TCGの変遷~デッキは“作る”ものか“選ぶ”ものか

先日ポケモンのWCSが終了し、ゲーム部門では日本人が三冠を達成、ポケモンカードではそれぞれ全く違うタイプのデッキが三部門で栄冠を勝ち取るという輝かしい結果に終わった。
しかし、今回書こうと思っているのはWCSの結果に関するものではなく、以前ポケカ界隈で議論になった話題についてである。

その内容はというと、「TCGのデッキは“作る”ものか“選ぶ”ものか」というものであった。

ちなみに筆者である私は現在他のTCGは一切触っておらず、昔遊戯王にちょっと触れた程度なので、他TCGに関しては語ることができない。よってこれから話すことはポケカのみの話になってくるのだが、実際今、ポケモンカードのデッキは「作る」ものから「選ぶ」ものになってきていると言われている。
要するに、環境に存在するデッキタイプはいくつかの種類に分かれており、同じデッキタイプは概ね同じような構成で固定されているので、その数種類の中から選んで使う時代になってきているということである。
これはポケカに限ったことではなく、本家ポケモンのゲームの対戦においても同じことが言えるとされており、昔と違って今は環境で強い並びというのが大体共有されている(後述)。

このような時代になったきっかけとして、一番大きいのはインターネットの普及だろう。

一昔前は今よりもインターネットを利用する人が少なかったため、大会で入賞した構築などがあまり他のプレイヤーに共有されず、構築をどのように作るかが曖昧であったため、情報が少ない状態で一から構築を練らなくてはならなかった。
私は小学生の時(DP期)もポケカを少しだけやっており、大会に出たこともあるが、当時掲示板で、今のネストボールと同じテキストを持っていたスーパーボールを「ベンチに出さなくてはならないため不便だ」と評価する書き込みを見たことがある。というよりその人が言うには「ボール系のトレーナー(現グッズ)は全て不便」とのことだった。

今、ネストボールは大抵のデッキに数枚入る必須グッズであるため、今のプレイヤーからすればあり得ない考えである。
それくらい当時のポケカの構築論が曖昧だったということを示している。
また、当時大会やイベントには数回しか出たことがないが、その時の記憶だと、どの対戦相手もデッキの中身が個性的で、決まったデッキタイプを数人が使用しているという光景は見たことがない。

しかし、現在では、大会に出れば複数人の人が9割近く同じカードで構成されたデッキを持ってきており、デッキを作るというより、数種類のデッキタイプの中から選んで使用しているという感じになってきている。(もちろん自分が使いやすいように細部のカードや枚数配分を変えることは多々ある)ゲームのポケモンも同じで、昔は構築を一から作らなくてはならなかったのに対し、現在では強い並び(例としては9世代でいうなら「セグカミラッシャ」などが該当するだろうか)がある程度決まっており、特にダブルバトルではインターネットが普及したことによりフォロワー間で同じ構築を使う構築共有も頻繁にされているほどである。
もちろん昔のポケモンが全くそうでなかったかといえばそういうわけでもなく、第4世代のポケモンのシングルには「結論パ」なるものが存在したらしい。しかし、共有された構築は本当に一握りで、今ほど構築が共有されたわけではなかっただろう。

このように、現代においては「どのようにデッキを組むと強いのか」「どのデッキが強いのか」がはっきりしているということになる。

このような時代になったことによる恩恵としては、誰でも強いデッキを組めるようになったことだろう。
昔はどのようにデッキを組めば強いのかわからない人が多く、インターネットもそこまで普及していないため大会で入賞した構築を参考にしたり、入賞者から情報を得ることも困難であったため、強い構築を作れるのは本当に一部の才あるものに限定されていたと言える。
しかし、現代においては入賞構築も簡単に見ることができ、参考にすることができるし、どのようなデッキタイプが強いのかがはっきりしているため、誰でも強い構築を作ることができる。その分強い構築の作り方を誰でも学ぶことができるし、それに伴ってプレイングも向上しやすい。

いわば今のポケカは昔と違って「教科書」が存在するといった状況であり、教科書通りにやっていけば誰でも構築やプレイングを身に着け強くなることができるのである。
その分プレイヤー全体のレベルは上がっており、ポケカを始めて半年くらいのプレイヤーが大会で上位入賞するといった報告も多く聞くようになった。

ただし、一部のプレイヤーはこの状況を良く思わないだろう。
ポケモンは特に個性や独創性を重んじる風潮があったため、同じような構築で塗り固められた環境や、1から自分のデッキを作ることができない風潮を良く思わない人もいるだろう。

ただ、本記事のタイトルのもなっている議題に対する私の持論として、

デッキを「作る」のは上級者、デッキを「選ぶ」のは中級以下

というものがある。
要するに、デッキを1から作ってそれを形にして大会で結果を出せるのは、環境を理解し、構築論を高いレベルで会得した上級者だけができる芸当であり、それ以外は模倣と言う形でそれらを学んでいく、ということである。

初心者が0からデッキを作り、ネットに共有された入賞デッキと戦っても基本的に歯が立たないのは当然であり、何よりそれでは構築もプレイングも学べず向上に繋がらない。何より負け続けてゲームが面白くなくなるのがほとんど。

「学ぶ」という営みは全て「模倣」から始まるものであり、勉学に関してもスポーツに関しても、なんなら仕事でも基本的に初心者は全て他人の真似事から始まるのである。

「教科書」が存在する今のプレイヤーは非常に恵まれているといって良いのではないだろうか。

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