はるのれいん

物語を書くのが好きです。

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最近の記事

あの山の向こう側

あの山の向こう側を誰も知らない。  夏休みも8月に入った。今日も猛暑日となる予報だ。 「なあ、テル。山の向こうに行ってみようか」 「何だよ。どうしたんだよ、いきなり」 冷房の効いた僕の部屋で漫画を読んでた勇斗がムクッと上半身を起こした。 「興味あるよな?」 「無いよ」 僕がそう答えると、勇斗は僕の返事を気にする素振りも見せずに漫画を閉じた。 「よし、明日行こうぜ。探検だ」 「何馬鹿なことを言ってるんだよ。そんなこと知れたら大変な事になるって」  僕は呆れたようにゴロリと背中

    • 雨上がりのオウンゴール

      「どこか具合でも悪いの?大丈夫?」 そう言って隣の席から見知らぬおばさまが顔を覗かせてくる。 「あ、いや、大丈夫です」 僕は引きつるような笑顔で答えた。 「でも、とても苦しそうだし、血の気が引いたように真っ青な顔してるわよ」 「あ、全然大丈夫ですから。本当に大丈夫です」 僕は小さくお辞儀をして窓のほうに顔を向けた。 「それなら良いけど・・・・」 おばさまはそれ以上は何も言ってこなかった。  ポツリポツリと窓に水滴が当たった。僕は空を見上げた。いつの間にか真っ黒な雲に覆われてい

      • 夢の中身

         スマホの動作が重くなったら、溜まっているキャッシュを削除すればサクサク動くようになる。夢もね、これと同じ理屈なんだって。  脳の記憶がキャパオーバーになりそうな時、不要な記憶を整理しないと新しいことを取り込めない。空きスペースを作るって意味ね。記憶は何もせずに自動的に消えて行く訳ではなくて、消去するには一度放映しないといけない。夢って、その整理の過程で見るものらしいとは何処かで聞いたことがある。 「ねえ、ゆきみ。昨日、変な夢見ちゃった」 「えー、夢の話〜?」 「いいじゃな

        • ショートショート新ネタ特集

          第1話    不審者     日頃のストレスからか、最近よく食べるようになった。食事の量も増えたし、そればかりかとにかく間食が酷い。以前はお菓子なんて殆ど買わなかったのに、習慣って本当に怖いのね。      そういうことで、今日から散歩することに決めました。そう、毎日ですよ。      私はパートだから午後三時半には帰宅する。それから、直ぐに散歩の準備。準備ったって、まあ、それなりの歩く格好に着替えるだけなんだけど。    さて、行きますよ。天気も私の散歩を祝福してるみた

        あの山の向こう側

          ショートショート 地下鉄に

          久しぶりに地下鉄に乗ってみると、左側の座席に座ってこっちをじ~っと見ているスーツ姿の男性がいた。 アナゴくんだった・・・・・

          ショートショート 地下鉄に

          ショートショート 私の日常

          柚希は「もう、いい加減にして」と思っていた。 たった一ヶ月しか付き合ってないのに彼氏面なんかされたらたまったもんじゃない。 世間によくあるじゃない。使用期間ってやつ。そう、それなのよ。 えっ、抱かれたから自分の女だって? バーカじゃないの? 今どきそんなこという男なんていないっちゅーの。 あんなのただのレクレーション的なものでしょ? 江戸時代なんて見てみ? 日常的にあっちこっちでやってて、家に居る子供なんて実際何処の誰の子か解らなかったっていうじゃない。 そ

          ショートショート 私の日常

          ショートショート プレゼント 3

          僕は毎年チョコを食べている。 リボンで奇麗に着飾った、自慢の・・・・俺チョコを。

          ショートショート プレゼント 3

          ショートショート プレゼント 2

          生まれてこのかた32年。 私はプレゼントなるものをただの一つさえ贈ったことがない。 何もしなくても相手が勝手に贈ってくるからね・・・・

          ショートショート プレゼント 2

          ショートショート プレゼント 1

          生まれてこのかた28年。 僕はプレゼントなるものを貰ったことがない。 義理チョコのハート型のやつの、たった一つさえも・・・・

          ショートショート プレゼント 1

          ショートショート まさかの・・・・嫉妬

          我慢の限界を薄々と察知した僕はショッピングモールのトイレに駆け込んだ。 中の造りは少しばかり洒落た感じで背中合わせに小の便器が三つずつあった。 右側には真ん中の便器に中年の人が用を足している最中だった。 左側には二十歳いくかいかないかくらいの男の子が二人いたが、一番手前の便器が空いていたのでサッとそこに体を入れた。 ふう・・・・・徐々に体が軽くなっていく。 体と気持ちが楽になったからなのか、ふと隣の二人が気になった。 右端の男の子はおしっこしている様子だったが、隣の

          ショートショート まさかの・・・・嫉妬

          ショートショート 嫉妬

          昼休み、友達の美真琴(みまこ)が不思議そうな顔で言った。 「ねえ、涼子。朝からなに怒った顔してるの?」 「わからないの?」 「えっ?」 「は?本当にわからないの?」 「マジわからないけど」 涼子はいよいよ怒りに火が点いた。そして大声で怒鳴った。 「ジェラシー!!!」 次の日、登校すると教室は私の噂で持ちきりだった。 「あの子、あんな顔してるけど」 「何?」 「痔らしい」 

          ショートショート 嫉妬

          見知らぬ街は異国の風景

          首筋にまとわりついた髪に欝陶しさを感じる夏の白い昼下がりだった。    小洒落た薄い水色のハンカチは、いつの間にかじっとりとした肌触りに変わり、佐伯雅(みやび)は白いシャツに透けた下着が辱めを受けているような気になって、背中に張り付いた布地を時折指先でつまんでは剥がすことに神経を使っていた。  少しだけ涼もうか。ひりつくような太陽を細めた目で見上げると、雅は大通り沿いの喫茶店のドアを静かに押した。その拍子に鳴ったチリンチリンという音にビクリと細い首をすくめてはみたが、その音色

          見知らぬ街は異国の風景

          ショートショート 私を取り合ってダーリン

          良く言えば情熱的。悪く言えばストーカー。気が付けば、そいつはいつも私の視界の中に居座っていた。 次第に行動はエスカレートし、無理矢理に用事を作っては私の体に接近してくるのだ。 いたたまれなくなって随時追い払ってはみるものの、すぐに私の元へと舞い戻って来ては何も無かったかのようにすました顔で収まってくる。 私が本当に好きな相手はこの人ではないのに。 そして月末になった。 この時になると決まって私に近寄ってくる別の男がいる。 その姿を見ると私の鼓動が早くなる。手のひらの上に

          ショートショート 私を取り合ってダーリン

          ショートショート また真夜中がやってくる

          夕食が済む頃には外はもう暗闇に満ちていた。 都会でもなく田舎とも言えない、中途半端な街並みの、そこから少しかけ離れた住宅地の一辺にあるごく普通のアパートのごく普通の一室。ここが私の居場所であった。 誰にも邪魔されない。束縛なども微塵もなく、気の向くまま自由奔放に生きられる。社会のしがらみに眉間にしわを寄せることもなく、私は私としての個を主張出来るただ一つの大切な空間。 だけど、真夜中は容赦なく今日もやってくるのだ。 私は真夜中が来る前に風呂に入ることにした。湯加減は少

          ショートショート また真夜中がやってくる

          ショートショート タイムリミット

          壁に掛かった時計を幾度となく見上げた。その度に針は容赦なく時を刻み進み続けている。 まるで俺の気持ちなど無視するかのように至って冷酷な動きだ。 長い針に細い針が交錯する度に心拍数が上がっていくのが分かる。 危険だ。全くもって危険だ。俺は動揺を隠せずに二人の顔色をうかがった。 二人は冷静だ。それどころか、こんな状況にもかかわらず薄ら笑いさえ浮かべてやがる。 俺は、二人が性根の腐った悪魔に見えた。 再度、時計の針を目で追った。もう何回目だろうか。いや、何回目だろうとそんなこと

          ショートショート タイムリミット

          ショートショート なんでやねん?

          教室の戸を開けるとそこには・・・・校長と教頭とPTA会長と、そして凄まじく泣き叫んでいる担任教師が居た。 黒板には俺の名前がフルネームで・・・・ 「・・・・・なんでやねん?」

          ショートショート なんでやねん?