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よくわからないはなし

 よくわからないまま書き始めるのはいつものことで、創作ではなく頭の中からジャンクファイルを外へ出す作業のように思っている。そして、スマホの幼児向け無料おえかきソフト(わたしでも扱えるレベルで安心なやつ)で遊んでいたらば、ヘッダーは白いカラスのような何かになった。「かあ」と補足を書いていて、これは連想ゲームでは失格になる禁じ手である。何も考えず描いたうえにズルしていることがバレバレである。わたしはそういう根性なのである。ごまかしようが無い。これは仕方ないのです。

 今日、道を歩いていたらカラスが飛んでいた。カァカァと言いながら飛んでいて、そのまま翼を垂直に立てるようにして電線に止まった。ガラガラしていない鳴き声からするとハシボソガラスだろう。電線に止まったカラスはそのままあたりを見回して、しばらくだまってとどまっていた。
 そこから見える景色はどんなだろう。人間や猫や他の生物が見上げる世界。車や自転車が地面を滑るように動く世界。
 カラスは自分が空を飛べることを知っていて、鳩やトンビやムクドリが飛べることを知っていて、そうでない生物は高さのある世界に来られないのを知っていて、毎日生活しているのだろう。

 ある日、カラスが電線から舞い降りてきて、ゴミ収集車の屋根に止まった。ゴミ袋を狙っていた。収集員は手慣れた様子でゴミ袋を収集ボックスから収集車の後ろにあいている大きな口に放り込んでいった。カラスはそれを見ていて、やかましい音を立てて自分にとってのエサが吸い込まれてしまうことを理解しているようであった。それは、いちどうっかり吸い込まれると出てこられない、ということでもある。カラスをそれを理解して、ゴミ袋の誘惑から距離をとっていた。収集員は、カラスが居ようが居まいが自分の仕事の外側を見ることはなく、つまりはカラスの存在があろうとなかろうと気にしていなかった。それに慣れたカラスはついにゴミ収集車にくっついたまま移動し続けていたのであった。
 カラスは自分が羽ばたいて移動しなくてもいろいろなところに行けることを知った。それはこれまで見ていた高みから俯瞰する世界ではなく、地面を滑りながら動く新しい世界であった。地面は騒がしく混み合っていて、風が無い。陽の光も届かない。迷路のような世界を、収集車は縫うように走っては停まり、また走っては停まった。カラスはエサにありつけると思い定めて収集車につかまったまま右へ左へ振り回される。自分の意志ではなく収集車のいく方向に振り回される。気になるものがあっても収集車はそちらへは行かず、飛び立って前へ進めばいいのにそうはせずのろのろと動き回る。そうして人間は隙もなくエサをどんどん後ろの口へ食べさせてしまう。後ろの口はとんでもない音を立ててエサをばりばりと飲み込んでしまう。
 自分が苦労しなくてもエサにありつけると思っていたのが、めまいがする環境と騒がしくおっかない口に厭気がさして、カラスは収集車から飛び立った。
 収集車はそのまま、地面を右へ左へ滑っては止まり、滑っては止まりを繰り返す。止まるたびに収集員が後ろの口へエサを食べさせる。カラスは電線に止まってしばらくそれを見ていたが、向かい風を感じて翼を広げた。収集車の動きに付き合わされた三半規管はまだ酔いからさめておらず、ふらふらとしていた。