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新型コロナワクチンのブースター接種は、なにがどうして懸念されているのか

先が見えない戦いが続いています。ワクチン接種が日本を含む多くの先進国で進んでおり、これが唯一無二で強力な対抗手段であることは疑いの余地がなくなってきました。しかしながらワクチンによって人体が獲得した免疫は未来永劫に続くものではなく、時間とともに徐々に弱まっていくものです。またデルタ株に見られるような感染力の強い新たな変異種の登場も懸念されています。

そこで期待されるのが、ワクチン接種完了から一定時間経過した人を対象に再度ワクチンを投与する、いわゆるブースター接種です。2021年の執筆時点で日本で認可されているワクチンは、米Pfizer/独Biontech社BNT162b2米Moderna社mRNA-1273英AstraZeneca社AZD1222(ChAdOx1)の3種類です。どれも2回の接種が推奨されているので、ブースター接種は3回目以降の接種となります。中でもmRNAワクチンであるBNT162b2やmRNA-1273の3回目投与により、低下していた中和抗体価が再上昇することは、小規模な研究ながらも報告されています(報告リンク:BNT162b2mRNA-1273)。

COVID-19以前において最も身近なインフルエンザワクチンでさえも、毎年の接種が可能とされていました。免疫力の低下を考えると頻回に接種するのは当然のことのように思えます。しかし、このブースター接種に対する懸念が世界的に有名な科学雑誌NatureLancetに相次いで寄稿され、またWHOも声明を発表しています。ブースター接種の何が、どのような議論を巻き起こしているのか、一つ一つ紐解いていきます。

高所得国と低所得国の間に生じる不平等

所得の差が命の長さの差であって良いのでしょうか。この問題はそんな哲学的な問いを我々に容赦無く投げかけてきます。無論、政府には自国民を護る責務があり、そのためにワクチンの確保に奔走しています。私もその恩恵を受けている一人でもあり、全人口をカバーするだけの量を確保しようとしている日本国政府の尽力は計り知れません。

しかし、それにしも、この差は大きすぎる。日本の1回目ワクチン接種が人口の40%に達しようとしていた2021年7月28日時点のデータでは、欧米諸国のそれは軒並み50%以上に達している一方、低所得国のアフリカでは2%に満たない人々にしかワクチンが届いていません。

ではその差は解消に向かっているのでしょうか。残念ながら否です。高所得国におけるワクチン頒布スピードは低所得国のスピードを遥かに凌駕しており、その差は開いていく一方です(報告リンク:Nature Medicine)。またCOVAXなどによる低所得国を対象としたワクチン配布実績は予定を大きく下回っており、需要に全く追いついていないのが現状です。

有効性が明らかではない

通常、医薬品の有効性はランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial: RCT)によって検証されます。RCTとは、被験者を2つのグループに分け、一方のグループに本物の薬を、もう一方のグループにプラセボと呼ばれる偽薬や、既に実用化されている別の薬を与え、数週間から数年単位で観察することによってその医薬品の有効性を確認する方法です。BNT162b2、mRNA-1273、AZD1222の2回接種での「発症予防に対する」有効性は全て確認されていますが、3回接種では未だ検証されていません。
前述の通り小規模な研究によってメモリーT細胞や中和抗体価が上昇することは示されていますが、それが発症予防にどれだけ寄与するかは未知数です。

次に発症予防と重症化予防の効果について、科学的根拠を以って議論を深める必要があります。Pfizer/BioNTechの報告では、BNT162b2接種直後は発症予防効果が96.2%でしたが、4ヶ月経過すると83.7%にまで低下しています(報告リンク:The New England Journal of Medicine)。この数値について、下記の2点の側面から検証するべきです。
    1. この数値では感染拡大防止に不十分なのか
 (季節性インフルエンザワクチンの発症予防効果は60%程度)
    2. ワクチンの効果は発症ではなく重症化予防に注目すべきではないか
 (重症化予防の効果はそれほど低下しないことがわかっている)

また1-2回目に接種したワクチンと同じワクチンを接種すべきか、別のワクチンを接種すべきかについても、その有効性、安全性の検討の余地があります。

加えて3回目の接種によって本当に利益がある人たちがどのような人なのかも明らかにする必要があります。基礎疾患がある人、免疫抑制剤を服薬している人や、1-2回目の接種で十分に抗体価が上昇しなかった人などがその候補として考えられますが、RCTによる検証がされてない以上は想像の域を脱しません。

これに対しWHOは、ワクチンのブースター接種によって得られる有効性が限定的である以上、初回接種が終わっていない国々に供給する方が便益が大きい、と主張しています。

安全性も明らかでない

有効性を示すRCTが行われていない限り、安全性が確立しているとも断言できません。そもそも3回接種において安全性が確実に担保されているワクチンは、B型肝炎ワクチンなどごく一部に限られています。1-2回目で発熱や頭痛、倦怠感などの軽症な症状が多く見られたmRNAワクチンですが、これらは季節性インフルエンザワクチンに比べ重い服反応です。3回目ではどうなるかはまだ定かではありません。

また1-2回の接種でアナフィラキシー、心筋炎や重度高血圧の発症も報告されています。今後発表されるデータから有効性と安全性を天秤にかけ、取るべきリスクなのか否かを判断をする必要があります。

さいごに

感染症の発生から一年足らずでワクチンを完成させ、その有効性と(ある一定の)安全性を確立したことは紛れもなく偉業であり、世界はその恩恵を受けています。しかしながらその恩恵の享受は世界的に目を背け難い不平等が生じていること、またブースター接種における有効性の程度、安全性の担保が後手に回っていることも事実です。ワクチンという生命に直結する医療資源が限られている以上、ブースター接種の是非は政治ではなく科学的根拠に基づいて判断されることを切に願います。

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