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【ショート・ストーリー】バカな幼馴染が恋を知ったようです

「ねぇ、明日の服、どっちがいいと思う?」
「いきなり家に来たかと思えば何の話だ」
「何って、明日のデートの服装! なんとね、ボクには彼氏ができたのです! ピースピース!!」
 このいかにもアホそうな幼馴染、青木あおき春香はるかは自分の体に服を重ねる感じでどちらが似合うかを聞いている。
 春香と俺こと渡辺わたなべみつるは腐れ縁の幼馴染だ。
 幼稚園から高校までずっと一緒の学校に通っている。
 なんならプライベートも共有することが多々ある、いかにもな幼馴染だ。
 それにしてもこいつに彼氏……?
 うまくやっていけるのか……?
 などという若干失礼な疑問を覚えながら、なぜ付き合うことになったのか聞いてみる。
「なあ、なんでお前と彼氏さん? がなんで付き合うことになったんだ? そもそも、お前恋愛とかわかるのか?」
 すると春香は何事もないかのように答える。
「なんかねー、この間告白されちゃって。『春香さん! 俺と付き合ってください!』みたいな熱烈なやつをね。のんちゃんは『何事も経験だ』って言って進めてくれたんだけどね。ボクは恋とか彼のこととか何も知らないけどね……」
「それは大丈夫なのか……? だまされてないか?」
 幼馴染ながら春香の父親身分としてそれは心配になる。
 ちなみに「のんちゃん」は春香の同性の親友で女の友達の中では一番仲がいい。
 なんでも『充君の次に大事な人』とか言っている。
 ……いや、俺が一番なのかよ。
「む、いくら何でも彼氏君のことを言うのはダメだよ! 結婚式、呼んであげないよ!」
 そこでハッと春香が気が付く。
「って言っても結婚なんてまだ先だよね。えへへ」
 何かが切れる音がした俺は無理やりに黙らせるために強引にキスをした。
「ん~~!!??」
「(少し黙れ)」
「ぷはっ! いきなり何するのー! ちゅ、ちゅーなんて! ボク、彼氏いるんだよ!? もう充くんなんて嫌い! ばか! 今日はもう帰る!」
「わかった。ただ俺は金輪際お前とはかかわらないようにするわ。そして何も彼氏のことを知らないのに付き合うのはやめたほうがいいぞ。おーけー?」
「別にそこまでしなくてもいいんじゃ……?」
「でもこの状況は浮気になるぞ?」
「わかった、別れる! 別れるから!」
 お前の恋はそんなに単純なのか。
 やっぱりわかってないなこいつ。
 少し教育でもしてやろう。
 そう思って思い切り春香を押し倒した。
「ふぁ!? なんでいきなり押し倒したの!? 今日の充君、何かおかしいよ!?」
「そうか? 俺はバカなお前に少し教育してやろうと思っただけだぞ?」
「教育って……押し倒す行為は必要なのかな!?」
 やばい、怒りが臨界点に達しそうだ。
 こうなったら——
「ん!? ん~~!?!?」
 単純なキスじゃなくて少しだけ下を這わせる。
「ちょっと!? 押し倒されて両手恋人繋ぎでそれにちゅーまで……えっちすぎるよ……」
「俺が何を言いたいのか理解できる?」
「わかったら苦悩しないよ!」
「それもそうか」
 あっさりと認める俺が怖い。
「俺は、お前のその単純な恋愛は認めない。なんか親より干渉してる気もするけど、相手のことを何も知らないのであれば別れたほうがいい」
「な、なるほど……?」
 やっぱり理解してないなこいつ。
「もっと簡単な質問してみようか。俺と今の彼氏君はどちらが大事なのか?」
「そりゃあ……充君だけど?」
「なんでだよ!?」
「ふええ!? なんで怒るの?」
「普通は俺よりも彼氏を優先するんだよ。あ、いいこと思いついた」
「そうなんだ……。いいことってエッチなことじゃないよね?」
「違うから。もし、俺に彼女ができたらお前はどう思う?」
「へ……? いいんじゃないかな。三人でどこ行くの? 公園? 登山? ドライブデートもありだね」
「いや、俺に彼女がいたらお前は呼ばないけど」
 当然の所業である。
「へ……。それってもしかして二人きりで今みたいに手を繋いだりちゅーしたりするってこと……?」
「そういうこと」
「だっダメだよ! そんなの嫉妬しちゃうよ。……ってまって」
「どした?」
「もしかして、これが『恋』ってことなのかな? 充くんがほかの女の子に取られるって考えるとすごく胸が苦しくなっちゃうのが……?」
「まあ、そういうことだ」
「おっけー、ちょっとまってて」
 すると春香はスマホを取り出し、電話を掛けた。
「あ、もしもし? ごめん、ボクと別れてほしい。え、理由? 君より優先したい人がいるから? じゃっ、そういうわけで明日のデートはなし! ごめんね!」
 そういって電話がブツリと切れた
「さすがに今のは彼氏君がかわいそうなのでは……」
「そうかもしれないけど、ボクの本音が理解できたからいいかなって」
「あ、そう……」
 なんか何でもいいやっていう状態で今度は俺が押し倒された。
「春香さん?????」
「ん~?」
「近いです……」
「そうかな? ボク、バカだからわかんないや。さっきもね、すっごくドキドキしたの。ちゅーとかしたとき。だからね、ボク、もっとドキドキしたい。ね、良いでしょ?」
「…………」
 絶句とはこのことなんだな。
「今日からの彼氏君♡」
 バカでも、間抜けでも、幼馴染との恋愛を夢に見ていた俺は、夢がかなった、とでも言うべきなのだろう。
 これからの世界の中で、春香とともに幸せに生活ができていればそれでいいかな。



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