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南部弁のイメージ

デーリー東北新聞「ふみづくえ」
リレーエッセイ 2020年7月1日掲載

ジンジャー姉妹 湊山りえ

 私が子どもの頃、周りの大人たちが使う南部弁は独特の語彙があり、ひそかに憧れたものだった。大人の来客が多い家で、商売のこと、社会情勢のことなど、今思えば子どもの私にはよく分からない話をしていたと思う。加えて、大人の話に子どもが入ってはいけない、という方針の元に育てられたので、なおさら子どもと大人の使う言葉は別物だという意識が強くなっていた。

 「ぶじょほしました」「なさ」「かまどかえし」といった言葉の意味を知ったのはだいぶ後だ。母もよく使っていた「ぶじょほしました」の由来が「不調法しました」だと知った時は、なんて優雅で洗練された言葉だろうと感動した。八戸のかっちゃたちが使う「なさ」は文末に使われる丁寧な表現だが、こなれた大人っぽい雰囲気と距離の近さが絶妙で、これまた実にかっこいい。「かまどかえし」は大人たちが深刻な顔でヒソヒソと話す様子から、あまり良い意味の言葉ではないとは思っていたが、倒産、破産という意味だったと知ったのはつい最近のことだ。

 19歳の時、高校卒業後は、八戸を出て東京のアパレル企業に就職した。東京に来て最初に感じたのは、言葉の壁だ。バブル期の最中という時勢もあってか、現在のように方言が好意的に見られることは少なく、特に南部弁をはじめとする東北方言は、田舎者の象徴として扱われることも多かった。当時一緒に働いていた上司や同僚の大半が東京出身で、アパレル販売という職種もあって、かなり速やかに南部弁から共通語にシフトしたように思う。何より東北方言に対して、非常に心外だが「知性がない」「後進的」「品がない」というイメージを持っている人も多くいた。当時の上司が何かにつけ、田舎出身だからこういう今風なもの知らないでしょ?と言ってくるのも、心底忌々しかった。当時19歳の私にとって、東京というアウェーの地で南部弁を使うのは弱みでしかなく、何よりこれまで一緒に生きてきた南部弁を、不本意な形で消費されることに我慢がならなかった。今だったらもう少しうまく言い返せただろうに、と肝が焼げる思いだ。 

 今、ジンジャー姉妹の活動を通して、この方言についての固定的なイメージを少しづつ変えていけたら良いなと思っている。もちろん南部弁のほっこりとした温かさも大きな魅力だし、素朴で良い人そう、というイメージも悪くない。しかし、それだけが南部弁の魅力ではない。冒頭でも述べたように、私にとっての南部弁は、大人っぽくて、ユニークで、かっこいいのだ。

 先日、八戸出身のメンバーを中心に構成するYouTuber実験道場のJunko☆博士とのコラボレーションで、ラップのカバー曲をリリースした。また一味違う南部弁の魅力に触れてもらえたらと思う。歌は通常、妹のはるが担当しているが、今回のレコーディングは私も少しだけ参加した。50歳を目前にして、まさかラップを歌うことになろうとは。まんず、大変ぶじょほしました(笑)

<関連動画はこちら>
あゝハチノヘDreamin' Night /どついたれ本舗 八戸ディビジョン
https://www.youtube.com/watch?v=5wli4jZKsBw

<デーリー東北新聞社提供> 
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ジンジャー姉妹
八戸市出身の実の姉妹(湊山りえ・湊山はる)によるクリエイティブユニット。動画投稿サイト「ユーチューブ」で、歌と解説を通して南部弁の魅力を紹介。はるによる「アナと雪の女王」主題歌の南部弁バージョン「雪だるまこへるべ」「生まれではじめで~リプライズ」では、累計1200万回再生を突破。東京都在住。

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