鼻
今、こうしている間にも追手は確実に迫っている。
あそこで水を飲もうとしたばっかりに。池に嵌っている仲間を見つけてしまったばっかりに。
鼻を差し出すと小さな彼は必死に鼻を伸ばしてきた。しっかりと握り返して引き上げようとする。
昨日の雨のせいか引き上げようとするそばから池の端の土が崩れ、まるで底なし沼のように何度も何度も仲間は池に嵌りなおってしまう。
「パオーン」私は諦めることができずに雄叫びを上げながら何度も鼻を差し出した。
一体どれくらいの時間が経っただろうか。私はついに鼻を絡めたまま池の周りを移動すれば、引きずり上げる場所を見つけられるのではないかということに気がついた。
鼻を絡めたままゆっくり、ゆっくりと池の縁を移動する。落差2メートルほどの池の周りの土はとても柔らかく、ズブズブと私の足の自由を奪おうとした。
少しずつ 少しずつ、私が移動するのと一緒に、仲間の体も縁に沿って移動している。そして時間はかかったが私は土が割と平らに、固くなっている場所を見つけた。
なるほど、ここなら引きずりあげようとしても仲間の足はしっかりと地面を捉えている。そして、ついに私は仲間を池から引きずりあげることに成功した。
私よりひと回りもふた回りも小さいその体は、鼻で精一杯感謝の抱擁をしてくる。良かった。もう大丈夫だ。良かった。