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ピヨピヨのおっさん

数年前に努めていた職場で、京都の三千院に遠足に行った時の話。

女子8名ほどで行った。

三千院はお寺まで山道を10分ほど歩く。

お土産物屋さんもあるので全く苦ではない。

その時、私は最後尾をマイペースに歩いていた。

どこからかずっと『ピヨピヨ』と鳥の鳴き声がしていた。

途中で変な"かかし"を見つけた私は、写真を撮り始めた。

さっきからずっとしている『ピヨピヨ』という鳥の鳴き声が、だんだん大きく聞こえて来て、心なしか近付いて来ている気がした。

すると、道の先からおじさんの声が聞こえた。

『鳥の鳴き声がしとるなあ!』

ピヨピヨ、ピヨピヨ

『どこや?どこからするんや?』

ピヨピヨ、ピヨピヨ

私はそちらを一切見ずに写真を撮っていた。

ピヨピヨ、ピヨピヨ

『鳥どこや?どこや?どこや?……おっちゃんでしたー!!あはははー!』


…………ん?!


どうやら、ピヨピヨ言っていたのはおっさんだったようだ。

先に行っていた人達が笑っているのが聞こえた。

そうか、この先に変なおっさんがいるのだな。

察した私は尚も目もくれず、写真を撮っていた。

ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ

あ、やべーピヨピヨのおっさんはどうやら山を下って来ている。

ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ

『ぐへへへ、ぐへへへ』

下って来たピヨピヨのおっさんが、明らかに私を見て笑っている。

絶対見ないでおこう。絶対話しかけられる。私は『変なおっさん』の引きが強いからな。

『ぐへへへ、ぐへへへ』

明らかに私を見て変な笑い方をしているおっさん。

私もつられてつい『ふっ』と笑ってしまった。

それを逃さなかったおっさんは、さらに『ぐへへへ!ぐへへへ!』と笑い、私も『あははは』と笑った。

しかし、私はまだ一切おっさんを見ずに写真を撮り続けていた。

絶対話かけて来ると思ったが、おっさんは『ぐへへへ』と笑いながら私を通り過ぎた。

お互い『ぐへへへ』『ウハハハハ』と変な笑い合いだけが続き、呼応しているのが急にツボった私はついに、

ギャハハハハハハ~~~~!!

と、爆笑した。

ガハハハハハハハ~~~~~~!!

と、おっさんも爆笑した。

そして、初めておっさんの方を見た。

私の数メートル先の下り道に、キャリーバックを持った白髪のおかっぱ頭のキダタローみたいなおっさんがこちらを見ていた。

イメージを裏切らない個性派!

私はおっさんに向かって、大きく手を振った。

すぐさまおっさんも満面の笑みで大きく手を振ってくれた。

一切言葉を交わさずに私はおっさんに手を振り、先を歩く同僚達に急いで合流した。

『さっきのおっちゃんバリおもろかったね!なんなんあの人!』

『実さんめっちゃ気に入られてましたやん!ウケる』

『最後、笑い合ってめっちゃ手を振り合ったよ!』

って、同僚とそのおっちゃんの話で盛り上がった。

そして、三千院のもはや異次元みたいな庭園で息を飲み、生い茂る苔の緑に第4チャクラは開かれ、大変好みの観音様にエキサイトして、満喫して終わった遠足。

帰りの電車のホームで同僚とまたピヨピヨのおっさんの話題になった。

三千院の庭にはわらべ地蔵という可愛らしいお地蔵さんが点在していたのだけど、『なんかあのピヨピヨのおっさんに似てたね』という話になった。

すると、その会話を耳にした女店長が『あたしもわらべ地蔵に似たおっさん見たで』と話かけてきた。

『中庭歩いてる時おらんかった?わらべ地蔵見てる時に振り向いたら、そっくりなおっさんが後ろに立っててん』

そう言って来た。

『え、どんな人ですか?』

『白髪のおかっぱ頭のおっさんやろ?おったで』

そう言った。

実は、中庭を歩いている時に私は店長の後ろをずっと歩いていた。

だけど、絶対ピヨピヨのおっさんは見ていない。

いたら絶対『あー!!』ってなるし、何より私が見た時は山を下っていた。

他の女の子達も三千院内では目撃していない。

そもそも『白髪のおかっぱ』という風貌のじいさん自体レアではないか?

でも、店長は見たと言い張った。間違いなくその人やと。

実はこの店長、めちゃくちゃ霊感が強い人なのだ。

それを踏まえ全員で、

『あ、あのおっさんやっぱりわらべ地蔵やったんじゃないか?!』

と、なったのでした。

ピヨピヨのおっさんと最後、満面の笑みで手を振りあったあの瞬間が今だにお気に入りで、元気をくれる思い出となっている。

その直後、大変な事になってゆく私を何度も助けてくれたパワーメモリーなので、私は勝手に『今から大変だけど頑張れよ!』って言いに来てくれた神さまだと思っている。

ありがとう、ピヨピヨのおっさん!

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