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アセンションしたのに統合失調症って無理ゲー! 〜第7話〜

1ヶ月前、自宅の2階寝室から寝たまま飛び降りた。

「高すぎるやろっ!」と一人ツッコミを入れ「ここ、どこ?」と辺りを見回した。
外だ。外の、、、隣の家とのあいだだ。

身体中がズキズキ痛む、立てない。とにかく誰かに来てもらわないと。
妻が呼び声に気付いてくれた。
雪が屋根から落ちた音だと思ったらしいが、積雪はもう消えていた。
まさか人が落ちるとは思わないわな。

すぐに来てくれた救急車の中で、職場に電話し欠勤を伝えた。
出血がなかったから冷静でいられた。
「よし、アウトプットの時間ができた。病室にipad持ってきて。」と喜んだ。
我ながらハイパーポジティブ。

4ヶ月前に運送会社に転職した。朝の3時に起き夕方6時ごろまで働いた。
トラック運転がメインの長時間ひとり仕事、身体も精神もキツくない。
給料も休日もそこそこある。
運転中は学習系のYoutubeを聴く時間が増え、知識が増した。
アウトプットしたくなっていた。普通に暮らしはできる。
だが、アウトプットしない暮らしはどこか虚しい。

妻とたわいのない会話をし、動画を見て、猫をなでお酒を飲む。
急いで適応しなければならない。と気負いすぎていたようだ。

=====


「小川さーん、無事に終わりましたよー」

右の踵と肩、初骨折で初全身麻酔。手術は7時間。
手術直後の集中治療室の夜。あまりの痛さに泣きながら力の限り叫んだ。
麻酔と座薬で痛みは和らぐが、眠っては起き、そのたび叫びまくった。
薄く目を開けていた。意識が痛みに行きにくいと看護師から聞いた。
あとできることは、大きく息をすること。

真っ暗で、腕の締め付けが定期的に繰り返される。時の流れを遅く感じる。
脳内でラジオ番組が放送されている。
楽曲は忘れたが無音の状態があって、何の無音か気になった。
あっそうか、とちょっと笑いながら看護師に話した。
「脳内ラジオが著作権に配慮して曲ごとミュートになってる!」
こんな極限状況でも著作権は守るんだ、すげえ。

はぁーーー 息を吸ってー 吐いてー

右の足先から少し離れた位置に
白ガネーシャさんが出てきた。

で、次ね、「シャーマン」だときちんと言わないと、息止めるよ。
そういうこともできるから。

この状況で、脅しかよ!怖すぎだろ。。。

幸せを掴むためには
過去の自分が1番やって欲しかった行動を
誰かのためにすること

そんなYoutubeで聴いた言葉を思い出す。

シャーマンは、力を得る成人の儀式として『ビジョンクエスト(幻視の旅)』を行う。
その儀式中は錯乱状態になる。が一定期間すると元の人格に戻り力を得る。
これは多くの人に起きてしまう少数ではあるが、文献にもある通常の行動である。
錯乱状態で、魂が宇宙を旅して帰ってくる。
自分が実際行ったわけではないし、そんな妄言に付き合うほど現実社会も暇じゃない。雑誌ムーぐらいか。それにしても文章力が必要になる。
結局は妄想や幻聴で片付けられるだけで、狂ったという判断は正しい。

精神病のセカンドオピニオンも何も、医師が決定権を持つ現代社会。

シャーマンといって相手にされなくなるより、言わないよう蓋して方がずっと楽に生きられる。そう信じてきた。


長い夜の何度目かの麻酔のあと
僕につながる心電図モニターの“ピコピコ“なっている音が
“ピーピー“に変わった。

静止している部屋を半開きの眼で見ながら、ただ、ぼーーーっとしていた。
看護師が2人、小走りに入ってきた。
「やばっ(麻酔の量)多すぎたかも。」点滴を見ながら、二人が状況を共有している。
耳も目もはっきりしている。しかし、痛みに疲れ果て目の前で起きていることに反応する気力がなくなっていた。反応したからといって何も変わらない。と。

「小川さーん、おーい、おーいっ!」ヤバめのトーンで両サイドから言われている。
二呼吸くらい返事しようか、無視しようか迷った。でも、たぶん反応できてなかった。

名前を呼ばれ続けながら、手術した肩をグリグリッとされた。
「ぬっ、痛ッ!はい、大丈夫ですううぅ」自分の声がかなり元気で驚いた。
同時にピコピコと音が変わった。

危なかった。グリグリしてくれて、本当にありがとう!
赤血球に酸素を脳幹に運んで貰おう、脳が危なかった、助かった。
でも不思議なことに、あの死を感じたであろう瞬間の感覚をもう知っていた。

「いやぁ自分シャーマンなんで、魂とびやすいんですよ。」

本当に言った。だって言わなきゃ。

「本当にお薬最後まで飲んだ?」と看護師に呆れながら言われた。

そうだよ、ただ単に口で言わなきゃ精神病院から出られる。
言わないから今の暮らしが出来てる。魂の旅と自分の体験をごっちゃにしていたから、勘違いの場所が分かった今だからこそ、誰かのために言わなくちゃいけない。

集中治療室のカーテン越しに、早朝の光が差し込んだ。

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