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オムライスは金曜日

住所こそ渋谷区なのだが、我が勤め先はどうにも辺鄙な場所にあるらしい。結構な確率でお昼難民になることが多く、これが地味に悩みの種だ。そこそこ会社はあるのに何でこんなにご飯屋さんがないのかと、常々不思議に思いながら悪態をついている。小洒落たレストランや喫茶店があるにはあるのだが、本当にお昼どきの2時間しかやっていないのでちょっとでもタイミングを逃すとアウトなのだ。そもそも普段使いにするには単価が高いし。そんなこんなで、ともすると週5日コンビニ飯になってしまいかねない私の荒んだランチ事情を救ってくれるのが、毎週金曜日に会社から徒歩5分の場所に来るオムライス専門のキッチンカーだ。

飲食店の数に対して地味に勤め人の多いこの地域ではキッチンカーが発達(?)していて、昼時になると入り組んだ道のそこここにキッチンカーが停まり、近隣のお昼難民たちの胃袋を救っているのだ。曜日ごとに場所を変えて出展している車がほとんどなので、難民視点で言えば停車ポイントを1箇所知っていれば、日替わりで色々な種類のごはんにありつけるという寸法だ。


出店時間が長いわけではないけれど、仕事が立て込んでいてもパッと買いに出てすぐ戻ってこられるので、飲食店のように「行くタイミング逃した!」とはなりにくいのも魅力である。行儀は悪いがメールをチェックしながら自席で食べることもできるし。

特に私が気に入っているのが、金曜日のオムライスである。初めて食べた時から「なんかどっかで食べたことあるなー」と思っていたのだけれど、最近、通っていた大学の近所にあったオムライス屋さんの別業態と知って納得。キャンパスの前の道を挟んですぐだったので、学部の友達やサークルの同期、バイト先の先輩などいろんな人と食べに行った思い出の店だ。学生時代の味にこんなところで再会できるなんて!と結構感激したので、以来、タイミングが合う日は買いに走っている。


学生街に本拠地を構えているためか、しっかりとボリュームがあるオムライスは「ちゃんとお昼食べてますよ!」という気持ちになるので、コンビニで細々食べるより精神衛生も良い気がする。(めちゃめちゃ眠くなるけど)週のお尻の金曜日を乗りきるためにピッタリの昼食だ。

そういえば、学生時代の最後に友達と食べたのもこのオムライスだった。私の周りには就職を機に地方で一人暮らしを始めた子や、地元に帰った子が多かったので、何となく当時の友達とは疎遠になりつつあるのが悲しい。(特にここ1年はコロナの所為で全く会えない状況が続いているし……。)社会に出て丸3年が過ぎた最近、新しい環境に身を置き変化の中で毎日を謳歌している友人たちに比べ、今も変わらず実家で暮らし、勝手知った街で日々を過ごしている自分がなんだかひどく遅れているように思える時がある。このオムライスを「懐かしい」と思うくらいには、学生時代から離れられている訳だからそんなに焦らなくても良いだろうか。なんとも言えない。変化は目に見えるものばかりとは限らないし、同じ場所で、同じものを食べることで感じられる変化もあるのかもしれない。そんなことをぼんやり考えながら、今日も慣れ親しんだ味で空腹を満たすのだ。

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