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家がなくなるまで-④

MARVELの沼に沈みそうになっている小学生の息子とふたりで暮らす、シングルマザーのわがぶたです。
今回から、いよいよ家から出た私と息子のホテル生活が始まります。


ホテル生活初日、やっとの思いで確保できた寝床(ホテル)は都内駅前のツインルームでした。
お風呂もユニットバスではなく独立型で、久しぶりに、怯えずにお風呂にゆっくり入れることに息子は大満足の様子でした。

余談ですが、この日から始まった2週間のホテル生活で私がめげずにいられたのは、子どものおかげです。
それは「子どものためなら例え火の中水の中……」と親心を爆発させていたわけではありません。
というのも我が家の坊ちゃん、スーパーピースフルボーイなのです。
短気な私から、こんな丸い子が生まれるなんて、どんなバグ?と思ってしまうほどの子なんです。(親バカ大炸裂)
保育園の頃、仲のよかったお友達に意地悪をされてもニコニコしていたほどで、私の方が「なんで怒らないの?嫌なことされたら嫌って言わないと!」と怒っていれば、

「なにがあっても笑っていれば幸せになってるんだよ。怒ってる時間が勿体ないよ」

と素で言うほどなんです。
しかもその気持ちが成長と共に廃れるわけじゃなく、今でも、今日もニコニコピースフルに過ごしています。

少し脱線してしまいましたが、そんな穏やかな性の子なので、急な宿泊もワクワクに変換し、とりあえず楽しんでおりました。
小さなリュックに詰め込んできたぬいぐるみと一緒に室内を探検したり、窓から見える東京の夜景に喜んだりと、不安や心配を覗かせもしない息子の背中になんと声を掛ければいいのか迷ってしまうほどでした。
息子の隣で、小さな手を握ってあげることしかできませんでした。

そして家よりも広いベッドを独り占めできて、寝る直前まではご機嫌な様子の息子でしたが……

「明日は、家で寝れるよね。あの家に帰れるよね?」

数週間ぶりに暗くした部屋で目を瞑り、寝に入る直前、息子はそう言いました。

あれだけ怯えながら過ごした家でも、私と息子にとっては『ふたりで暮らし始めた大切な家』のままでした。
実家を出るとき、私が抱いた決心をするよりも遥かに大きな感情を息子はもっていたのかもしれません。

明日穴が塞ぐかわからない。
それでも息子は、あの穴のあいた家で私と暮らすことを望んでいる。
息子が寝たのを確認してから私は泣きました。ごめんね、と息子に何度も謝りました。


翌朝、家へ帰ると不動産屋さんと大工さんが来てくれました。
大工さんはとても良い方で、私や子供の恐怖を感じとってくださり、終始「大変でしたね」、「もう我慢しないで」と声を掛けてくださいました。
このとき、私も子どもも床の模様ですらGに見間違えるほど精神的にやられてしまっていました。
この日までに発見されていた穴や隙間は塞いでもらいましたが、もうこの家を信用できていなかったのだと思います。

「この家で暮らしていきたい。大丈夫になるようにがんばる。直してくれてありがとう」

息子はそう、手直し工事をしてくれた大工さんにお礼を言っていました。

ひとり親になって実家で暮らしていましたが、私の親もまだフルタイムで働いている状況でした。
息子にはたくさんの我慢や寂しい想いをさせてきてしまった自覚がありました。
それでもまだ小学生、子どもだと思っていた私のほうが、なにも見えていなかった。
この日、息子がすごく大きく感じたのです。
私は目の前の穴に気を取られ、『息子と一緒に暮らす』という未来への覚悟が欠けていたのだと気付きました。

息子はちゃんと『この家で』『ふたりで』暮らしていく、という最初の覚悟を持ったままでいてくれていました。
私も息子とこの家で暮らしていく、と立ち上がりキッチンに立って夕飯を作りました。

またこの家での生活を始める。
いろいろあって当たり前。
最初に転べておいてよかった。
そう自分に言い聞かせ、久しぶりにゲームをしてから布団に入りました。

しかしその日の夜、息子の様子に異変がみえたのです。


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