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透明なカプセル


あなたが事故に遭うまで
毎日使われていた
ヘアオイルのMG5は
事故のあと、まったく
使われなくなりました

けれど長い年月をかけて
MG5の中身は確実に
蒸発してゆきました

初めは減らないようにと
祈っていた私だけれど、
あなたはだんだん、
私の知らない
あなたに
変わってゆきました

だから私は、こっそり
それを少しずつ捨てました

早く中身が消えるように、と

私は天使なんかじゃない
愛は無限にあるわけじゃない
泉のように自然に湧き出る
ようなものでもない

私はあの日から
透明なカプセルに
閉じ込められて
暮らしているみたい

それでも、あなたに
この気持ちは
きっと、永遠に伝わらない
私がいなくなったら、今度は
他の人を捕まえるんでしょう

私は時々、15年前に買った
MG5を、のぞいて見る
中身は腐りもせずに、
(本当は知らない)
透明なまま陽の光りに透けている

透明なあなたは、透明なまま、
今日も私の五感を壊しにくる

浴室に置いてあるMG5は
今日も陽の光りを浴びて
微かに微笑んでいる

残された命の日々を、
指折り数えながら
私の命は最初から
無かったもののように、 
あなたの横に
酸素の様に
紛れて
揺れて

見えないモノになる

透明なカプセルに包まれて

あの空へ浮かぶんだ

プカリ、プカプカ

カプリ島

晴れた日には、あの空へ帰りたくなるの


#自由詩
#現代詩
#余命
#カプリ島






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