがモテると思うよ、Kさん!




Kさんが帰った後、職場のマリー・アントワネットこと木村さんと、火野正平の話になった。

「私、テレビはNHKしかみないんですけれど……💛」

――ええ、ええ、アントワネット様のことですもの、そうだと思いましたわ。

「今、火野正平さん、自転車で全国を走っているんですよね💛」

――えっ、火野正平が自転車で全国を?

「ええ、そうなんですよ。BSプレミアムの『こころ旅』っていう番組で、お手紙に書いてあるところを自転車でたずねるんですけれど、途中で会う方々に大人気で💛」

――へえええーそうなんですかあー。

「テーマソングも歌っているんです。いい声ですよね💛」

――はい、私も火野正平の声、イケボだと思います!


そんなこと言われたら『こころ旅』、みたくなるじゃありませんか、アントワネット様。
  


で、みてみた。

正直、昔はなぜこんなに火野正平がモテるのか、さっぱりわからなかった私であるが、この番組をみて少しわかった気がする。
この人、本当に女性に愛があるなあと思った。
いや、女性にって言うと語弊があって、人にって言った方がいいのかもしれないが、行く先々で出会う人、特に女性たちに向ける興味津々でいて慈しみのあるまなざしがとても素敵なのだ。
ちょっと照れ屋さんなところも、イケボな関西弁も、時に子供みたいなところも、セクシーでとてもやさしそうなところも、すべてモテ要素。
魅力的な人だなと感じた。
これは絶対モテる。けど、子供にはこの魅力、わからないよなあー。


『こころ旅』をみて、私は火野正平が叔父さんだったらいいなと妄想した。
『男はつらいよ』の寅さんとおんなじで、親だとちょっと困るけど(ごめん正平さん)、叔父さんだったらこんなに楽しいことはないだろう………………。

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親戚が一堂に会する会するお正月の新年会。

私の叔父さん・正平は新年会に毎年違う彼女を連れてくる。
去年は色っぽいおばさん、その前はちょっとかわいい感じの美人だった。
「正平叔父さん、今年はどんな彼女を連れてくるんだろう……。」
ドキドキしながらも、ちょっと楽しみな私。

正平叔父さんは少し遅れてやってきた。
「ごめん、遅くなったな。」
振り返った一同は度肝を抜かれた。
正平叔父さんの後ろに立っているのは芸者姿の女性だ。
唖然とする親戚一同。

「こいつ、俺の彼女。」
「え、おじさんの彼女、芸者なの!?」
「清香でございます~よろしゅうに。」

やがて酔いのまわった親戚たちの前で、叔父さんの彼女・清香が扇子を持って踊り始める。
新年会は大盛り上がり。
しかし、正平おじさんが密かに親戚の一人とその連れの写真を撮っていたことを、私は知っている……。

正平叔父さんの彼女が実は弁護士であったことを知るのは、その親戚が証人として出廷した法廷でのことであった………………。





な~んちゃってな!

(敬称略)