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たゆたうものがたり

物語は行ったり来たりして、たゆたう。

マキさんが語り出したとき、僕はウイスキーをおかわりしたところで、それが来るまで真剣に聞こう、と思った。

ウイスキーが届いたらもうウイスキーに時間になってしまうからせめて、それまではマキさんの物語に集中しよう、と。

思っていたけれど、マキさんの物語は意外というと失礼かもしれないが、楽しくて、悲しくて、ウイスキーが届いたところで、そんなもの、と僕はマキさんの顔を見つけていた。

マキさんは平家に住んでいた。
そこに家族と、西島さんがいて、彼は家族ではなく、親戚でもなく、ただの西島さんだった。
西島さんは三十ぐらいで、仕事をすることもなく、昼間は部屋に、夜はどこかに出かけて行って、朝方帰ってくる人だった。
何をしているのか、どこに行っているのか、誰も知らなかった。
そんな人がどうしてマキさんの家族と暮らしていたのか。

それは、西島さんが持ち帰ってくる肉であった。
朝方、西島さんは不思議な肉を持ち帰ってきた。
何肉なのか、わからない、牛肉のようでもあるし、豚肉のようでもある、ヤギや猪のようでもある。まさかとは思うが人間かもしれない。
けれど、マキさんの家族はその肉を毎日食べていた。
不思議な中毒性があって、それがないと活動できないのだった。

西島さんに操られている、のかもしれない。
得体の知れない肉で、マキさん家族を操る西島さんを想像した。

彼は魔法の鶴で、恩返しのために自分の肉を毎日少しずつ削ぎ落としているのかも知れない。

あるいは、マキさんの家族は西島さんに飼われているのかも知れない。

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