転じて職となる。
〝絶対の絶対に無理だ。〟
大量の段ボール箱、
膨大な資料。
端正な顔立ちの男性は大きい目でチラリとこちらを見やった。
〝あ、やばい。間違えた。〟
瞬間的に異性に対する恐怖心を思い出す。
バリバリ現役、管理職です。
顔で語っている男性を前に、
わたしは〝記念受験〟と称し面接を受けにきたことを後悔した。
〝冷酷非情〟彼の顔にその文字が貼り付けてあるように見えて仕方がなかった。
〝初めから無理難題だったんだ、
わたしには向いていない。〟
後から入ってきた男性と2人、前に並び面接は始まった。
〝受かる気もしない、元々希望部署ではない。〟
その2つがわたしの緊張を解く。
冷酷です、と顔に書いた男性と
打って変わって朗らかな男性、
2人を前にしてわたしは憧れのさなかにいた。
結論から述べると、サクラサク。
〝記念受験〟もやってみるものだと思った。
なんだかんだと2年半勤め上げ、
〝冷酷非情〟だと思っていた男性は直属の上司になり、この上ない優しさをくれた。
般若かと思うほど怖い時もあったけれども。
ただ、ただ憧れの姉と従姉妹と同じ〝職種〟に尽きたい、
その想いだけで来た人間をよくも雇ってくれたものだと今でも思う。
楽しいことばかりではなかった2年半、
今までとはまったく違う業種。
毎日頭をパンクさせながら、
パソコンを故障させながら、
それでもやってこれたのは一重に上司のおかげで、
案外、転職とは人との縁で、
向いているとかいないとか
そんなことよりも、〝誰かの役に立ちたい〟その気持ちが大切なのだと知れたいい経験だったと
絶賛無職、家事手伝い。のわたしが頭を垂れておく。
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