ショートショート 「compare」

「お待たせ致しました。レモンティー飲み比べセットです」

 この喫茶店に入るのは初めてだ。
 店の名前は『compare』 
 読み方はコンペア。“比べる”という意味らしい。

 何故この店に入ろうと思ったのか分からない。ただ、何となく。客は俺以外居ないようだ。

 そんなことより、目の前に置かれた3杯のレモンティー。1つは青いストローが、1つは赤いストローが、1つは紫のストローがささっている。

 「青いストローのは、ある男性店員が作ったレモンティー。赤いストローのは、ある女性店員が作ったレモンティー。紫のストローはある男性店員と、ある女性店員が2人で作ったレモンティーとなっております」

 俺は小さく頷いた。

 「ごゆっくりどうぞ」

 そう言うと、女性店員は足音をたてず静かに去っていった。整った顔をした綺麗な女性だった。見た感じ20代前半だろうか。名前が気になったが、ここの店員は全員名札を付けていないらしい。さっき注文を取りに来た男性店員も付けていなかった。個人的に名前を聞くのはマナー違反だろうか。
 …もしかしたら赤いストローがささったレモンティー、これはあの店員が…
 普通だったら店員は、ホール担当と、厨房担当に分かれるだろうが、どうやらこの店は違うらしい。壁に貼ってあるバイト募集の紙に
『ホール(接客)と厨房(料理)どちらもできる方募集』
と書いてある。つまり、このレモンティーをあの綺麗な女性店員が作った可能性も十分ありえる。

 早速赤いストローに口をつけた。普通に美味しいレモンティーだ。市販のペットボトルで売られているレモンティーより甘さが控えめで、俺好みの味だ。食レポで『上品な味』と表現される味かもしれない。

 次は青いストローに。飲んだ瞬間面白いと思った。さっきのと味がまるで違う。滅茶苦茶に甘かった。医者が飲んだら激怒するんじゃないか、そんな味だった。

 おそらく、この店には飲み物や、食べ物を作る際のマニュアルが無いのだろう。でなければ、ここまで味に差が出るわけがない。
 そういえば、テーブルの上には砂糖などの調味料が置かれていない。店員が作った味を楽しんで欲しいということか。

 最後に残ったのは紫のストロー。
 飲む前に味の想像をしよう。これは、甘さ控えめのレモンティーを作った女性店員と、糖分過多レモンティーを作った男性店員が一緒に作ったものだ。ということは、単純に考えればその中間の甘さということになる。赤と青の中間…おそらく、ペットボトルで売られているレモンティーくらいの甘さ。そう見た。

 「どれ、答え合わせ」

 紫のストローを吸う。思わず笑ってしまった。予想通り過ぎて。
 面白い。違う日に来て、同じくレモンティー飲み比べセットを頼んでも、今日と同じ味が3つ出てくる訳ではないのだ。
 こうなると他のメニューも気になる。

「すみません」

 ちょうど良く店員が近くにいた。不細工な男性店員が。控えめな声で呼ぶ。

 「はい…」

「注文いいですか?」

「はい、どうぞ」

「えーっと、カレー食べ比べセットと、グラタン食べ比べセットお願いします」

「カレー食べ比べセットと、グラタン食べ比べセットですね」

「はい」

「かしこまりました。少々お時間いただきます」

「はい」

    ぼろぼろのスニーカーを履いた不細工な男性店員、店長は注意しないのだろうか。肌荒れもひどい。オマケに睨んでくるような目つき。不快だ。喫茶店であんな店員見たことがない。
    喫茶店の店員は容姿で採用、不採用が決められると聞いたことがある。あの男性店員は間違いなく不採用側の人間だろう。面接をした店長からすれば、あの人はイケメンの部類に入ると言うのか、それとも容姿の整った店員とそうでない店員の見比べをさせられているのか。

    赤いストローを吸いながら失礼なことを考えていた。青いストローのレモンティーは飲む気がしない。申し訳ないが残すとしよう。
    …もしかしたら、この糖分過多レモンティーはあの男性店員が…そう考えたら余計飲む気が失せた。たしかに不健康そうな見た目をしていた。あの肌荒れも、糖分過多からくるものだろう。

    軽く店内を見渡してみる。目視で確認出来たのは、男性店員が3名、女性店員が4名。厨房の方に数人いるとすると…男女それぞれ6~7名はいるだろうか。
    俺は誰が作ったカレーと、グラタンを食べることになるのか、そう考えるだけで心が弾んだ。

「お待たせ致しました。カレー食べ比べセットです」

 客が俺しかいないせいか、注文から到着までが早い。

     持って来てくれたのは、“女性”というよりは“女の子”と呼ぶのが正しいくらい小柄で、童顔の店員。ランドセルを背負っていても何ら違和感は無いだろう。むしろお似合いだ。

     目の前に3皿のカレーが並べられる。当たり前だろうが、全部小盛り程度だった。そして思った通り青と、赤と、紫のスプーン。どれも普通のカレーだが、青のスプーンのカレーだけやたらと肉が多いのがはっきり分かった。

「それでは説明させて頂きます。紫のスプーンのは、両親がいる家庭で育った店員が作ったカレー」

「え?」

     さっきと違う。今回は家庭環境だ。となると、青と赤のは…ちょっと複雑な気分になった。

「どうか致しましたか?」

「あ…い、いえ…」

「それでは説明を続けさせて頂きます。赤のスプーンのは、母子家庭で育った店員が作ったカレー。青のスプーンのは、父子家庭で育った店員が作ったカレーでございます」

「分かりました…」

「ごゆっくりどうぞ」

  レモンティーは“性別”、カレーは“家庭環境”での味の比べ。グラタンは何なのか。

 真ん中に置かれたカレーを、赤いスプーンでがっつく。大きめに切られたじゃがいも、これが大好きだ。そして、スパイスを感じさせない甘口のルー。自分が作るカレーにそっくりな味だった。

 自分も母子家庭で育った。父は、自分が2歳の時に癌で亡くなったらしい。父の顔は知らない。父が写っている写真もない。大の写真嫌いで一枚も写真を撮らせてくれなかったらしい。俺も写真を撮られるのが嫌いだ。父に似たのだろう。父さんの顔は知らなくても、母さんと楽しく暮らせるだけで十分だった。
 高校を卒業したら就職するつもりだった。それを母に告げると
『あなたの為の貯金くらい有るわよ』
と大学まで入れてくれた。
 母子家庭にしては、比較的不自由無い生活をしていたと思う。勿論貧しさを感じる時も多々あったが、小学生のときテレビで“一人親家庭の現実”という番組を見たとき俺は子供ながらに衝撃を受けた。他の一人親家庭の家はこんなに貧しい生活をしているのかと。自分は恵まれていると思った。そして、それは母の苦労があるからだと。沢山具の入ったカレーを食べられるのは、母のお陰だと。
 俺は、早く母に恩返しをしたいと思った。母には、無理をしてまで働いてほしくなかった。俺の為ではなく、自分の為に生きてほしいと。その為には、早く就職する必要があった。だから大学に進学するつもりはなかった。というか、無理だと思っていた。しかし、母は…
  俺は泣いた。生まれて初めて感謝の涙を流した。そんな俺を見て母は
『泣くほど感謝される覚えなんてないわよ』
と。余計に涙が出た。
 数年前の比較的新しい記憶だが、懐かしく感じた。

 真ん中の皿は、いつの間にか空になっていた。
 …このカレーを作ったのは誰だろうか。自分と同じ境遇で育った人が作ったカレー。高級レストランの様に『シェフを呼んでくれ』といったシステムが喫茶店にもあればいいのに。

 青いスプーンで肉を掬った。父子家庭の人が作ったカレー。これを作った人も、一人親という点では自分と一緒だ。
 一人親家庭で育った人は、“母子家庭”や“父子家庭”という言葉を聞くと複雑な気分になる人も少なく無いだろう。自分もそうなってしまう。今は特にそうだ。今、この喫茶店にいる店員はおそらく十数名、多くはない。そんな少人数の中に、一人親家庭で育った人が少なくとも2人はいるということだ。漠然とした何かが胸を衝いた。

 それを誤魔化すように、青のスプーンにかぶりつく。口いっぱいに頬張る豚肉の重量感。スプーンで少しカレーを混ぜてみたが、具は肉しかないようだ。
 おそらくだが、これを作ったのは男性だろう。そして、姉や妹はいない。男しかいない家庭で育った人だ。だから、こんな肉肉しいカレーが普通となった。我ながら、素晴らしい推理だ。

「お待たせ致しました。グラタン食べ比べセットです」

 肉を頬張っている間にグラタンが届けられる。
 さっきのランドセルが似合いそうな店員。グラタンを3つ並べた。

「それでは説明させて頂きます。黒のスプーンのは、ある男性店員が幼少期のトラウマを思い出して作ったグラタン。白のスプーンのは、ある男性店員が普通に作ったグラタン。黄色のスプーンのは、ある男性店員が自分の未来を想像して作ったグラタンでございます」

「…」

 その時の俺は、相当変な顔をしていたのだろう。女性店員が俺の顔を見て恐る恐る聞いてきた。

「何かご不満がありましたか…」

「あ、いや、大丈夫です…」

 その言葉に安心したのか、女性店員に笑顔が戻った。

「それではごゆっくり…」

「あ、あの…」

「はい?」

「これって、3つとも同じ人が…」

「はい!“感情”での味の比べとなっております。楽しんで頂けるかと」

「『トラウマを思い出して』とかって言ってたけど、どうやって?」

「催眠術でちょちょっと」

 こんな可愛いらしい人から、こんな恐ろしい言葉が出てくるとは…

「他にご質問はございますか?」

「いえ…」

「ごゆっくりどうぞ」

 俺は、カレーを食べる気も、グラタンを食べる気も無くなっていた。あったのは、ショックだけ。
 黒のスプーンが添えられたグラタン皿は、空っぽだった。
『幼少期のトラウマを思い出して』
…どんなトラウマがあったのか。

 黄色のスプーンが添えられたグラタン皿、こちらも空っぽだった。
『自分の未来を想像して』
…自分の未来に何を見たのだろう。

 白いスプーンが添えられたグラタン皿には、肉がてんこ盛り入ったグラタンが。おそらく、いや、確実にこのグラタンを作った店員と、俺がさっき青いスプーンで食べたカレーを作ったのは同じ人だと思った。

 紫のストローを吸う。今の自分には、このレモンティーですら重く感じる。目の前に置かれた誰かの暗い過去と未来。何の変哲もない空のグラタン皿だが、そこには黒々とした何かが盛られているような気がした。

「お口に合いませんでしたか?」

「え?」

 急に話しかけてきたのは、さっきの不細工店員。

「手が止まっておりましたので、つい」

「い、いや、そんなことないですよ」

 『そんなことで話しかけるな!』という言葉を飲み込み、グラタンを無理矢理口に詰め込んだ。

「◎△$!●¥〇」

 『とても美味しいです』そう言ったつもりだか、頬張り過ぎて訳の分からない言葉になってしまった。たまたま近くにいた、レモンティーを運んでくれた綺麗な店員に笑われてしまった。こいつのせいで恥をかいてしまった。

「ごゆっくりどうぞ」

 相変わらず鋭い目つきでそう言うと、腕を大きくふりながら厨房へ消えていった。綺麗な女性店員は、まだ俺の方を見て笑っていた。笑いながら近づいてくる。

「ごめんなさい、あいつちょっと変ですよね」

「そうですね、ちょっと」

「このグラタン作ったの、あいつなんですよ」

「え?」

「良かったら、グラタン2つお作りしましょうか?」

「いや、大丈夫です。お気持ちだけ…」

「そうですか、ごゆっくりどうぞ」

 あの店員の料理を食べたい気持ちは山々だが、食事が喉を通らない。そして、あの店員にどんな過去があったのか。聞きたいような、聞きたくないような。
 そんなことを考えていると、ドシドシと激しい足音が聞こえてた。音がする方を見るとあの店員。片手に大きな皿を持ってこっちへ向かってくる。

「こちらサービスです」

 皿を置いてすぐ去っていく。皿には、てんこ盛りの肉…

「あ、あのー、お兄さーん!」

 勝手なことをする店員を呼び戻そうとするが、聞こえていないのかまた厨房へ行ってしまった。その代わりに今度は、ランドセルが似合いそうな店員が。

「すみません、ご迷惑をお掛けして…」

「いえ…」

「こちらお下げしますね」

「お願いします…」

 あの不細工店員は何がしたいのか。サービスしてくれる気持ちは嬉しいが、サービスの形を考えて欲しい。まともな店員と、変な店員の接客の違いを楽しませているのだろうか。この店ならありえると思った。全く楽しくはないが。

「ごめんなさいね、またあいつがまた迷惑かけちゃったみたいで」

「え?あっ、い、いや、迷惑だなんて、そんな…」

 ボーっとしていると、目の前には俺が一目惚れした女性店員が。また話しかけてくれた、嬉しい。

「あいつ嬉しかったんでしょうね。自分が作ったグラタンを、お兄さんがあんな豪快に食べてくれて」

 嬉しいのは分かるが、だからってあのサービスは…

「気づいてるかもですけど、さっきお兄さんが青いスプーンで食べてたカレーもあいつが作ったんですよ」

「そんな気はしてました。よっぽど肉が好きなんですね」

「好きというか…憧れですかね」

「憧れ…?」

「あいつ父子家庭で育ったんですけど、父親がろくでもない人間で、ご飯もまともに食べさせて貰えなかったらしいんです。何か、毎月離婚の慰謝料を払うので給料が殆ど持っていかれてたらしくて。それに、一人暮らし始めるまで給食以外で肉食べたことないらしくて」

「…」

「だからって、お客さんに沢山肉を食べて欲しいなんておかしいですよね。肉しか具が無い料理なんて。お下げしましょうか?新しいのお作りします」

  また、お姉さんの料理を食べられるチャンスが…

「…いえ、大丈夫です」

 なぜチャンスを無下にする様なことを言ってしまうのか、自分でも理解出来ない。

「優しいんですね、ごゆっくりどうぞ」

「はい…」

 別に“優しさ”で食べる訳ではない。あの過剰なサービスは迷惑だ。それに、客にこんな適当な料理を出してくるなんて、雇う側にも問題があるだろう。
 ただ、この料理を粗末に扱うことは出来ない、そう思った。もちろん、どんな料理も粗末に扱うことは許されない。しかし、この料理は特にそうだと思った。

「無理して食べなくても大丈夫ですよ」

「え?」

 グラタンを眺めていると、1人の男性店員が話しかけて来た。

「あぁ、急にすみません。山中と申します」

 山中と名乗った爽やかなイケメン。声も聞き心地のいい声だ。

「あいつ、いつもこんな料理出すんですよね。多分ですけど、その青いストローのレモンティー、滅茶苦茶に甘いでしょ?」

「はい、やっぱりあの人が?」

「そうです。何杯も砂糖入れやがって…後でガツンと言っておきます」

「あ、いやそんな…大丈夫ですよ」

「あいつ俺の兄貴なんですよ」

「え?」

「あ…“なんですよ”と言うか、“らしい”んですよ」

「らしい?」

「えぇ。2歳の時までは一緒に暮らしてたってお母さんが言ってたんですけど、離婚して別々になったって。あんな奴が兄貴なんて信じたく無いですけどね…あぁ、すみません、こんな話…」

「…もしかして、この“母子家庭で育った店員が作ったカレー”って」

「あぁ…自分が作りました。お口に合いました?」

「とても美味しかったです。僕が普段作るカレーにとても良く似た味でした」

「そうでしたか」

「あ、このグラタンとカレーはちゃんと食べます。作ってくれた貴方のお兄さんに悪いし」

「…そうですか、ごゆっくりどうぞ」

 爽やかな店員は、軽い足取りで厨房へ戻っていった。自分もあれ位スマートに動ける様になりたい、そんなことを考え爽やかお兄さんの後ろ姿を見ていた。
  しかし、あの不細工店員と爽やか店員が兄弟とは驚きだ。他の店員は知っているのだろうか。

「どうみても他人だもんな…」

 ふと厨房の方を見ると、あの爽やか店員が中年の男と喋っているのが見えた。中年の男は、他の店員とは違う色の制服を着ていた。店長だろうか。眺めていると、こちらの視線に気づいた様で軽くお辞儀をしてきた。

「どうも…」

  聞こえないことは分かっているが、小さい声でそう言いながらお辞儀を返した。店長らしき人はニターっと気味の悪い笑顔を見せた。



「山中君どうだ、羽柴君は気づいている様子はあるか?」

「いいえ、有りません。カレーが、“自分の作る味と似ている”とか言ってましたけど、大丈夫でしょう。まさか、本当に自分が作ったカレーとは思っていませんよ。それより、さすが森岡ちゃん!催眠術の天才!」

「へへっ、当然でしょ。まぁ、ちょちょっとやるだけだし、誰でも出来るよ」

「いやいや、あんなの千香ちゃんにしか出来ないよ!」

「ちょっと川島、その不細工な笑顔を美少女の私に見せるな。そして下の名前で呼ぶな」

「ごめんごめん」

「それより店長、何故こんなことを?」

「深い理由は無いんだけどね。ただ、羽柴君のプライベートが気になって」

「どういう事です?」

「ほら、羽柴君って飲みに誘ってもいつも断るでしょ?それに、いつも無口だし。だから、羽柴君はいつもどんな感じなのかなって気になってね。だから森岡さんに催眠術かけてもらって、客として来てもらったんだ。この店の記憶も消した上でね」

「店長、私にかかれば誰にでも催眠術かれられますので、いつでも言って下さいね」

「じゃあ、近い内また頼もうかな~」

「ちょっと冗談でしょ…止めて下さいね…」

「おっ、川島君。それはフリと捉えて良いのかな?」

「ち、違いますから!止めて下さい!」

「いいじゃん。そして、記憶を失った状態で弟である羽柴君とご対面」

「ちょっと山中君止めてって!本当に!」

「てかさ川島、お前いつになったら羽柴君に言うの。『俺はお前の兄貴だ』って」
 
「一生言わないよ。あいつのこと弟だなんて思ってないし。まぁ、悪いのは俺の父さんだって分かってるけど…ただ、あいつは父さんが払った慰謝料でいい思いしてたと思うと…だから、絶対俺が兄貴だってあいつに言わないで下さいね」

「またそんなこと言って…あんたもいい加減大人になりなよ」

「佐々木さん…」

「たしかに、羽柴君はちょっと無愛想な時もあるけど、でも優しい人だよ。あんたの作った料理残さず食べようとしてるし」

「…」

「まぁ、どうするかはあんた次第だよ」

「…」

 チーン

「おっ、レジで弟君がお呼びだよ。言ってきな」

「はい…」


「お待たせ致しました。2600円です」

「3000円からで」

「3000円お預かり致します。400円のお返しです。ありがとうございました」

「ごちそうさまでした」

「「「ありがとうございました!」」」

「そういえば森岡ちゃん、催眠術っていつ解けるの?」

「日付けが変われば解けますよ。だから、明日は普通にバイトに来ますよ。勿論、今日のことは全部忘れて、ね」

「どうするかは、川島君次第だよ」

「店長…」

「頑張れ!」



「お疲れ様です」

「羽柴…お疲れ」

「羽柴君、おはよう!」

「佐々木さん、おはようございます」

「お~羽柴君。元気出して、笑顔で、ね。頼むよ~」

「店長、近いです…」

「おっとごめんね、じゃあ今日もよろしく!」

「お願いします」

 羽柴は、トイレへ向かった。これは羽柴のバイト前のルーティンだ。それを見計らって、店長と佐々木は川島の元に集まる。

「川島君、頑張れ!」

「頑張れ~」

「はい…」

 2分程して羽柴はトイレから出てきた。川島は、待ち受けていたかの様にドシドシと羽柴の元へ駆け寄った。

「あ、あのさ…ちょっと話が…」

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