見出し画像

172)クエン酸はケトン体生成を促進して寿命を延ばす

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術172

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【クエン酸はレモンから見つかった】

クエン酸は炭素原子6個、水素原子8個、酸素原子7個から成り、 C6H8O7という分子式を持つ分子量192の化合物です。カルボキシ基(COOH)を3個持つ弱酸性の有機化合物です。構造式は様々な書き方がありますが、その幾つかを下図に示しています。(下図)。


図:クエン酸はカルボキシ基(COOH)を3個持つ弱酸性の有機化合物で、構造式は様々な書き方があり、その代表的な物を示している。

クエン酸はレモンやライムなどの柑橘類に多く含まれています。柑橘類はみかんの仲間です。ミカン科の常緑樹の果実で、世界中に数百種類もあります。温州みかん、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、ライムなど様々な柑橘類が販売されています。柑橘は英語で「Citrus」と言います。

クエン酸は1784年にレモン汁から発見されました。クエン酸は英語で「Citric acid」と言い、Citric acidは「柑橘類に含まれる酸」という意味です。
 
漢字では枸櫞酸と書きます。枸櫞(クエン)とは漢名でマルブシュカン(丸仏手柑)のことで、広く柑橘類の果物を指す場合もあります。つまり、「Citric acid」も「クエン酸」もレモンをはじめ柑橘類に多く含まれていることから由来します。

柑橘類の酸味の原因はクエン酸の味に依るものです。レモンが酸っぱいのはビタミンCによるものと思っている人が多くいます。広告で「レモン〇〇個分のビタミンC」などと宣伝されているので、レモンの酸味をビタミンCによるものと思っている人が多いのですが、ビタミンC自体には強い酸味はありません。レモンの酸味はクエン酸によるものです。

商業用のクエン酸は初めはレモン汁から抽出されていましたが、1919年にデンプンや糖をコウジカビの一種( Aspergillus niger)で発酵させて製造する方法が発見され、きわめて安価に大量のクエン酸を製造できるようになっています。
 
クエン酸は爽やかな酸味を持つことから食品添加物として多用されています。クエン酸は酸味により、唾液や胃液の分泌を促して食欲を増進させる効果があります。

さらに弱酸性の性質を利用して、トイレの黄ばみや、お風呂やポットの水垢の除去など、様々な汚れを落とす目的にもクエン酸は利用されています。



【クエン酸は代謝を活性化し、体液をアルカリにする】

私たちの体の細胞外液(血液やリンパ液)のpHは7.4とややアルカリ性に維持されており、しかも、7.40 ± 0.05 と非常に狭い範囲で調節されています。この体液のpHの調節は肺と腎臓で行われています。
 
強い運動をして体内で乳酸が増えると、血液は酸性に傾きます。乳酸が蓄積し、血液が酸性化すると、疲労や倦怠感を感じるようになります。体は腎臓から乳酸などの酸性物質の排泄を促進して血液のpHを正常に保とうとします。つまり、尿のpHを測定すると体内の酸性度を知ることができます。

クエン酸の健康作用に関しては、東大教授の秋谷七郎博士の研究が有名です。クエン酸を多く摂取すると尿がアルカリになること、さらに体調を良くし体力を高めることを科学的に明らかにしています。
 
秋谷教授は、第2次世界大戦中に、潜水艦で使用する味噌のカビを防止するためクエン酸の添加を試みたところ、カビ防止の効果以外に乗組員の疲労度が目立って低くなり、健康状態が著しく向上して長時間の潜行に耐えられるようになったことを知りました。そこで、自分でもクエン酸を飲用し、尿中の乳酸量が減少する事実を突き止めました。以下の論文に報告しています。

有機酸摂取による尿成分の変化について (第1報):有機酸摂取が尿pH値及び乳酸量に及ぼす影響について 薬学雑誌 1956 年 76 巻 2 号 p. 111-115

クエン酸が代謝を促進して疲労の原因である乳酸の生成を減少させ、体液をアルカリに維持し、疲労回復や持久力の向上に有効であることを明らかにしたのです。現在では、クエン酸は健康増進や病気の予防だけでなく、様々な病気に対して治療効果を発揮する万能薬という意見もあります。



【体内ではクエン酸はTCA回路で作られる】

前述のようにクエン酸は柑橘類に多く含まれる有機酸ですが、体内ではミトコンドリアのTCA回路(クエン酸回路ともいう)でできる物質です。TCA回路はトリカルボン酸回路(tricarboxylic acid cycle)の略語です。トリカルボン酸とは3つのカルボキシル酸基(COOH)を持つクエン酸のことで、そのため「クエン酸回路」とも言います。TCA回路の1番目の生成物がクエン酸だからです(下図)。


図:グルコース(ブドウ糖)が解糖(①)で分解されてできたピルビン酸はミトコンドリア内に取り込まれてピルビン酸脱水素酵素(②)で補酵素A(CoA)と結合してアセチルCoA(③)となる。アセチルCoAは、クエン酸シンターゼ(④)によってオキサロ酢酸と縮合してクエン酸(⑤)になる。クエン酸はクエン酸回路(TCA回路)でさらに代謝される。


クエン酸回路(TCA回路)は、この回路の発見者のハンス・クレブス(Hans Krebs)の名前をとってクレブス回路とも呼ばれます。クレブス博士はTCA回路の解明で1953年にノーベル賞を受賞しています。

クエン酸回路(TCA回路)はミトコンドリア内で起こり、クエン酸シンターゼ酵素によって触媒されるオキサロ酢酸とアセチルCoAの縮合によるクエン酸の合成から始まり、8つの酵素反応によって進行します。

クエン酸回路は、NADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)とFADH2(還元型フラビンアデニンジヌクレオチド)を生成します。
 
TCA回路で生成されたNADHやFADH2は、ミトコンドリア内膜に埋め込まれた酵素複合体に電子を渡し、この電子は最終的に酸素に渡され、まわりにある水素イオンと結合して水を生成します。このようにTCA回路で産生されたNADHやFADH2の持っている高エネルギー電子をATPに変換する一連の過程を酸化的リン酸化と呼び、これの酵素反応をおこなうシステムを電子伝達系と呼びます。こうしてつくられたATPはミトコンドリアから細胞質へ出て行き、そこで細胞の活動に使われます。(下図)


図:グルコースが解糖系(①)で分解されてできたピルビン酸(②)はミトコンドリア内に取り込まれて補酵素A(CoA)と結合してアセチルCoA(③)となり、オキサロ酢酸とアセチルCoAが縮合してクエン酸(④)が生成され、TCA回路(クエン酸回路)に入る。2炭素のアセチル基を完全に酸化して2分子の二酸化炭素にする過程で放出される自由エネルギーは電子伝達体のNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)とFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)に捕捉され、NADHやFADH2として保存される(⑤)。これらの高エネルギー電子はミトコンドリア内膜の電子伝達系(呼吸酵素複合体I〜V)でATP産生に使われる(⑥)。このように、グルコース(ブドウ糖)は細胞質内での解糖と、ミトコンドリアでのTCA回路と電子伝達系(呼吸鎖)によってATPが産生される。



【クエン酸摂取はケトン体生成を促進して寿命を延ばす】

以下のような研究報告があります。

Dietary citrate supplementation enhances longevity, metabolic health, and memory performance through promoting ketogenesis(食事によるクエン酸補給は、ケトン体生成の促進を通じて寿命を延ばし、代謝の健康を促進し、記憶力を向上させる)Aging Cell. 2021 Dec; 20(12): e13510.

前述のように、クエン酸は細胞の成長と生存の調節において重要な役割を果たすエネルギー代謝に不可欠な物質です。しかし、生物レベルでの代謝、認知、老化の調節におけるクエン酸の作用は依然として十分に理解されていません。
 
この研究ではショウジョウバエを使った実験によって、クエン酸を栄養補給すると、キイロショウジョウバエのエネルギー状態が大幅に低下し、寿命が延びることを明らかにしています。
 
ショウジョウバエを高カロリー食で飼育すると体重が増え、繁殖力が高くなり、寿命が短縮しました。高カロリー食を与える条件で、0.01%、0.1%、または1%のクエン酸塩を餌に添加すると、ショウジョウバエの雄と雌の両方で寿命延長が有意に誘導され、寿命延長のプラトーは0.1%のクエン酸塩補給で達することがわかりました。

食事の0.1%というのは、人間の通常の消費カロリーは2000キロカロリーで、これは糖質とタンパク質だけだと乾燥重量500グラムの食事になり、この0.1%は0.5グラムになります。さらに、高濃度のクエン酸塩での処理により、雄と雌のハエの自発運動活動と繁殖力もそれぞれ顕著に改善されました。
これらのデータは、クエン酸塩の補給がショウジョウバエの長寿と生物の体力のいくつかの側面を促進できることを示唆しています。
 
これらの効果は、クエン酸がAMP 活性化プロテインキナーゼ (AMPK)を活性化し、ラパマイシン標的タンパク質 (TOR)の活性を低下し、ケトン体生成を増やすことを明らかにしています。実際にケトン体β-ヒドロキシ酪酸を添加した高脂肪食を与えたマウスは、クエン酸補充と同様に代謝の健康と記憶力の改善を示しました。

これらの結果は、食事によるクエン酸塩の補給が、加齢に伴う機能不全の将来の治療において有用な介入となる可能性があることを示唆しています。


図:クエン酸を摂取すると細胞内に取り込まれ、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化し、ラパマイシン標的タンパク質 (TOR)の活性を低下し、ケトン体産生を増やす。その結果、代謝を健全化し、認知機能を亢進し、抗老化・寿命延長効果を発揮する。




【クエン酸療法の実施法】

日本でも「クエン酸健康法」を提唱した書籍などもあり、そのような書籍の内容では1日15g程度を推奨しています。

クエン酸の服用量は多いほど良いのですが、多く摂取すると副作用もでます。その兼ね合いから、1日に10から15g程度が妥当と言えます。実際に15gを500ccの水に溶かしてペットボトルに入れ、毎食後に飲む方法だと、それほど苦痛になりません。500ccの水に10〜15gであれば、酸っぱさもそれほど強くありません。

クエン酸ナトリウムなどの塩ではなく、純粋なクエン酸を使用します。クエン酸ナトリウムだと分子量の約4分の1がナトリウムなので、クエン酸を多く摂取する場合にナトリウムの摂取量が過剰になるためです。

また、レモンジュースに含まれるクエン酸は他の成分と結合しているので、吸収が悪いので、純粋なクエン酸を使うべきだと言う意見もあります。

クエン酸の結晶粉末は白色、無臭で純度が高く、水に簡単に溶けます。医薬品用や食品用が販売されています。医療では、緩衝・矯味・発泡の目的で調剤に用いています。また,リモナーデ剤の調剤にも用います。

食品添加物としては、清涼飲料水やアルコールに加えたり、PH調整剤や酸味料として様々な食品に使用されています。食品を適切なpH領域に保つことによって微生物の増殖を防いで食品の保存性を高めることができます。
 
クエン酸はカルシウムを溶かすので、濃い濃度のクエン酸を長く摂取すると歯を溶かす可能性があります。ストローを使って歯につかないように摂取するか、歯につく場合には、服用後に水で口をすすぐのが良いと思います。
 
クエン酸が酸っぱいのは酸性だからです。味覚の基本は甘味・塩味・酸味・旨味・苦味の5種類で、舌の舌乳頭という小さな突起部に存在する味蕾(みらい)という味を検出するセンサー(化学受容体)でこれらの味覚を感じています。クエン酸は弱酸性で、酸味を検出する受容体を刺激するので、酸っぱい味を感じます。
 
クエン酸を重曹(炭酸水素ナトリウム)で中和すると酸味は感じなくなります。酸味が強くて飲みにくいときはアルカリ性の飲料に混ぜると飲みやすくなります。
 
クエン酸と重曹を混ぜると、クエン酸はクエン酸ソーダ(クエン酸ナトリウム)になって、体内でのクエン酸としての働きは残ります。しかし、重曹は二酸化炭素と水に分解されます。つまり、クエン酸と重曹を混ぜると、クエン酸ナトリウムと二酸化炭素と水になります。二酸化炭素は泡となって放散します。この場合は、ナトリウムが入るので、血圧が高い人は多くを飲めません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?