This is my work I have done (1)

「M.C.エッシャー展」図録

 1986年、知り合いの編集者からの依頼でエッシャーの展覧会図録・ポスター・グッズ等の制作とそれに伴う進行管理を依頼された。これが私の展覧会図録にかかわる仕事のスタートとなった。
 甲賀コレクションの図録には、版画、ドローイング、関連資料など約800点が収録されている。エッシャー財団のヤン・フェアミネン氏から購入したもので、個人コレクションとして版画作品と資料の豊富さでは世界でも最も充実したものであった。展覧会は原宿のギャラリー・フェイスで開催された。



 「日本M.C.エッシャー著作権委員会」の編集者とデザイナーとの進行管理は困難を極めたが、何とか開催日に間に合わせる事ができた。制作工程は作品や資料の撮影から始まり、点数が多いので約1週間ほどかかった。 1ページ1点の図版掲載を原則としたシンプルなレイアウトにより、全4巻となった。

エッシャー展図録・全4巻

 「視覚の魔術師」「奇想の版画家」と呼ばれたエッシャーの独創的な作品に対して、それを再現するには多くの印刷技術とアイデアを必要とした。カラー図版は基本の4色に、作品によっては特色を補色してできるだけ正確に再現した。しかし、本当に難しいのはモノクロのリトグラフで、それを4色で再現するために凸版印刷のPDにたいへんお世話になった。

 イマジネーションに富んだ幾何学的な形の函については、デザイナーと一緒に私も楽しんでその実現に尽力した。何度も試作を試み、浮き出たようにメタモルフォーゼの文様が見える仕上がりは、素晴らしいアイデアであった。


 告知ポスターは何種類かあり、エッシャーのリトグラフの制作過程にならって特色を重ねて刷り上げた。パネルにして会場に飾ったが、その後どこに行ったのか私の手元には残っていない。その他グッズをいろいろと作ったが、ハンカチーフしか残っていなくて残念に思う。



※甲賀氏がこのエッシャーコレクションを購入することを強く推したのは松山猛さんで「蕎麦屋で決めた」との逸話がある。
※エッシャーとの出会いやその絵に魅せられた人々の青春群像、1960〜1980年代の日本でのエッシャー受容については『エッシャーに魅せられた男たち 一枚の絵が人生を変えた』(野地秩嘉、光文社2006年/後に「知恵の森文庫」)にドキュメントとして詳しく書かれている。また、山田五郎氏のYouTube番組「オトナの教養講座」にもアップされている。
※日本のエッシャーの受容史については、生誕120年を記念した大規模回顧展「ミラクル エッシャー展」(上野の森美術館)監修者で東京藝術大学大学美術館准教授・熊澤弘が美術手帖で詳しく解説している(https://bijutsutecho.com/magazine/interview/18049)。

 この貴重な経験が後の図録制作に大いに役立つことになる。そしていろいろな作品や人々との出会いがあった。思えば40年ほど前のことである。

※タイトルの由来は、作曲家ベーラ・バルトークの次男で、父親の作品をレコーディング・エンジニアとして伝え続けたペーテル・バルトークを、吉田秀和さんがNYに訪れた時に言った言葉が印象に残っていたのでいただきました。彼は「This is my work」と言って父親の作曲したレコードを差し出したのです。

#MCエッシャー #展覧会図録

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