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化学肥料、どこまで減らせば持続可能?

前回の記事では、食料システムの課題について、窒素の視点から言及しました。
簡単にまとめると、現状の食料システムでは、環境中に窒素が大量に放出されている。なので、窒素の利用量(≒化学肥料の使用量)を制限していく必要がある。ではどのくらい制限すればいいのか。

今回は、その化学肥料をどこまで減らせばいいのかを世界規模で試算した代表的な論文を紹介します。


今回紹介する論文

「食料安全保障と環境影響の観点から、窒素利用の限界量を評価する」というタイトルです。

内容は大きく分けて2点
1:世界人口を満たす食料生産に必要な窒素量の推定
2:環境影響が出ないような窒素量の推定

上記2点を踏まえて今後の窒素量を決めていこうぜ、という内容です。なお、この論文の試算モデルが現在の窒素のプラネタリーバウンダリーのリスク計算に使用されています。そんな訳もありたくさんの人に引用されている論文です。

今回の紹介内容は2つ目の環境影響の視点からどうやって持続可能な窒素の利用量を推定しているのか、です。言い換えれば、どの程度まで化学肥料の使用量を減らせば、地球環境的に持続可能と言えるのか。

早速、試算方法について

持続可能な窒素利用量を、大きく3ステップで試算しています。
①環境中における持続可能な窒素濃度の推定
②その環境中の窒素濃度に抑えるには、食料システムによる窒素排出量をどの程度に抑えたらよいか
③その窒素排出量(アウトプット)にするには、窒素の利用量(インプット)に抑えたらよいか
つまり、環境中の窒素のあるべき濃度を決定してから、その窒素濃度になるような窒素の利用量を逆算しています。


では、具体的にどう計算しているのか

まずは①。
持続可能な環境中の窒素濃度については、まず窒素汚染による被害を大きく4つに分類しています。
1つ目は、大気中のアンモニアが植物に影響を与えない基準の濃度
2つ目は、大気中のN2Oが地球温暖化に影響を与えない基準の濃度
3つ目は、地下水中の硝酸が基準値を超えない濃度
4つ目は、溶存無機窒素(硝酸とかアンモニアとか)が海洋の富栄養化にならないような濃度
以上の4つの分類をもとに環境中における窒素の持続可能な濃度を決めている。なので、次の②から③の計算においては、以上の4つについて別々に計算しています。

次に②。
①で決めた4つの基準濃度をもとに世界の食料システムから排出されてもよい窒素の総量を計算しています。

最後に③。
②で計算した窒素の総排出量をベースに、現状の食料システムにおける窒素の投入量と排出量の割合の比率から、食料システムにおいて投入してもよい窒素量を計算しています。

結論

以上の3ステップで①で決めた各々4つの分類について、持続可能な窒素投入量が計算されるわけですが、この中から一番厳しい基準となっている窒素投入量を全体基準にしています。この基準を守った投入量であれば必然的に他の分類に関する環境窒素濃度基準も満たされるので。
結論としてこの論文で算出している結果では、現状の窒素投入量およそ140 Mt-N/yearをその半分程度の62~82 Mt/yearに抑えた方がいいという結論になっています。
つまり化学肥料(だけではないですが)を今の半分に抑えた方が環境的には持続的ということですね。

論文の課題

ただし、この論文で試算には課題もあります。
土地空間性が考慮できていない点です。
この論文では、世界全体の窒素の総投入量について、持続可能となる数値を算出しているわけですが、ある地域で窒素利用量を多くして、他の地域で利用量を少なくする、つまり特定地域の窒素利用量が多すぎると、世界全体で見た時の窒素利用量を守っていても、その特定地域には窒素汚染が発生します。

以上の課題を解決した論文が2022年にNature誌に土地空間性を考慮した地域プラネタリーバウンダリーの論文が発表されました(https://www.nature.com/articles/s41586-022-05158-2)。
いずれこの論文も解説できれば。


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