見出し画像

独立記念日

人生はままならないものだから、落ち込むことはたくさんある。
でも、ほんのちょっとの気づきが、ほんの一歩を踏み出す勇気が、見える景色をガラリと変えてくれる事がある。この独立記念日という短編集は、そんな幸福な瞬間のアソートボックス。

この小説で私が印象に残っている一節をいくつか紹介します。

P57「真冬の花束」

武者小路実篤さんの、「生れけり 死ぬる迄は 生くる也」
この言葉の意味は、人間だけでなく生き物に生まれた以上は、その寿命尽きるまで生きねばならないという事です。

人間生きていればたくさん辛いこともある。だけど生まれてしまったのだから、命が尽きるまではとにかく生きていけばいいじゃないか。誰でも生まれたからには使命があるんだ。だから生きていくことに自信を持て。自覚を持て。勇気を持て。死は焦らなくても向こうの方からいつかやってくる。だからそれまでは、命を燃やして生きろ。
この言葉の意味には、そんな輝き、優しさ、強さがこもっている。

P69「ふたりの時計」

「結婚する相手はね、外見とか年収とか学歴とかで選ぶんじゃないの。いかに自分にとっての空気になってくれるか。それだけよ」
私はこの文を初めて読んだ時、作中に書かれていることと同じように、別にわざわざ空気なら選び取る必要ないんじゃないかと思っていた。
美しい花や、面白い本、結婚するならそういう人を選んだほうがいんじゃないかと。
しかし、読み終えて価値観は変わった。
本当に結婚すべき人は、どんな時でも変わらずそばにいてくれる人。普通の日常を共に送ることができる人なんだと感じた。

P92「転がる石」

「案ずるよりは産むが易し」
こんなことをしたら、こうなっちゃうんじゃないか。こう言ったら、こう言い返されるんじゃないか。そう考えてなかなか行動できない。けど、思い切ってやってみたら、結構想像もしなかった方に、物事は転がっていくもの。

P227「空っぽの時間」

「楽しみじゃない?1から始められるなんて。すごいじゃない?誰にも頼らないなんて」
これまで積み上げてきたものが崩れたとしても、バベルの塔が崩壊したとしても、自分を信じてまた一歩踏み出してみようと思える話でした。

P288「しあわせの青くもない鳥」

「男ってのはな、あったかいハートがあればいいんだ」
「しあわせの青い鳥は、必ず飛んでくるよ。かまえず、気取らず、がっつかず。自分らしく、自然のままでその時を待てば」
この小説で何度も書かれているが、年収、顔、その他諸々で付き合うと大抵うまくいかない。大切なのは自分らしくいること。またそれをありのままで受け入れてくれる人なんだと感じました。初めはお互いすっごく好きだからお互い無理しててもなんとかなる。だけど、長く付き合うとなるとスペックじゃなくて、相手も自分も素の状態でいられるかが大切なんだなとしみじみ感じました。

P311「独立記念日」

「『自由になる』っていうことは、結局『いかに独立するか』ってことなんです。ややこしい、いろんな悩み苦しみから」

私も今、就職活動で悩んだりする事が多い。面接で落ちた時には、自分はだめなのかなと思う。
でもこの小説に出会って、自分を飾らなくていいんだと思えた。自分を飾って、会社に合わせて就職活動していたら結局長い目で見たらどっちも幸せにはなれない。そうではなくて、自分と向き合って、自分はこういう人間ですと自信を持って相手に伝える。
そしてそれを受け入れてくれる会社に入ることが結局、どっちも幸せになれるのだ。この小説に出会って、建前だらけの、他人の顔色を伺いながら過ごしてきた自分から独立できそうです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?