新人漫画原作者が1年間の連載を終えて学んだことと、今面白いWEBTOON3選
集英社のアプリ・マンガMeeにて2023年1月からスタートした漫画『死にたい人妻と溺愛強盗』。本作の原作&シナリオを担当しておりましたが、おかげさまで全60回で最終回を迎えることができました。現在は全話無料チケットで読める仕様となっています(※一定期間が過ぎると一部課金制になる可能性があります)。
読んでくださった皆様、応援してくださった皆様、本当にありがとうございました!
自分にとって初の商業漫画連載、しかもWEBTOON(タテカラー)でしたが、学びと楽しみだらけの全60回でした。このような機会を与えていただき感謝しかありません。
せっかくなので、この経験で感じたことを書き留めておきたいと思います。
連載前の経緯
https://note.com/girliennes/n/nab3ae91c0f99?sub_rt=share_b
連載3か月目での感想
https://note.com/girliennes/n/n0f7bbab22954?sub_rt=share_b
1.スタジオ制は映画制作に例えるとわかりやすいかもしれない
本作はスタジオ制で制作しており、各パート(6部門)ごとに担当者がいます。各パートの仕事内容は、映画制作に例えるとちょっとわかりやすいかもしれません。
①シナリオ…脚本
②ネーム…演出、カメラ
③線画…役者
④人物着彩…ヘアメイク、衣装
⑤背景…美術
⑥仕上げ…ポストプロダクション
シナリオが脚本担当というのはそのままですね。
ネームは「どう撮るか」「どう見せるか」を決定する、作画チームの頭脳的存在。
線画は役者、これぞ作品の顔、漫画の印象を左右します。
シンプルな線画に色を乗せて一気に立体的にしてくれるのが人物着彩です。美術的な役割も担っています。
背景はリアリティや世界観、奥行きを担保する、縁の下の力持ち。
仕上げのポストプロダクションとは、映像制作においては素材の編集、CG処理、効果音などの作業を指します。WEBTOONにおいても、カラーリング、調整、効果など、まさに「仕上げ」を一手に担います。
映画と違うのは、「監督」がいないことかもしれません。しいて言うなら担当編集かなと思いますが、私が感じた限りでは、どちらかというと「統括プロデューサー」的な立ち位置ととらえています。
シナリオ担当として、セリフや動きだけでなく、イメージする演出や背景の指定、キャラクターのファッションなどもできるだけ具体的に書きこむようにしていました。それらがすべて採用されるわけではなく、尺の都合でカットされたり、時にはアレンジされて「あら、思っていたのと違った」となることも、なかったわけではありません。どうしても譲れない点に関しては、その理由も含めてきちんと指示する必要があると感じました。
ただチームでつくる以上は避けられないことであり、特に私は漫画に関しては一番素人だったので、「漫画だとこうなるんだ!」といい意味で驚かされることのほうが断然多かったです(今回はあくまでスタジオの中の「シナリオ担当」という立場であり、一般的な原作者とは権利やポジションが異なります)。
またセリフに関しては、担当さんがしっかり大事にしてくださり、ほぼ変更なし(修正の場合は事前に相談)で進めてもらいました。
特に印象的だったのは、37話「離婚してください」のラスト。
虐げられてばかりいた主人公・礼が、モラハラ夫に正面から向き合い、新幹線の中で離婚を切り出す重要なシーンです。
シナリオでは以下のように書いていました。
それがこのように描き起こされていきます。
仕上げを経て最終的にはこうなりました。
シナリオでは「事象の背景」として書いていた箇所が、見事に漫画的に表現されて、とても印象的なシーンになっていました。コメント欄にも「今までは長い髪と一緒に雅一郎さんの好みだったり、手の内にいた礼さんが、髪を切ったことで今までとは違う、掴めないし手の内におさめられないって描写なんじゃないか」と書いていただき、伝えたかったことが伝わっている…!と感動しました。
2.各話のタイトルと作者コメントが楽しかった
各話のタイトルは私に一任していただきました。なんという自由度の高い現場! 漫画編集者にも憧れていたので、タイトルを考えるのはとても楽しかったです。
読者の興味を引くタイトルはなんだろう?と考えながら頑張ってつけました。キャラのセリフを使うパターンが割と多かったです。特にお気に入りなのは45話の「流氷…流氷…!」ですね。何でもあり!
好きな小説や楽曲から引用したものもあります。36話「君の知らない物語」はsupercellの楽曲から。
復讐と初恋がごちゃ混ぜになりながら、孤独に礼をずっと見つめていた美希生の過去を描いた話だったので、これしかない!と思っていました。線画の綾尾幻先生にも好評で嬉しかったです。
またマンガMeeのアプリでは各話最後に「作者コメント」が掲載できるのですが、本編がシリアスなので、作者コメントではクスッと笑える話や裏話を書くことを心がけておりました。26話の「粉雪」ネタ、42話の風邪ネタなど、コメント欄でたくさん拾ってもらえてよかったです。
3.WEBTOONはまだ特殊で限定的、でもいろんな可能性がある
連載が終わり、今は次回作のシナリオを鋭意作成しております。次回作はWEBTOONではなく、一般的な横読み漫画で、サスペンスではなくラブコメになる予定なのですが…やり方が全然違って、また一から勉強のやり直し状態です。
実際に両方を執筆して、比較して改めてわかったことですが、WEBTOONは
・主人公目線で物語が進行する、他の目線は入れにくい
・1話の情報量自体はそんなに多くなくていい
・でも話が進んでないと満足度が低い。そして、とにかく次話に引っ張る工夫が大事
が大きな特徴だなと感じました。
次話に引っ張る工夫には、韓国ドラマを大いに参考にしました。19話ラストではムダに階段から人を落としたりしました。
奈落の底に落ちたかのような描写ですが、無事です。余談ですがこの平賀というキャラは本作の良心的存在で、主人公とのシスターフッド的なつながりも描けて、非常に思い入れがあります。
もうひとつ、連載中から感じていたWEBTOONならではの特徴は、宣伝の難しさ。横読み漫画はTwitterなどで拡散されやすいですが、WEBTOONはスクショしたときの情報量が少なく、気軽に試し読みしてもらうハードルが高いです。メディアミックス目線でいうと、紙の企画書にも落としこみにくいかも、とも。
いずれ技術が解決してくれるかもしれませんが、経験者としてアイデアを考えていきたいです。
4.今注目しているWEBTOON3選
最後に、今個人的に続きを楽しみにしているWEBTOON3作品をご紹介します。
・コータロー君は嘘つき
『恋癖』『around25』などで知られる、個人WEBTOON作家・緒之先生の最新作。マンガMeeにて読めます。普通の女子高生である主人公が、「伝説のテレパス少年」であるコータロー君と同級生になることから始まる青春ミステリー。キュン描写とブラック描写のバランスが巧すぎて、毎話翻弄されています。重たい要素もあるのに仕上がりが軽やか、でも一癖ある作家性が好きです。
・密かなミューズ
LINEマンガの人気作(韓国からの輸入作品)、作者はスジン先生。女優を目指すもなかなか芽が出ない主人公が、ある日謎の写真家のミューズとしてスポットライトを浴び、華やかかつ厳しい芸能界の道を歩んでいくことに。詩的な世界観、モノローグが印象的です。また人物絵のハイライトの入れ方が非常に今っぽいというか、韓国の現代モノらしさを感じられます。
・ラッシュナイト
池田ルイ先生作。近未来?のスラム街と、相反するショービズ業界が舞台で、歌手を目指す妹・サラを支えるためにドラッグの運び屋/ショーパブのシンガーとして生計を立てているエリカが、復讐のために業界の闇に自ら挑んでいく姿を描きます。ハードボイルドで華やかでせつなくてタフなエリカが格好良すぎる。LINEマンガで連載中。
まだまだ書きたいことはたくさんあるのですが、『死にたい人妻と溺愛強盗』に関する投稿はいったん最後になると思います。改めまして、礼と美希生の旅にお付き合いくださった読者の皆様、制作チームの同志の皆様、関係者の皆様にお礼を申し上げます。ありがとうございました!
次回作でお会いできるのを心から楽しみにしております。
『死にたい人妻と溺愛強盗』はこちらから
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