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【東京六大学野球】FIPで見るプロ入りに必要な成績(投手・2022年版)【ドラフト】

 明けましておめでとうございます、宜野座パーラーです。さて、オフシーズン中の自由研究第2弾です。

 今回は東京六大学の投手がドラフト指名されるためにはどの程度の成績が必要なのか、「FIP」という指標に注目してまとめてみました。

【こちらもご覧ください】RC27という指標に注目し、野手編について書いています。

1.結論:FIP「3」未満がプロ入りの目安

 詳細は後述しますが、2010年以降のドラフト指名投手を対象に集計してみると、FIP「3」を切るあたりがプロ入りの一つの目安になろうかと思われます(図表1)。もっとも野手編と同様、プロ志望届を提出しながらも指名漏れしたような選手の成績がどの程度だったかまでは現状で確認しきれていないので、このあたりは今後しっかり分析したいところです。

図表1:NPB入り投手FIPランキング(赤字は2022年指名投手)

2.下準備:FIPとは

2-1.FIPの概要

 FIPとは「Fielding Independent Pitching」の略ですが、守備力や運に左右されない要素を用いて投手の能力を図る指標です。一般によく使われる指標の1つに防御率がありますが、防御率は「自責点」をもとに算出されています。しかし、チームの守備力が高ければ自責点は低くなるでしょうし、その逆も然りです。あるいは、守備力が低く失策が多いようなチームだと、かえって自責点が低くなるようなこともあり得るでしょう。

 そこで、チームの守備力のような運に左右されうる要素を用いず、投手の実力のみを反映して算出される指標がFIPです。定義は後述するとして、FIPは「被本塁打」「与四死球」「奪三振」のみを用いて算出されます。数字の評価としては、防御率と同様に低い方が良いということになります。

2-2.FIPの定義

 FIPについてもう少し細かく見ていきます。FIPの計算式は以下の通りです。

FIP=(13×被本塁打+3×与四死球−2×奪三振)÷投球回数+リーグ補正値

リーグ補正値=リーグ全体の防御率−(13×リーグ全体の被本塁打+3×リーグ全体の与四死球−2×リーグ全体の奪三振)÷リーグ全体の投球回

なお便宜上、リーグ補正値は各投手のドラフト指名年のリーグ全体の数字(例:2022年指名の投手なら、2022年の春季・秋季リーグ全体の数字)を用いています。

 最終的に補正していますが、基本的には被本塁打、与四死球、奪三振の3要素のみで構成されています。FIPの算出においては、それぞれの要素を

被本塁打:与四死球:奪三振=13:3:-2

で重み付けしていることが分かります。被本塁打1本は与四死球4.3個と同じ価値で、与四死球1個分のマイナスを取り戻すためには奪三振1.5個が必要という意味合いです。

 ただし、アウトの取り方は様々で、三振を多く奪うタイプがいれば、打たせて取るタイプもいます。FIPの定義上、奪三振が多いタイプの方がその値は低くなりやすく、打たせて取るタイプの方が高くなりやすいことには注意が必要です。

3.集計結果:プロ入りの約7割がFIP3未満

3-1.集計対象

 野手編と同様、2010年以降のNPBドラフト会議で指名された東京六大学出身の投手を対象としています(育成指名を含む)。また、社会人や独立リーグを経由せず大学から直接NPB入りし、かつ大学通算50投球回以上の投手を対象としています。

3-2.集計結果

 対象は37投手で、集計結果は図表1(再掲)の通りです。37投手中26投手がFIP3未満で、プロ入りにはこのあたりが一つの目安となるでしょう。

図表1(再掲):NPB入り投手FIPランキング(赤字は2022年指名投手)

 またFIPの定義上、リーグ全体のFIPはリーグ全体の防御率と等しくなります。全集計期間のリーグ全体の防御率は3.31となり、これをリーグ全体平均のFIPとして見なすと、34投手がリーグ全体平均よりもいい成績だったといえます(もっとも、プロ入りするくらいの投手なのでリーグ平均は超えて当たり前とも言えそうですが)。

 FIP2台後半の投手が多いなかで、大石達也(早大ー西武)が1.26とずば抜けた数字を残しています。詳細は後述しますが、奪三振が多かった点が特に大きく寄与しました。また、2022年のドラフトで指名された荘司康誠(立大ー2022年楽天1位)は全体17位の2.66、橋本達弥(慶大ー2022年DeNA5位)は同21位の2.80となっています。

4.考察

4-1.起用タイプ別ではリリーフの方がやや良好

 まず、起用タイプ別(先発・リリーフ)にFIPを確認してみます。ここでは便宜上、20先発以上もしくは先発が全登板の50%以上の投手を「先発」、その他を「リリーフ」として分類しました。

 結果としては、先発タイプのFIPが2.76であるのに対して、リリーフタイプは2.57と、リリーフタイプの方がやや良好な成績となりました(図表2)。一般に、先発投手はある程度打たせて取ったりペース配分しながら長い回を投げる必要がある一方で、リリーフ投手は短い回を全力投球で切り抜けるので、特に奪三振数で差がつくようなイメージがあります。K/9(9イニングあたりの奪三振数)で見れば、結果はそのイメージの通りと言えるでしょう。

図表2:起用タイプ別FIP

 しかし、FIP自体にはそこまで大きな差が見られませんでした。プロのように先発とリリーフの分業制がもっと確立して、リリーフ専門の好投手が増えてくれば、リリーフタイプのFIPが良化するとも思いますが、少なくとも現時点では起用タイプ別で大きな差はないと言えるでしょう。

4-2.先発タイプトップは現広島・野村

 ここからは起用タイプ別のFIPトップ5の詳細を見てみます。先発タイプのトップ5は図表3の通りです。トップは全体2位の野村祐輔(明大ー広島)で1.76です。内訳を見ると、被本塁打の少なさが大きく寄与したと言えそうです。HR/9(9イニングあたりの被本塁打数)は0.17と、先発タイプ平均0.38の半分以下、つまり他の先発投手(しかもプロ入りした投手)の半分以下しか本塁打を打たれていないということになります。

図表3:先発タイプトップ5

 被本塁打の少なさという観点では、斎藤佑樹(早大ー日本ハム)もHR/9は0.19とかなり優秀な成績です。K/9は7.83と先発タイプの平均以下でしたが、被本塁打の少なさから先発タイプ5位にランクインしました。

 また、先発タイプで奪三振数が飛びぬけていたのは早川隆久(早大ー楽天)です。K/9は全体3位の11.32で、奪三振能力は相当高いものでした。HR/9が0.58とやや高いことが響き、FIPは2.21で先発タイプ3位となりました。

4-3.リリーフタイプでは元西武・大石が全体でもダントツ1位

 続いてリリーフタイプです(図表4)。リリーフタイプでは大石が1.26と、全体でもダントツのトップです。3要素すべてで平均より優れた成績を残していますが、特にK/9は12.60で、1イニングに約1.4個の三振を奪った計算になります。

図表4:リリーフタイプトップ5

 被本塁打の少なさが要因で上位にランクインしたのは三嶋一輝(法大ーDeNA)と横山貴明(早大ー楽天ーBC・福島ー四国IL・高知)です。三嶋はK/9は8.85、BB/9(9イニングあたりの与四死球数)は3.20とリリーフタイプの平均並みですが、被本塁打は通算投球回205回1/3でわずか1本、HR/9で0.04と驚異的な数字を残しました。また、横山は通算投球回こそ61回1/3と三嶋の半分にも満たないですが、被本塁打0本は見事な成績でした。

 木澤尚文(慶大ーヤクルト)はリリーフタイプ5位のFIP2.61を記録しました。特徴的な数字はK/9の11.35でしょう。これは大石に次いで全体2位の好成績です。しかし、HR/9がリリーフタイプ平均の2倍近い成績であったことが響いてしまいました。

5.おまけ

5-1.運の影響が大きかった投手はDeNA5位・橋本

 ここからは本編とあまり関係ないおまけです。FIPと防御率の差に注目し、「運に大きく左右された投手」を見てみます。「FIP-防御率」の集計対象37投手の平均値は0.29でした。大雑把に、防御率よりもFIPの方が少し高い値になりやすいと言えるでしょう。この平均値との乖離が大きいほど「(チームの守備力などの)運に左右されてしまった」ということになります。

 図表5はFIPより防御率が大きかった投手です。橋本はFIPが2.80、防御率が1.19でその差は1.61と、平均値からの乖離が最も大きくなった投手です。FIPより防御率が大きいというのは、「FIPで図る実力の割には自責点が少なかった」ということになります。一般にはFIPより防御率が取り上げられることが多いので、その意味では「(失礼ながら)幸運にもいい成績が残せた」という見方もできるでしょう(単なる数字遊びなので悪意はないです)。

図表5:「FIP>防御率」の投手

 一方、「不運にも成績が悪かった」投手はこの逆、つまりFIPより防御率が小さかった投手ということになります(図表6)。石田健太(法大ーDeNA)はFIP-防御率が-0.39、平均との差が-0.68で、マイナスの方向に最も乖離が大きい投手となりました。もっとも前述の通り、FIPは打たせて取るタイプの方が高くなりやすいので、厳密には投球タイプの差を加味して評価する必要があることには注意です。

図表6:「FIP<防御率」の投手

5-2.FIP補正値の推移

 ここからは完全に「ご参考までに」という内容です。まず、FIPの算出式を再掲します。

FIP=(13×被本塁打+3×与四死球−2×奪三振)÷投球回数+リーグ補正値

リーグ補正値=リーグ全体の防御率−(13×リーグ全体の被本塁打+3×リーグ全体の与四死球−2×リーグ全体の奪三振)÷リーグ全体の投球回

 便宜上、リーグ補正値は各投手のドラフト指名年のリーグ全体の数字を用いましたが、リーグ補正値(=FIPのリーグ平均)の推移は図表7の通りです。全期間平均2.94に対して、バラけている時期もあったり、比較的安定した推移をしている時期もあったりと、なんとも言い難い結果になりました。

図表7:リーグ平均FIP推移

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