ショートショート 「面接」

面接官 「それでは面接を始めさせて頂きます」

2人  「よろしくお願いします!」

面接官 「えー、事前に説明した通りですが、今回採用となるのは、お二方の内1名のみとなります」

2人  「はい」

面接官 「採用となった場合は、最低勤務期間6か月以内となります」

大沼  「最低勤務期間?」

面接官 「簡単に言えば、最低でも6か月は働いて頂くということです。特別な事情がない限り、6か月以内にやめることは出来ません」

2人  「分かりました」

面接官 「それでは今から質問をさせて頂きますので、正直にお答え下さい」

2人  「はい」

面接官 「まずは、この警備の仕事に応募した理由は何ですか?」

大沼  「警備の仕事に興味があったからです」

前村  「このビルは複合ビルということで、高校生も大勢利用するので、防犯カメラで女子高生をたくさん拝めると思ったからです」

面接官 「なるほど…大沼さん30%、前村さん70%」

大沼  「あの、今の30%とかっていうのは…」

面接官 「どちらを採用したいか数値にしているんです。最終的にパーセンテージの大きい方を採用させて頂きます」

前村  「なる程、現時点では私の方が優勢というわけですね」

面接官 「そういうことです」

大沼  「ちょっと納得いかないんですが…」

面接官 「何故でしょう?」

大沼  「前村さんの応募理由が70%というのは…」

面接官 「正直にお答え下さい、そういうことです。それでは次の質問です。支店長の名前は分かりますか?」

大沼  「あっ…分かりません」

前村  「分かりません!」

面接官 「大沼さん20%、前村さん80%」

大沼  「え?ちょっと待って下さい」

面接官 「どうかしましたか?」

大沼  「今は2人とも『分かりません』って同じ答えでしたよね?なのに何で僕が10%減って、前村さんが10%増えてるんですか?」

面接官 「前村さんは『分かりません』とはっきり答えたのに、大沼さんは最初『あっ…』と言葉を詰まらせましたね?」

大沼  「はい…」

面接官 「私の質問に正直にお答え頂いているのであれば、すぐに答えられるはずです。言葉を詰まらせるということは嘘をつこうとしている可能性がある、私はそう判断致します」

前村  「なる程、嘘をついたら減点される訳ですね」

面接官 「その通りです」

大沼  「でも言ってることが本当か嘘かなんて分からないじゃないですか」

面接官 「先程も言いましたが、正直にお答え下さるならば、すぐに答えられるはずです。それでは次の質問に参ります。夜勤をして頂くことになりますが宜しいでしょうか?」

大沼  「はい」

前村  「はい」

面接官 「大沼さん20%、前村さん80%。次の質問です、趣味は何ですか?」

大沼  「特にありません」

前村  「用事もないのに駅に長時間居座って女子高生を眺めることです」

面接官 「大沼さん20%、前村さん70%…」

前村  「え?」

大沼  「それだと2人合わせても90ですよ…」

面接官 「どちらも不採用10%」

前村  「ちょっと待って下さい、そんなのありですか?」

面接官 「当然、私がどちらも相応しく無いと判断すれば、どちらも不採用となります」

大沼  「でも、2人とも不採用のパーセンテージを1番大きくしなければいいだけの話ですよね?」

面接官 「もちろんそうです。次の質問に参ります。大沼さんも、前村さんもまだ30代前半とお若いですが、本当にこの職業について大丈夫でしょうか?」

大沼  「と言いますと?」

面接官 「警備員というのは、定年退職した方など、他の業種と比べて比較的高齢の方が就く仕事です。もう働く必要はないが、ちょっと小遣い稼ぎに…という方でなければ納得のいく給料ではありません。正直な話、ここの給料は月13万程度です。それでも宜しいでしょうか?」

前村  「はい!」

大沼  「はい」

面接官 「大沼さん20%、前村さん70%、どちらも不採用10%。それでは次が最後の質問です。…大沼さん、前村さん、そろそろお気づきでしょうか?」

2人  「「え?」」

面接官 「私の顔をよくご覧下さい」

2人  「「…」」

面接官 「この顔に見覚えはございませんか?」

大沼  「え?…」

前村  「…ん?」

面接官 「どちらも不採用100%」

2人  「え?…」

大沼  「あっ!あー、そういうことか…」

前村  「…え?どういうこと?」

面接官 「私の質問に正直にお答え下さるならば、すぐに答えられるはずです。言葉を詰まらせるということは、嘘をつこうとしている可能性がある…私はそう判断致します」

前村  「あ~、引っかかった…」

面接官 「引っかけたつもりはございません」

大沼  「やっと仕事見つけたと思ったのに…」

面接官 「他に良いお仕事が見つかるよう、願っております」

前村  「いい職場見つけたと思ったのに…」

大沼  「不採用は残念ですけど、楽しい面接でした。ありがとうございました」

面接官 「お疲れ様でした…と普段ならなるところですが、もう一度チャンスを差し上げましょう」

大沼  「本当ですか?」

前村  「ありがとうございます!」

面接官 「それでは、これが最後の質問です。正直にお答え下さい」

2人  「「はい!」」

面接官 「実は採用となった場合の勤務は、このビルの警備員ではなく、この近くの市立病院の夜警として勤務して頂くことになります。それでも宜しいでしょうか?」

前村  「そうなんですか?」

面接官 「はい」

前村  「すみません、それならお断りしても宜しいでしょうか?」

大沼  「…」

面接官 「前村さん100%」

前村  「え…?あ~、またやってしまった…」

大沼  「いや~、前村さん、おめでとうございます!」

前村  「引っかかった~」

面接官 「大変残念ですが、大沼さんは今回ご縁が無かったということで。他に良いお仕事が見つかるよう願っております」

大沼  「今日は面接ありがとうございました。これ以上お邪魔しては悪いので、これで失礼致します」

面接官 「お疲れ様でした」

前村  「くそ~」

面接官 「それでは前村さん、これからよろしくお願い致します」

前村  「騙しやがって~!」

面接官 「最低勤務期間6か月以内ですので」

前村  「忘れてた~」

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