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手術跡とセルパンボエム

 甲状腺をとって3年経ち、傷もまあだいぶ薄くなってきたので、首回りには気を使わずに生活できている。そういや手術前に傷跡について聞いたら、ダンディな先生から傷跡に沿うような素敵なアクセサリーを探しなさいくらいにいなされたなあというのをふいに思い出したのは買った後だった。
 旅行と外食に可処分所得の大半を使っていたので、この2年でそこそこの金額が残っていた。リングは手を洗う時に外してなくしそう、時計はもうちょい金額積みたい、ピアスは塞がってしまったし、イヤーカフはなくしたら泣けるということで、まあネックレスかな、と決めた。
 どこの何にするか雑誌やネットでいろいろ見てみる。いまだに雑誌が好きなので予算感とブランドの各ラインは頭に軽く入っていたが、実際に買うとなるとまた見方が変わる。長く使えるか、大げさじゃないか、子どもっぽく見えないかなど、毎日のように何を買うかがぐらぐら揺らいだものの、前からいいな、と思っていたブシュロンのセルパンボエムにしよう、と腹を決めた。ただしこの時は色石に当たりをつけていた。
 12月の中頃の平日午後早め、仕事が予想の半分くらいの時間で終わり、伊勢丹の1階のブシュロンに初めて買う気満々で立ち寄る。まずラピスラズリのXSをだしてもらうも、どうもピンとこない。小さいのかなあなどともう一度ショーケースを見ると、隣にあったダイヤのXSの光り方に目が釘付けになった。予算超えてるけどほしいのは断絶こっち!となった。ただ、伊勢丹にはイエローゴールドがなかったのと、ちょっとザワザワした環境で高いもの買うのはなあ、という気分になり、銀座の路面店まで足を伸ばすことにした。
 予約ないんですけど、と店員さんに告げ、色石のネックレスのシリーズ、という適当すぎる希望を告げると2階に通される。希望のダイヤのXSのイエローゴールドとローズゴールドの両方があり、試させてもらう。店員さんは断然イエローゴールド、とのことで、たしかに自分の肌の色にはイエローゴールドだよなあ、と納得して決める。今後増やして重ねづけもいいですよ、などと他のものもつけてくれたりして、また働いて頑張って買おうという気にさせられた。最近はコロナで本国の工房も輸送も止まってるんですよとか、ヴァンドームの本店素敵ですよね、なんて話をする。ラッピングはリボンが封蝋でハート型にとめられている、かわいいものだった。
実際使って見るとスキンジュエリーよりは存在感があり、毎日コーディネートを深く考えなくてもできるくらいにはクセがなく、使いやすい。
 ハイジュエリーのショップで買うというのは初めてだったが、気後れすることもなく、いい経験だったなあと感じた。買うなら路面店、というのは間違ってなかった。
 7〜8年前に友人と酔っ払って、雑誌に載ってる素敵なものはなんで高くて買えないんだーと言い合ったことがあった。友人は私の病気がわかるずいぶん前に突然この世からいなくなってしまったが、もし会えたならうっすら傷跡に沿ってるネックレスを見せたいなあと思った。

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