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魔法

突拍子もないことをしてみたいが、具体的なことが思いつかない。リスクの無いことでお金も掛からない、とにかくお手軽なやつがいいのだ。

家庭も仕事もしがらみもある主婦には、お手軽な異世界転生モノを読むくらいがせいぜい。

どうやら剣や魔法の世界で楽しんでいたかつての世代が『転生』という武器を得て、感情移入出来るようになったというのがこのジャンルが盛り上がるようになった1つのキッカケらしい。

魔法が使えたら、あれがしたいなあと幼心に思っていたのは、大人に変身するとか、色んな職種を体験するとか『今すぐには叶わぬ大人への憧れ』であり、時間を短縮してくれたり、様々な夢の疑似体験を経て大人になるための準備を進める用途が主であったように思う。

今なら自動追尾型で自分に浮かびながら着いてくる絶対安全なベビーカーとか、業務スーパーで大量買いしても時間をとめたまま保管しておける異空間収納とか、それこそドラえもんの『どこでもドア』的な、生活を楽にする類のものばかりが思い浮かぶ。

夢や希望がない訳では無いが、人の心を操作するのは魔法じゃなくて呪いだし、気候やらなにやら変えてしまっては人様の迷惑になる。自分の生活空間を心地よく保つならエアコン1台で良い。

そう、エアコンは魔法みたいなものだ。
高度に発達した科学は魔法と見分けがつかないなんて誰かが言っていたけれど、まさにその通り。

夏の暑さも扉をくぐれば肌寒いほどヒンヤリとして、遠く離れた人ともほぼ時間差なく顔を見て話すことが出来る。椅子に座ったまま気温を変えたり、人と繋がる事が出来るという意味において、リモコンと携帯電話は現代における魔法の杖とも呼べるだろう。

残念なことに、リモコンと携帯電話の役割には互換性はない。頑張ればスマホから操作できるエアコンはありそうだが、リモコンからは通話は出来ない。

待ち合わせ場所に着いたことを知らせようとして、私がカバンから取り出したのはリモコンであった。…誰かの魔法で取り替えられたのかもしれない。

かつて、家の固定電話の子機と携帯電話を間違えて外出した友達に大爆笑したのを思い出したが、今日は私が笑われる側になりそうだ。

私は何気ない日常生活にふいに訪れた魔法のような『突拍子もないこと』のエピソードを手に、笑顔で手を振る友人の元へと向かった。

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