昔、宋の法師我が国に巡りしに、やうやう日の暮れければ、富士なる山の麓に宿らむと思ひしに、木々のまばらなる所、明かり仄暗く揺らぎける社あり。 寄りて見ければ、戸は破れ、茅葺きしたる屋根も今はその影なしと覚ゆ。 法師、破れたる戸の僅かに残りたる端を叩きて、 「ここなる社に、今一晩の宿りを許し給へ」 と請ひしに、社の主とおぼしし人、 「さもあらん」 とて許せり。 かの主、名を福慈と申す。 福慈、 「古、新嘗しける日の夜に、ある人訪ね給ひて宿を請ひけり。諱忌ゆえに宿らせざり
昔、女遊びが過ぎる男がいた。 今日も女を誘いに出かけようと支度をしていたところ、窓から美しい女が道を歩いているのが見えた。男は、これを逃す手はないと思い、急いで玄関を飛び出たものの、既に女は過ぎ去った後だった。 女が向かったと思われる方向を見ると、そこには紅く細長い蝋燭が一本落ちていた。 「さっきの女がこれを探しに来るかもしれぬ、私が拾って管理しておこう」 男はその蝋燭を家へと持ち帰り、棚に置いた。そして途中だった支度を終わらせると、遊び相手になってくれる女を探しに