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33話*ボンさんとの約束

ボンさんの体を、私達はベッドに寝かせてシートで綺麗に拭いた。



私は、ボンさんと約束していた事があった。

ボンさんが元気な時から、時々ふと心の中で勝手に思っていた事だけど、心の中の事はボンさんに必ず通じてるから、いつしか、ボンさんとの約束のように思えていた。

『ボンさんが虹の向こうに旅立った時は、私はボンさんの体をボンさんの大好きなこの場所に埋めてあげるからね』

そうボンさんに言っていた。

私達は夜中になるのを待って、ボンさんの体をキャリーバッグに入れてあの場所に行った。

人がいたので、私達は少し待とうと河川敷の階段に座った。

せっかくだからいつものように、と、ボンさんの体を膝に乗せて景色を眺めた。

いつものように話しかけながら思い出話しをしたり、私達が愛したボンさんと空気や景色を抱きしめた。

河川敷を散歩する女の子達が現れた。

『あの子達がここを通ったらさ、「わあ、かわいい猫ですね~♪触って良いですかあ?」とか言って近寄って来たらどうする?やばくない?腹話術みたいにする?「にゃあ~ゴロゴロ~」とかする? 普通に端から見たら猫の死体抱いてる男女ってヤバいよね』

とか言いながらヒヤヒヤしたり、シュールなコントを妄想して笑ったりした。

不謹慎かもしれないが、ボンさんは私達の事をよくわかっている。

私達がふざけても、ボンさんだけは絶対怒らない。

私達は、笑いたかった。


人がやっと居なくなって、私達はボンさんを埋める場所を探した。

土が想像以上に固く河川敷の土をナメていた私達は、ちいちゃいスコップしか持って来ていなかった。

ここもダメ、ここも無理、と小一時間ウロウロ。

ボンさんファミリーの子猫兄弟も『何してるの?』って見に来た。

子猫達にボンさんを見せてあげた。

『きみ達のおやびんは任せろ!君たちのおやびんをこの場所に還しにきたよ。ずっと君たちを見守ってくれるよ』

そう言って結局、ボンさん達と散々過ごした階段横に埋める事にした。

そこも土が固くて固くて、しまいにゃスコップも折れて、スコップの柄担当と、スコップのお皿部分担当に分かれて掘った。

『こんな夜中に、河川敷穴掘ってる男女やばすぎるよね。しかも死体埋めようとしてるんよ。誰かに見られたら通報されるよね。ボンさん助けてくれ~』

そんな事を言いつつ、メンタル的に色々ギリギリになりながらも私達は汗だくで穴を掘り続けた。

ボンさんが入るくらいの穴が完成した頃はボロボロだった。

その穴にボンさんを大事に納めた。

『ボンさん、ありがとう。ありがとうね。大好きだよ。また遊ぼうね』

穴に入ったボンさんを見ると、やっぱり疲れより想いの方が溢れて来て、涙で嗚咽しながらいっぱい撫でた。

そして、二人でボンさんの体に土をかけた。

ああ、変な感じ。

大好きなボンさんが土に埋もれていくのをみている。

悲しくて苦しくて寂しくて、崇高な、、、残酷な慈愛に満ちた感覚だ。

埋め終わって、埋めたすぐ横の階段に座った。

穴堀り疲れて、泣き疲れて、私達はぐったり。

さあ、帰ろうか。

もう夜中の3時だ。

そう帰り始めて、最後、階段下からボンさんのお墓をみあげると、変な生き物がボンさんのお墓に近寄って来ていた。

キツネみたいな、犬でも猫でもないやつ。

河川敷に生息しているらしい何か。

何かは、わかりません、、、、。

『ボンさんが食べられる!!』

私達は急いで戻り、変な生き物を追い払った。

でもまた帰りかけるとやって来る。

Tは『もうずっと朝まで見張っていようかな』と言いながら、電柱から張り込み体勢に入った。

『いや、それは、やめよう。無理です』

そして私は、閃いた。

匂いに寄って来てるから、匂いを消せば良いんじゃね?

という理屈で、一か八かで自販機でブラックコーヒーを2本買って、ボンさんを埋めた場所にばらまいた。

ボンさんごめんよ。食べられるよりマシだ!許してくれ!


しばらく張り込んで様子を見ていたけど、変な生き物は来なかったので帰った。

次の日、Tがお墓の様子を見に行ったら、荒らされてなかったらしく、ホッとした。


わたしはずっと思っていた事がある。

ボンさんは本当は、ホウホウが亡くなった時にボンさんもホウホウのとこに行きたかったし、行くつもりだったんじゃないかと……。


でも、私達がボンさんを引き留め『まだ一緒に遊ぼう』としつこく言うから、『じゃあ、もう少しだけ二人と遊ぼうかな』って寿命を延ばしてくれたような気がしていた。


だから、イチとシバが家に来てから『もう大丈夫かな』って思って、旅立ちの準備をしたように思えて仕方がなかった。


ボンさんが居なくなってから、私はめっきりあの場所には行かなくなった。

それでも、ボンさんが恋しくなってお墓参りに行った時、自転車こぎながら、いつもの階段を見てハッとした。


ボンさん…………?!



そんな訳はないのは分かってる。


でもボンさんが階段に座ってるように見え、私をドキドキさせた正体は………

ただの草だった。



でも、ちょうど、ボンさんのお墓の横に生えていた。

今まで生えたことなかったのにな。

お花じゃなくて、ただの雑草なところが、いいよね。


ボンさんは雑草魂のロックンロールだから。














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