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ユーザリサーチ小噺・対話と実態と抽象と

本記事は、Research Advent Calendar 2023 の17日目の記事です。

過去のユーザインタビューにて「直接対話することの意義」を強く感じるシーンありまして、それについて文章化しておきたいと思います。

対話の中で翻る情報

ネットショップ管理ツールについてユーザインタビューをしている時に、以下のようなやりとりがありました。(ユーザの名前を仮にAさんとします。会社員しながら副業でグッズ販売している方です。)

:弊社のサービスの利用実態についてお話を聞きします。
ネットショップ運営にどのくらいの時間を割いてますか?どのくらいの頻度でネットショップの状態チェックとかの、ショップ運営業務を行いますか?

A:いやー、あまりやってないですね。週に1〜2時間とか、そんなもんです。

:おや、あまり時間割いてないのですね。では次の質問ですが、Aさんの生活リズムを聞いてもよろしいでしょうかね。典型的な1日の過ごし方をお聞きしたいです。

A:えー、そうですね。朝起きて、ショップへの問い合わせメールをチェックして、朝ごはん食べながらインスタとTwitterでウチの商品について新しい投稿ないかエゴサして、職場に向かう電車の中で問い合わせへの回答とか商品の広告案考えたりして… w …. あれ… wwwww

:w ずっとネットショップのことやってるじゃないですかwww

A:ほんとだwww ずっとやってるwww ほとんど中毒者だwwwwww

ある行動の頻度を問われて「ほとんどやってない」と答えた人が、その数分後に「中毒レベルでやってる」と回答を翻した、という事例です。
ユーザの認識と実態にズレがあったわけですが、これには以下のような理由があります。

  • 最初に質問者が「弊社のサービスの利用実態について」と言ったために、「そのサービスのUIをに触れる時間・頻度」に意識が向いてしまった。実際には、メールやSNS画面を通してネットショップ業務を行っていた。

  • 生活の中に組み込まれているために「サービスを使っている」「ショップ運営業務をしている」という自覚がなかった。

こんな感じです。

「メールやSNSといった日常的に使われるツールが特定サービスのUIとして機能していた」とも言えます。(ちなみにこれは偶発的なものでなく、開発側で意図的にデザインしたものでした。)

ここで肝になるのは、「ユーザ自身が利用実態を認識していなかったが、インタビューの中では実態が吐露された」という点です。

「ユーザの認識していない実態」はアンケートやユーザビリティテストで得られたか?

「ネットショップ運営にどのくらいの時間を割いてますか?」という設問を含んだアンケート調査を行なったとして、このAさんは「週1〜2時間」と答えたことでしょう。
UIを触ってもらってユーザビリティテストをしても、ショップ運営がどのように日常に染み込んでいるかの実態は見えなかったと思います。
インタビューという、対話の中でフォーカスすべき点を選定しつつ深掘る形をとったことで、ユーザの実態(ひいては、そこにある課題)を明らかにできたのだと考えています。

ユーザの実態を捉えるには、ユーザの発言や行動だけでなく、生活をまるごと観察するべきです。(それは生活というより、「人生」といった方が正しいかもしれません。)
そのための手段としては、フィールドリサーチのような形で人やコミュニティを直接的に観察できたら理想的なのですが、現実には丸ごと観察することは難易度が高く、多くの場合はインタビューという形が良き落とし所なのだと思っています。

実態の集合体としての抽象ユーザー

ここまでの話は、1人のユーザー(または、1つの家族などの小コミュニティ)の実態を得ることにフォーカスして述べているのですが、実際にビジネスの施策にリサーチ結果をつなげていくには、1サンプルの情報では説得力に欠けます。

現実には、複数人の実態情報を探って、多面的・多角的に実態をとらえて説得力(ビジネスとしての現実味)を上げる必要があります。
得た情報量が増えると整理・統合の必要が生じるのですが、これが結構厄介です。

  • 複数人の行動や志向を統合しようとすると、矛盾が生じる。

  • 傾向を探ろうにも、多様すぎて客観的な傾向が見出せない。

  • 特徴を平均化してしまうと、実態から離れる。

などなど。
これらに取り組むための分析手法やフレームワークなど種々ありますが、どう対処するにも、キーとなるのは「ユーザの抽象化」ではないかと思っています。
※ 「抽象化」と言ってしまうと実は語弊有るのですが、この記事ではひとまず「抽象化」で押し切ります。語弊についてはこの記事の末尾参照。

ここでいう抽象とは、曖昧であるということではなく、「無数の具象に転じ得る、1つの原型」みたいなことを指してます。
オブジェクト指向プログラミングの経験がある方なら、「抽象クラスと具象クラスにおける『抽象』のこと」と述べるとわかりやすいかもしれません。

私は1つのプロダクトのユーザリサーチを2年ほど継続的に行った経験があるのですが、その際にこの「抽象化したユーザ」を、ある程度の精度・網羅度で脳内に構築できました。

例えば、

アクセサリーショップで、転売ヤーに困ってる人いる?

と聞かれたら、

インタビューした中にいましたね。人気が上がった時に、… (具体的なエピソード)… ということがあったらしいです。あと、アクセサリではなくキャラクターグッズですが、転売対策として … (具体的なエピソード)… を試したそうです。良かったらそのインタビューの議事録をお渡ししますよ

のように答えることができました。

「アクセサリショップ」や「転売ヤー」などのキーワードをもらえれば、それにあてはまる(または、ある程度近似する)実態情報を、具体例を添えて回答できる、という状態です。
※ 実態情報全てを記憶しているわけではないので、実際には質問されて即答するわけではなく、いくらか資料を漁ってから返答しています。

ユーザの抽象化に成功すると、ビジネスの企画や遂行(または、それらのサポート)がだいぶ行いやすくなります。

属人化解消が課題

脳内でのユーザの抽象化に成功したとして、抽象ユーザそのものを他者と共有することは難しく、属人化した情報となってしまいます。
インタビュー議事録データベースのようなものを作成し、そこからキーワード検索できるようにすることで抽象ユーザの代替とすることを目論んだこともあるのですが、イマイチ便利なものにはなりませんでした。(キーワードからヒットする情報が多すぎたり、少なすぎたり。)

今、数名分のインタビュー結果をGPTsに学習させて抽象ユーザを作ることにトライしています。うまくいったらnoteにて報告したいと思います。(が、難航中…)

(語弊について)思考法としての「抽象化」とは

抽象化とは
抽象化とは、「複数の情報に共通する要素を抜き出すこと」を意味します。
重要ではない細部の情報を取り除き、物事の本質を捉えるための思考法です。

GLOBIS CAREER NOTE より

「重要でない細部の情報を取り除き」という部分が、私の述べる「抽象化」と異なります。
私の意図する「抽象化」を少し細かく書くと、「細部の情報を全て内包していて、条件に適した具象物を生み出せる抽象物を得ること」ですね。これを「抽象化」と呼んでしまうと語弊ありなので、何か他に適切な言葉を探しています。何か無いです?

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徒然と書いてしまいました。雑文をお読みくださり、心より感謝します。




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