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週末の小さな大冒険(大弛峠~金峰山~中津川林道)191005-06


大弛峠攻略編

一年ぶりのお泊りライド。攻略目標は数年ぶりに開通したダートの聖地、中津川林道。そのアプローチには日本一のヒルクライムルート大弛峠(標高2360m)と金峰山(標高2599m)山行も組み合わせた欲張りなお楽しみだ

ド素人が無理して標高2300mを超える山中で時間切れ、暗中模索は避けたい。そのため目標時間とデッドラインを設定しておく。この時間までに間に合わなければ回れ右して潔く撤退する

作戦当日の日の入りは17:32。その一時間前の16:30までに活動を終わらせたい。ゴールから逆算で時間設定を行っていく。登山パートの大弛峠~金峰山往復のコースタイムは4時間半。なので12:00には大弛峠に到着している必要がある。中間地点の朝日岳に13:00。金峰山には14:30が目標タイムだ。それぞれプラス30分をデッドラインとした

自転車パート。登山装備への準備と休憩を考えると大弛峠着は11:45が目標だ。始発電車で塩山着は6:51。出発は余裕を持って7:30とすると登坂時間は4時間15分

これが時間割だが正直ヒルクライムが間に合うか心配。距離29.5km。標高差1886mの日本一の登坂ルート。ヤビツ峠が11.8km。標高差676mだから、クライマーのSI単位系への変換を行うと3ヤビツ。ヤビツ3回分かぁ。身近な単位に落とし込むとなんとなく実感できたが、わかったようなわからんようなモヤモヤっとした気持ちだ

入念な準備を整え、ワクワクしながら眠りについた

甲斐の起伏に富む山々が青空に映える。透明感溢れる朝、山梨県営林道川上牧丘線に取り付く

塩山駅で同じ電車で到着した絶滅危惧種マウンテンバイカーに、同類としての関心と勇気を持って挨拶してみる。なんと登山パートは除き同じ道程を計画とのことだ。泊まりは川上村。10分ほど雑談しお互いの旅の無事を祈った。僕は9kgになるバックパックの中身を丁寧に整え後から出発だ

途中おばあさんや、軽トラのオッチャンからはガンバレーと応援を受ける。なんだか気分のいい土地だ。僕は大きな声で挨拶し珍しく社交的に振る舞う。見ず知らずの人と挨拶しあうというのは新鮮で気持ちのいいことだ。一日が豊かになる気がする

今回は長丁場なので時間を決めて休憩を取ることにした。毎正時を目安に最低一時間に一回。バイクを降りてきちんと休息。そして腹が減ってようがいまいが、ちゃんと行動食を補給する。あとは気になったら自転車を止めて写真撮影で小休憩しとにかく無理は禁物

見晴らしのいいぶどう畑で休憩し写真を撮っていると駅で挨拶したマウンテンバイカーが追いついてきた。すこし言葉をかわしお先に失礼した。またの再会を少し期待していたがその後会うことはなかった。一期一会ってこういうことなんだろうなと後から思った

クリスタルラインを淡々と登り2時間強で乙女湖の先の牧丘第一小学校柳平分校へ到着、標高1500m。自動販売機でスポドリ購入し大休止をした。案内板には残り15km。だいたい半分、いいペースだ

そこから川上牧丘林道へ合流、大型車の通行は規制されておりサイクリスト的には安心だ。カラ松の森の中をギコギコ自転車を漕ぐ。気持ちのいい天気においしい空気、生きていてよかったと思えた。残り10kmくらいから一キロごとに表示がありそれを励みに黙々と進んでいく

途中視界が開け谷越しに金峰山の五丈岩が見えた。思わず出た言葉は「ワオ!」俺はアメリカ人か?大丈夫か俺?オマエちょっとヤなやつになりつつあるんじゃないかと自己嫌悪に陥った。正しい日本語ではこういうときは「お~」とか「うわっすげえ」とか「マジかよ」というべきなんだろう。でもチャリをゼイゼイ言いながら3時間以上漕ぎ続けているなか、そんな長いフレーズは出てこない。色々悩んだ末、やっぱ「ワオ!」がこの状況では正しい感嘆詞であると結論づけた

ワオ!の五丈岩

残り1km近くになって駐車場から溢れた登山客の路上駐車が多くなる。そして稜線に峠が見えてきた。4時間半かけてとうとう大弛峠を踏んだ。山小屋にチャリをデポし、靴を軽登山で長年愛用しているニューバランス573のトレッキングシューズに二足目のワラジを履き替え、山小屋のオヤジに半ば呆れられながら金峰山へ向けて正午過ぎに出発した。ヒルクライムの途中で見かけたワオ!の五丈岩を目指すのだ

チャリをデポして二足目のワラジに履き替える

金峰山攻略編

12:01 大弛峠(2360m)を出発。シラビソの森を抜けていく稜線上の一本道。迷うことはない。途中ガレ場、岩場あり山歩き用のシューズは必須だ

ここが登山口

僕はこの山行に準備した登山道具は
・ニューバランス573トレッキングシューズ
・軍手
・マルチカム迷彩のブーニーハット
・アルミ蒸着のサバイバルシート
・ブラックニッカ

シューズは捻挫防止と足先の保護。軍手は定番のミリタリーグッズ。汗もふけるしチャリの修理に使ってもいい万能アイテムだ。ブーニーハットはなんとなくカッコつけ。ショボい装備でど素人丸出しだけど、それなりに箔がつくだろうとの思い込み。サバイバルシートはお守り代わり。ブラックニッカは万が一、天候悪化時の低体温症を防止するための気休め、そして単純においしいから

軽装備な僕は機動力と柔軟性で勝負

出発が遅くすでに下山客がメインだ。狭い一本道を我れ先にわが道を急ぐ人が多く優先もへったくれもない。ここは通勤時間の新宿駅か?と一瞬ムッとしそうになるが、まっ気にすんな。休日を楽しもうとグッと飲み込み僕は余裕をかましてニコリと道を譲りお気をつけてと声をかけた。ここに日本サッカー協会の審判員がいたらそのフェアープレー精神と紳士的振る舞いにグリーンカードもらえるぜ

しらびその森を抜けていく
この後は雲が出てきて見えなくなった
谷筋をひたすら上ってきたのだ
朝日岳から大弛峠を振り返る
金峰山と五丈岩がほぼ同じ目線の高さで見える

薄い空気に息が切れぎれに起伏に富む稜線上をグイグイ進む。一気に眺望が開けた。頂上と五丈岩、そして瑞牆山を見下ろす絶景が広がった

瑞牆山と韮崎方面。ナカータの出身地だ

そして混雑する岩場に取りつき13:47にとうとう山頂を踏んだ

その先に金峰山の山容を特徴づける五丈岩が見えた。その名の通り15mほどの岩塊が天に向かってそびえ立つ。自然にできたのかそれとも誰かがなんらかの理由で積みあげたのか、どちらにも見える奇岩だ。なぜこんなところにあるのだろう。うまく言葉にできないが、その人知を超えたたたずまいに神々しさと自然の力を同時に感じた

地元の人はこの岩を御神体として登るようなことはしない。僕は敬意を表してそれにならった

山頂と不思議な五丈岩
なんでこんなところにこんなものがあるんだ?

15:00を過ぎると薄暗くなってきた。大丈夫なのはわかっているが、本能的に少し心細くなってきた。なるほど、登山の基本は早朝出発だということを理解した

宿に戻り17時からの夕食まで1時間強ある。僕は水場で顔を洗い濡れタオルで身体を拭きサッパリした。すこし冷え込んできた。でもこの静かな自然を出来るだけ楽しみたい。表のベンチに腰掛けミックスナッツをつまみにブラックニッカを飲りながら至福のひとときを過ごした

至福の時間

夕食後は山小屋らしく薪ストーブにあたりながら泊まり合わせた人たちと談笑タイム。僕はいつになく社交的に会話に参加し自転車で登ってきて金峰山を踏んできた話に皆びっくりしていた。20時半の消灯前に眠りに落ちた

23時ころ目が覚めた。さすがに足腰が火照るように痛む。持って来たことを思い出した外用鎮痛消炎剤を持って外に出た。吐く息が白くなる冷んやりとした空気の中ベンチに腰掛け空を見上げると吸いこまれそうな漆黒の夜空に満天の星と天の川が浮かんでいた

山小屋って感じだなぁ

山にまで行ってあまり時間に追われるのは好きではないが、今回はギリだったので記録に残しておこう

12:01 出発 2360m
12:26 朝日峠 2425m
13:00 朝日岳 2579m
13:47 金峰山 2599m
13:56 五丈岩
14:52 朝日岳
15:17 朝日峠
15:42 帰着

中津川林道攻略編

山小屋の朝は早い。朝食は5時半。ご飯を食べて皆へ挨拶し早々に出発した。東の空のみ青空が垣間見えるが、ほかの方角は雨雲だ。天候は微妙。神様次第。僕はカーキ色のカーゴパンツにコットンのブラックTシャツとマウンテンバイカー風にワイルドにキメた

しかし僕を迎え撃つ川上牧丘林道のダートはもっとワイルドだった。ハードグラベルの路面は崩れ落ちた岩だらけ。走行ラインが全然読めない

無理ゲー

峠から数キロは聞きしに勝る悪路。バカでかい石がゴロゴロ、ガレまくり。多摩川の河原みたい。僕のしょぼいテクと街乗りマウンテンバイクでは完全に手が余る。サドルを思いっきり下げて、半ベソをかきながらおっかなびっくり少しずつ下っていく

急ぐ必要はない。安全第一

ピンと張りつめた朝の冷たい空気に息が白くなる。カモシカの親子が横切っていく。遠くジェット機の音が聞こえるくらいの静寂に包まれる。完全に僕だけの世界だ。贅沢な時間だ

難所を過ぎ、ようやくミディアム~ヘビーグラベルと言えるような路面に落ち着いてきた。少しずつ慣れてきて大分乗れるようになってきた。ちょっと怖いが美しい景色にテクニカルなダウンヒル。楽しい

と油断したとたん、前輪を取られ派手に落車。ラッキーなことに体にも機材にも深刻なダメージはなし。ホント神様に感謝した。

標高を下げるにつれガスが濃くなってきた。要は雲の上から雲の中に突入。静寂で美しく幻想的な林道のコーナーを次々に駆け抜ける

1時間強でダートはクリア、橋を渡るとターマック。ちょっとほっとした

東股沢の清流が美しく、ここで大休止した。泥だらけになった機材や服をすこしきれいにし、冷たい水で顔や手を洗った。膝からは血が出ていたが、擦り傷だからそのままでも大丈夫だろう

山道が終わり道路沿いの畑では残り少ない野菜の収穫を行っていた。収穫期も終盤で冬の準備がはじまる気配を感じた。
気づいてみると家や車やトラクターがみんな大きい。裕福な農村だ。日本一のレタス王国川上村の苦労と実力を垣間見た

香ばしい堆肥のにおいがする見晴らしのいい開けた畑の真ん中で小休止。夏に来たらさぞかしさわやかな場所であろう

あらかじめスマホにダウンロードしておいた川上村観光ガイドを確認して何か興味深いところがないか探した。特に前もって計画していなかったが村の豊かさにこの土地への興味がわいた。電波はつながるものの4Gの表示はない。昨日からデジタル・デトックス状態だ。たまにはいい。旅に集中できる

一瞬素通りしかかったが2度見した

村の中心はここから12kmほど西の信濃川上駅周辺部のようだ。往復・観光を入れると1時間半。しかし、林業総合センター、大深山遺跡、郷土資料館と正直パットしない。まだ8時前で開館していないだろうし

僕は予定通り三国峠を目指すことに決めた。県道68号線にそって進むとヤマザキショップがあった!道中はじめてのそして唯一のコンビニだ。さすがに品揃えは日持ちのするものに限られており、弁当おにぎり、菓子パンというような定番アイテムはなかった。コーヒーを買って一服した

長野からの三国峠へのアプローチはターマック。時折モトクロスライダーとすれ違う程度の閑散とした山道だ。ヤマからおりてだいぶん暑くなってきたので、短パンとポリエステルのランニング用シャツに着替えなおしヒルクライムに取り組んだ

9時22分とうとう三国峠を踏んだ。稜線に切り込みを入れるように切通しの峠。これぞ峠という感じだ。振り向くと川上村が遠く眼下に見える。ずいぶん上ったもんだ

峠の向こうの秩父側にあこがれのあの看板「三国峠、標高1740m」があった。その横には、大書きで「このさき18km悪路注意。未舗装」との注意書きがあった。望むところよ!

再度カーゴパンツに着替えなおし出発。ライト~ミディアムグラベルの快適なダート道。楽しい!驚くべきことに18kmずっと下り。登り返しの必要がない。本当に楽しい第一級のルートだ。ターマックに抜けてからも中津川渓谷沿いを右に左に下り基調で高速走行を楽しめる

いつの間にか大御所シェリルクロウ姐さんの骨太大ヒットナンバー、エブリディ・イズ・ア・ワインディングロードを口ずさむご機嫌な快走路だ。ややアブナイ人になりつつあった

途中、滝沢ダムでダムカードをゲット。その先のループ橋の雷電廿六木橋(らいでんとどろきばし)で土木技術に驚嘆した。圧巻の風景だ

三峰口駅で小一時間電車を待った。駅前の食堂で缶ビールで祝杯を挙げた。充実感と心地よい疲れ、そしてビールの酔いでウトウトした。僕の乗る西武秩父線は単線をガタゴトのんびりと飯能へ向かっていた。週末の小さな、しかし僕にとっての大冒険は終わりに近づいた

萌系。修行が足りず僕はまだ覚醒できていないが、多様な文化は素晴らしいことだ


今回のルート

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