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国立ハンセン病資料館「いのちの芽」の詩人たち

国立ハンセン病資料館で開催中の企画展、ハンセン病文学の新生面「いのちの芽」の詩人たちを見に行った。
「いのちの芽」は詩人の大江満雄が中心になり1953年に「後ろ向きの嘆きや絶望を乗り越え前向きな意思と変革のイメージ」を作り出そうと編まれた、当時のハンセン詩人の若い書き手中心の詩集。
僕は高校生の時、真壁仁さんの編著「詩の中にめざめる日本」でこの詩集に掲載されている厚木叡の「伝説」と森春樹の「指」に衝撃を受けた。

「指」
いつの日から か
指は
秋の木の葉のように
むぞうさに
おちていく。

せめて
指よ
芽ばえよ
一本、二本多くてもよい。
少なくともよい。
乳房をまさぐった
彼の日の触感よ

かえれ
この手に

今回の展示でも、言葉のひとつひとつに深い想いを感じた。
同時に直筆の手紙や丁寧な背景説明が付記されているので、初めて見る人でも理解しやすいと思う。寿司職人であった森春樹が指を失って書いたであろう手紙やキリスト者として高潔な精神を保ち続けた志樹逸馬の直筆など、今後なかなかみることが出来ないであろう貴重な資料も展示されている。
それにしても、ハンセン病に対して我々日本人のとってきた偏見と差別の酷さは、展示室で再現されているマイナス15度にもなった特別室のおぞましさや妊娠した女性への中絶の強制など、同じ人間に対してこういうことを平気で出来るのが日本人なのかという想いを持つ。今こういう差別が無くなったかと言うと、どうだろうか。特別室は入管法の収容施設と大して変わらない気がしてしまうのだ。

それでも人間らしい気持ちを失わなかったハンセン詩人たちの声に耳を傾けたい。

あまり身近なので 読む人が
活字やインクのへだてを忘れ
空気のように呼吸し
血となり肉となり
生きる力となり
死のまぎわに ふと魂に呼びかけて
やさしく見送る
詩を書きたい
そんな詩集を 一人でも多くの人に 届けたい

1955 12.30
「わたしはこんな詩が書きたい」最後の部分
志樹逸馬詩集より

#国立ハンセン病資料館
#いのちの芽

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