おはよう卵
おはよう、と言えばおはようと返してくれる、卵を手に入れた。
別に欲しかったわけじゃないけれど、もらった。
何かよからぬことを企んでいるようなおじいさんからもらったので、少し後悔している。
おじいさんがどんなことを企んでいるのか、詳しくは知らない。
けれど、残酷で、悲惨で、悪そのものの企みであろうと想像できる。
だっておじいさんの家に入って出てきた人を見たが、それはそれは言葉にならないほどのやつれ具合だった。
あれはきっと、体のどこか一部を削り取られたに違いない。
そんなやつれ具合だった。
だから私は、最初いりません、と言った。
確かに言ったのに、おじいさんは聞く耳を持たなかった。
もっと正確にいうならば、耳がなかった。
おじいさんの耳がどんな経緯で亡くなったのか、私は全く知りたくなかった。
おじいさんは何にも言わずに、その卵を私に渡し、帰って行った。
とはいえ、勝手に渡したもので、私に危害を加えるほどおじいさんは非常識でもないことは知っていた。
何せ、町長だったから。
当然、みんなから慕われているし、おもて向きは温厚で、支持も厚かった。
ただ耳がない。
誰もそれに触れず、ただ、崇めて支持していた。
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