まっすぐすすむピエロ
振り返らない。
決して振り返ってはいけない。
そのままロープの上を全力で走れば、バランスを崩して傾くことになるのは必至。
倒れてしまうその瞬間に、僕が走って来たこの道のりを思い出す。
平坦ではなかったけれど、今となっては懐かしい。
もう一度走れと言われたら、僕は躊躇する。
楽しかったわけでもない。
格別辛かったというわけでもない。
それはただの日常であって、それ以上でも以下でもない。
ロープはたわんではいない。
もしもたわんでいたら、僕はうまく走れずに、すぐに転倒してしまっただろう。
けれど転倒しなかったのは、ロープがピンと張ってあったから。
張り詰めたロープを緩める瞬間に、何かが弾け飛んでいく。
それはシンプルなルール。
ダイヤモンドの指輪。
手を離した風船。
カジキマグロ。
真っ赤なポルシェ。
紫の下着。
現金。
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