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ロングサイクルの運動停止フェーズの時間の長さのバリエーションの考察

停止フェーズの分類
 ロングサイクルは常に連続して動作を行うのではなく、間欠的に動作を停止するフェーズ(局面)があります。動作が停止するひとつ目のフェーズはケトルベルをクリーンしてラックポジション(胸の前方でケトルベルを保持する姿勢。写真1)になった時です。動作が停止するふたつ目のフェーズは、トップフィクセイション(ケトルベルを挙上し頭上で保持した姿勢。写真2)です。みっつ目のフェーズが、トップフィクセイションからラックポジションに戻った時です。この姿勢の後クリーンを再び行い、ひとつ目の停止フェーズに戻ります。

写真1:Ivan Dmitrich のラックポジション。このフェーズでは肩や腕の筋肉を休ませることが求められます。また肘がしっかり腸骨稜上に乗ることで呼吸機能を休ませることができるようになります。

写真2:Andrey Rasadinのトップフィクセイション。このフェーズでは脚部の筋力や握力を休ませることが求められます。また肩関節の柔軟性が十分に確保されている場合、胸式呼吸を大きく行うことができるようになります。

停止フェーズの時間の長さ
 多くの場合、体が疲労していないうちは停止フェーズの時間は短くても運動パフォーマンスが低下することなくロングサイクルを継続して行うことができますが、体が疲労していくにつれて停止フェーズの時間は長くなっていきます。また使用するケトルベルの重量が重くなるにつれて停止フェーズの時間の長さは長くなります。また一部のアスリートは、みっつ目の停止フェーズ(2回目のラックポジション)でロングサイクル動作を停止することなく、後に続くクリーン動作に移行します。

停止フェーズの時間の長さのバリエーション
 3つある停止フェーズを、どのフェーズでどれだけ停止するかはアスリートによって違います。いくつかのバリエーションを紹介します。

A:1回目のラックポジション
B:トップフィクセイション
C:2回目のラックポジション

◆ パターン1:A>B C=0
ジャークを行う前にしっかりと動作を停止し身体をリラックスさせるパターン。2回目のラックポジションでは停止しない
 このパターンは最もハイスピードでロングサイクルを行うことができます。その代わり高度な身体能力を要します。ジャークの前にしっかりと体を休めることができるので、ジャークが苦手な方にも採用することができます。ただしクリーンの前に体を休ませることができないので、クリーンが比較的得意なアスリートに勧められます。

◆ パターン2: A=C>B
2回目のラックポジションも1回目のラックポジション同様、しっかりと運動を停止させ体を休めるパターン。
 このパターンは、ハイスピードで運度を行うことができませんが、しっかりと体を休ませることができるので軽量級のアスリートや、重たい重量でのロングサイクルにチャレンジする時に採用することができます。またクリーン前にしっかりと休めることができるので、クリーンが苦手なアスリートにも勧めることができます。

◆ パターン3:A=B=C
全ての停止フェーズを同じくらいの時間とるパターン。
 ラックポジションではお腹周りがケトルベル重量により圧迫され呼吸が抑圧されます。反対にトップフィクセイションでは呼吸はしやすくなります。ラックポジションで呼吸が苦しくなるアスリートや、ラックポジションの姿勢が窮屈なアスリートに勧められます。ただし条件としてトップフィクセイションの時間が長くなるため、肘関節を伸ばす筋力や、肩まわりの筋力、そしてトップフィクセイションの姿勢をきれいにとるための柔軟性も必要となります。

◆ パターン4:C>A>B
1回目のラックポジションよりも2回目のラックポジションを長く停止するパターン。
 クリーン前のラックポジションと、クリーン後のラックポジションは、一見同じ姿勢に見えますが、ほんの少しだけ違います。クリーン前のラックポジションの方が楽なアスリートもいれば、クリーン後のラックポジションの方が楽なアスリートもいます。ジャークが得意で比較的クリーンが苦手なアスリートは、2回目のラックポジションの方を長くとる傾向にあります。

◆ パターン5:B>A=C
ラックポジションよりもトップフィクセイションを長くとるパターン。
 ラックポジションを上手に取れないアスリートか、もしくは非常に優れたトップフィクセイションを取ることができるアスリートに採用されます。

◆ パターン6:混合型
アスリートの疲労状態によってパターンを変える混合型。握力が疲労してないうちはラックポジションを長くとるようにし、握力が疲労してきたり、呼吸が苦しくなってきたりしたら、トップフィクセイションを長くとるパターン3やパターン5に移行する混合型。このパターンの習得は非常に難しく、長年の習練を必要とします。

自分にどのパターンが合うか見つける
 自分にあったパターンを見つけることで、スコアアップを実現する可能性があります。よくある誤りで、疲労するにつれてジャークの前の停止の時間が短くなり、結果的にジャークを失敗してしまうということがあります。同様にクリーンの前の停止の時間が短くなり、結果的にクリーンを失敗してしまうという誤りもよく見受けられます。競技中、自らの疲労の度合いを冷静に分析し、それに応じて適切な停止の時間にアジャストする必要があります。
 しかし、どうしても疲労していくにつれて冷静な分析ができなくなってしまうことがあります。こうなる多くの場合は、呼吸が苦しくなってしまっていることが多いです。そうならないために、常に呼吸が乱れないように適切な停止のパターンを選び、常に自らの疲労の度合いを俯瞰で分析できるように努める必要があります。

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