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ブラームス交響曲2番にもあったクララコード

私は、岩手県民オーケストラというアマチュアオーケストラでクラリネットを吹いている。
https://www.facebook.com/IwateKenminOrchestra

来年2月の定期演奏会に向けて、ブラームスの交響曲2番を練習している。先日は、木管セクションの練習を 日比野先生(元・仙台フィル・首席クラリネット奏者、現。宮城教育大教授)にみていただいた。この練習は、とても楽しく、たくさんの貴重なご指摘と気づきがあって大変勉強になった。その中のひとつのトピックを紹介する。

2楽章の冒頭、チェロの主旋律を支える2小節目4泊目から3小節目の木管とトロンボーンのハーモニー。「4度上がって、二度ずつ下がる動きは、ブラームスがいろいろな曲で使っているクララ・シューマンとの間をつなぐ大事な動機(モチーフ)。単なる伴奏ではなくて、ひとつのフレーズとして演奏するように」との指摘。さらに、「同じフレーズは何度も繰り返されるので、気をつけて。特に、86小節以降のフォルテの全奏の部分も、四分音符を吹いている管楽器は、このフレーズ感を大事にして」。

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おお、そうだったのか、とびっくりして、そして納得した私。

クラリネット吹きにとって、もっとも大事なレパートリーにブラームスのクラリネットソナタがある。ブラームスはロベルト・シューマン、クララ・シューマン夫妻にその才能を見いだされ、大作曲家の道を歩む。ロベルトの死後、ブラームスは14歳年上のクララと、40年にわたって深い親交を結び、生涯、独身を通してきたことは、音楽史上の有名なエピソードである。ブラームスのクラリネットソナタ第1番の冒頭のメロディーには、ブラームスのクララ・シューマンへの愛が秘められている。

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このエピソードは、クラリネット吹きの間では、よく知られているけれど、ここで簡単に説明してみよう。
クラリネットソナタは、ブラームスの最晩年(61歳、死の3年前)の作品(Op.120)だが、この作品を書き上げた後、ブラームスはクララに楽譜を送って感想を求めているが、その手紙に、ブラームスは「蛇が尾を噛んで、環は閉じられたのです」と書いている。これは始めと終わりがつながって環となって完結する、という意味の表現らしいが、終わりはもちろんクラリネットソナタの冒頭、そして、この始まりに相当するのは、ブラームスの作品1のピアノソナタ1番である。その2楽章に、クラリネットソナタと同じモチーフがある。このピアノソナタは、シューマン夫妻の前で、20歳のブラームスが披露し、その素晴らしさに感激したロベルト・シューマンはブラームスを称賛する批評を書き、その後、シューマン夫妻はブラームスの活動を支援した。

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このエピソードは以前NHKで放映された「クラシックミステリー名曲探偵アマデウス」でも取り上げられた。動画がYoutubeにアップされている。

クラシックミステリー名曲探偵アマデウス File.86 ブラームス クラリネット・ソナタ第1番
https://www.youtube.com/watch?v=bI1yMhxOfF8

この4度あがって2度ずつ下がるというモチーフは、バッハのマタイ受難曲のコラールの中にたびたび現れるもので、ロベルト・シューマンがバッハの研究を進める中、このモチーフを、クララとロベルトの間の愛のモチーフ(クララ・コード)として、彼の作品の中で用いるようになったという。

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元N響クラリネット奏者の磯部氏の研究によると、晩年のクラリネット3重奏曲、5重奏曲にも類似の音の動きがあり、これはブラームスからクララへの最後の愛のメッセージではないか、という。

ブログ 考える葦笛:ブラームス:4つのクラリネット作品におけるマタイ動機
https://hornpipe.exblog.jp/6487896/

シューマンが譜面に散りばめた暗号~クララコード
https://ameblo.jp/dolcisspf/entry-11259155444.html

さて、ブラームスが交響曲2番を作曲した44歳の頃に、交響曲の中にクララのモチーフを潜り込ませたかどうかは分からない。このフレーズはたまたま曲の流れで、このような音の動きになったのかも知れない。けれど、このようなことに思いを馳せながら演奏するのも楽しい。ひとつひとつの音とフレーズを大事にして演奏するよう心がけたい。

**2021年」2月13日の定期演奏会は、岩手県内でコロナウィルス感染者が急拡大したため中止となりました。同じプログラムで、2022年8月に開催予定です。


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