見出し画像

大工の建てる家

土地が決まってからおよそ半年が過ぎる頃、大工さんとの打ち合わせを開始。
ハウスメーカーや建築事務所、工務店などはあまり選択肢になかった。
ものすごく規模の小さなプランだし、一人で住む家の自分が考える間取りはよくある住宅の間取りには合わないと思ったからだ。
さらに潤沢な資金があるわけではないので建築事務所を通してオリジナルを。。なんていうわけにもいかない。
かくれ人見知りの身としては出来るだけ打ち合わせや契約に会う人の機会も少ない方が良い。そこで大工さんの出番だ。田舎の一人親方の大工。

大工といっても、それは色々なタイプがいる。
ハウスメーカーの下請けで規格通りの組み立てをする大工や、寺社仏閣を請け負う宮大工、リフォーム専門や、天井や床を修理する内装大工、まぁいろいろ。
近年、一棟元請けで各専門の職人仲間(電気屋、屋根瓦屋、配管屋、塗装屋など様々ね)に分離発注し、一軒家を建てられる大工はあまり多くない。経験や能力がないと今の時代食べていけないだろう。

基礎工事

最近のマストな高気密高断熱、耐震技術等に関しては理解はあるがお役所に補助金申請できるような仕組みを持っていない。
お金のことに関してはかなりどんぶり勘定だ。あとから追加請求される。
ハウスメーカーや工務店を通せば、何の知識もなくても銀行や、ローンや、保険や、土地に関わる権利関係なんかの準備相談ができるが親方はできない?いやできるかもしれないし、アドバイスもしてくれる。だがしかしそれは大工の仕事ではないのだ。最終的には、全部自分で調べ対処しなければならない。

実際に建ててみるとわかるが、流行り廃りというものや、高気密・高断熱、新しい耐震工法などネットをググったらたくさん出てくる建築情報に対して、理解はあるがあまり乗り気にならない。
基礎と骨組みが丈夫な素材と造りをしていれば、あとは頑固にシンプルにが基本。
これがいいと施主がこだわる設備や、どこかのメーカーの工法は業界のセールスアピールに振り回されているだけ、しかもやたらお金ばかりかかる!といい、できるだけシンプルにしておいて後からいつでも直せるようにした方が良いという考えだった。
簡単にいうと何か素敵な提案をしてくれるなんて期待はしてはいけない、つくづくわたしはググる情報に振り回されているのだなぁと実感するに至るのだ。

これらのことを自己責任でしっかり勉強し、知識を入れてから自分の実現したいことを大工さんに伝え、その上で、建築物の構造や材料材質、構造など何十年もの経験から出されるプロとしての答えやアドバイスには従う。というかお任せする。そんな感じで進んで行った。

追掛大栓継手

一棟、全て手刻み。工場で裁断するプレカットの方が精密らしいが、なんでも自分でやってしまうこだわりで、時間はかかる。でも便利で速い方法を取らないっていう時代に逆行する感じに少し憧れる。

余談だが、同じモノづくりを生業とする者としてクライアントからの要求にどう応えていくのか。これに興味があって問うてみたら意外とあっさりした回答。
「言われたとおりにやること。望み通りに作ること。」
「価値観が合わない人とは仕事をしない」
最近の大工さんは立場が弱いので、言われたことは言われた通りにやるというのが染みついている。建築産業はクレーム産業らしい。うまくいかないことの方が多かったのかもしれない。
とにかく、ハウスメーカーに何もかもお任せして。。というスタンスなら大工と建てるのは不可能だ。
施主の少しの努力と職人の経験と技術を合わせて、決して多くない建築資金で試行錯誤しながらなんとか建ち上がる。昔はみんなそうだったかもしれない。
素人が完璧を求める今の時代。親方棟梁という職業に尊敬も羨望も敬意も失われつつあるのか。

ただしかし、手作りで世界で一つのお家なんだという思いが満喫できたのは本当だ。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?