「優等生」Nico Hoernerのブレイク要因を探る
お疲れ様です、イサシキです。
MLBもトレードデッドラインが過ぎて早3週。ポストシーズン進出に向けて各地区のコンテンダーは日々熱い戦いを繰り広げています。
そんな中、「自称・Neutral運営」のシカゴ・カブスさんは相変わらず勝ったり負けたりで借金20前後をウロチョロ。同地区のレッズ、パイレーツと共に来季以降の巻き返しを期する立場となっています。
鈴木誠也の加入の影響もあってか、今シーズン良い意味でも悪い意味でも何かと話題になるカブス。それでも明るい話題が全くないわけではありません。
今回はその1つ、Nico Hoernerの覚醒について綴っていきたいと思います。特に現地メディアからの詳細な要因は語られていないので、推測の域からでないということは悪しからず。
Hoernerの詳しい経歴や成績などを知りたい方はこちらや引用元からご確認ください。
Q:Hoernerってどんな選手?
A:一言で述べるとすれば「俊足好打タイプ」の選手です。
2018年のMLBドラフト全体24位(カブス1巡目)で指名されたHoernerは、スタンフォード大時代から走攻守において堅実なプレーができる即戦力型のインフィールダーという評価を受けていました。
具体的には、打撃では優れたハンドアイから生み出されるアウトコースのボールを綺麗にライナーで打ち返す能力や木製バットへの適応能力、走塁面ではハイフロアーな盗塁能力、守備でもSS→2Bへのコンバートが確実と言われながらも生産性のある堅守といった部分だったと記憶しています。「2Bへのコンバート」という点は、この方(↓)がカブスのSSを担っていたという部分もあるかもしれませんね。
将来的には上位打線、即ちリーディングオフバッターとしての能力を兼ね備えて、走攻守における優等生選手になる見立てが立っていました。
(当時は現カージナルスのPaul DeJongとも比較されていたような気がしますが…)
但しこれは言い方を変えると、「良くも悪くもOverall50~55の選手になる」ということでもあり、「ハイフロアー」であっても「ハイシーリング」な活躍が見込めない選手評でもあった、ということになります。
アプローチ改革の敢行
ではここから今シーズンのHoernerの覚醒要因を考えてみましょう。
Ⅰ:スライダーへのアプローチが良くなった
今シーズンと昨シーズンでサンプル数が約2倍あるため一概には言えませんが、今シーズンのHoernerはスライダーに対して.356/.544/.432という素晴らしい成績を残しており、昨シーズンの.154/.192/.276からは考えられない数値となっております(※データは8月15日時点のもの)。
また、球種別のHardHit%もBreakingに対して18.4%→35.1%と大幅な良化を見せており、強くボールを叩けている証拠にもなります。
そしてwOBAは.230→.397、xwOBAは.260→.331と、まるで別人かのようにカモ球種にして好成績を残しています。
昨シーズンはコース構わず引っ掛けてサードゴロを量産していたのに…1年で人はここまで変われるものなんですね。
また、打球も今シーズンはLaunch Angleが10.4度と、昨シーズンの7.7度から比較すれば2.7度も上昇しており、Breaking系統の球種の同指標に限ってみれば、4.0度→9.0度と5.0度の打球角度上昇を果たしています。大体打球角度が10度くらいとなるとラインドライブよりやや低い打球になるため、今までグラウンドボールとなっていた打球を上げることによってヒットの確率が高まったということができそうです。
その象徴ともいえるシーンはこれじゃないかなあと思っていまして
こちらは現地8月10日の対ナショナルズ戦で放った第7号のホームランシーン。相手投手のJosiah Grayが投じたインコースへと抜けてくるスライダー気味のボールを、これでもかというくらい綺麗にレフトスタンドへと打ち抜きました。
実は筆者はこの打球に衝撃を受けまして。
というのも今までこんなに豪快なバッティングをHoernerが放ったところを見たことがなかったんです。ケース的にも2点ビハインドの7回、しかも先頭打者ということで、普段のHoernerだったら真っ先に出塁を狙いに行くバッティングをしていたはずですが…。ただ今シーズンはランナーなしで4本塁打を記録しているため、失投をミスショットにすることなく打てている部分に「優等生さ」を感じます。
Ⅱ:どこへでも打ち返せるようになった
図の指標を見ると、Pull%が昨シーズンの29.6%→33.8%に増加し、Oppo%が33.6%→28.6%へと減少しています。
今までは毎年のようにStra-Oppo間の打球割合が全体の約70%を占めており、何が何でもセンターから右方向に打ってやるぞという強い意志を感じるバッティングスタイルで、時にはそれが速球への差し込まれや変化球への過剰な対応につながっているようにも思っていました。しかし今シーズンはインコースに入ってきたスライダーを豪快に引っ張ってレフト方向へヒットを打つ姿や、アウトコース寄りのボールを左中間へと打ち捌く打席が増えてきており、明らかに昨シーズンとアプローチが変わったなあと思いました。
ⅲ:極端なK%とBB%の減少
元々コンタクトツールに優れているHoernerですが、今シーズンは一際そのK%の低さが目立ちます(14.7%→11.0%)。
が、なぜかそれと同時にBB%まで10%→5.3%と昨シーズンの約半分にまで低下しています。
これだけ見ると「お前はNick Madrigalか!」と大きな声で突っ込みたくなってしまいますが、球種別での様々なデータを見ていくと
まずストライクゾーン内の空振り率が昨シーズンより低下したこと。
BreakingとOffspeadの三振率が大きく低下したこと。
など、挙げればキリがないレベルでその要因データが出てきましたのでこの辺りでやめておきますが、どうもChase Rateはそこまでよくない割にはFastballのWhiff%が7.9%を記録していたりすることから、追い込まれたとしてもストライクゾーン内外関係なくバットに当てている部分がK%低下の一因にはなっているようです。
またBB%の低下も探ってみましたが、いずれも早いカウントからの早打ちが増加したというデータはなく、それぞれ例年並みのカウント別スイング%となっていることから、上記のコンタクトがインプレーになっている可能性が高そうです。現に今シーズンのBABIP.360は破格の数字でしょうし。
これでもやっぱりMadrigalから受けたものが大きかったんじゃないかなあとは思います。この2人はスタンフォード大の同級生であり、カレッジでも二遊間を組んでいた仲。お互い同じチームでまた野球の技術などに関する情報交換を行ったと考えるのが自然なようにも感じます。
全然SSも守れちゃった
昨シーズン途中にホワイトソックスからMadrigalを獲得したことによって、2022シーズンはSSとしての出場が増えたHoerner。当初はちゃんと守れるかどうかよりも、1年間怪我をしないかという不安から始まりました。
しかし、蓋を開けてみればそんな不安はどこへやら。今シーズンのOAAは同じSS内でMLB2位の11を記録し、DRSも10。まさかの球界屈指の指標を叩き出す活躍を見せております。ただUZR関係の指標は非常に平凡であるため、アウトにできる打球をしっかりアウトにすることができる選手と言えます。ここでも優等生ぶりがにじみ出ているというか何というか…。
上の図は打球処理をした場所におけるOAAの値で、主にSS周辺とシフトによる一二塁間のOAAにおいて優れていることを示しています。唯一SSの後方に青ざめたボックスがありますが、ここがHoernerのOAAにおける観点で「弱点」ともいえる部分、即ち「SS後方の打球処理」でしょう。
いずれにしても、Hoernerが1年間SSとして期待値を大幅に上回るシーズンを過ごしていることは非常にうれしい誤算です。きっとSimmonsも喜んでいると思いますよ!(なお)
Ex:監督やチームメートからの評価も抜群
Hoernerはドラフト当時から非常にメークアップに優れた選手という評価を受けていました。
これを間近で見てきたカブスの「BIGROSS」ことDavid Ross監督も非常に評価しています。また、同僚のIan Happは、「彼が次世代のカブスのリーダーとしての資質を自然と持っている」と評価し、同じく同僚のWilson Contrerasも「彼は長期にわたってMLBで活躍できる選手だ」と発言しています。
既にこれだけの高評価を得ているHoernerの今後の活躍、そして年々洗練されていくプレーがリグレーで見れると思うと、本当に楽しみで仕方ありません。
残りのシーズンに向けた課題
●直球へのアプローチを取り戻せるか
正直この1点に尽きるかなあと私は思っています。
昨シーズンは
と非常に相性の良かった球種ですが、今シーズンは
となっており、昨シーズンよりも成績が悪化しています(シンカーに限ってはめちゃくちゃ打ってる部類なので、フォーシームへの対応力でしょう)。ただし、wOBAが.275なのに対してxwOBAは.311と乖離が見られ、さらにフォーシームのHardHit%は全球種中トップの45.5%と、決して打球の質が悪いわけではありません。
指標上悪化していることや、今シーズンのスライダーへのアプローチが良化したことによって相手投手からフォーシームを投げられる割合も激増しているため、今後もフォーシームを軸としたFastball系統の配球を続けてくる可能性は高いと思いますので、ここを何とか乗り越えてほしいというところです。
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