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ストームライダーのクローズを考える

東京ディズニーリゾートには惜しまれつつクローズしたアトラクションがいくつもある。その中でもとりわけ根強いラブコールを受け続けるのが「ストームライダー」だ。クローズから5年以上が経ち、現在のパークにストームライダーの面影はすっかり減ってしまったが、その人気の高さから今でもグッズ展開は絶えない。

しかし、当のストームライダーファンたちからは商業展開に否定的な声も少なくない。「自分でクローズしておいて未だにグッズで儲けようとする姿勢はファンに不誠実だ」という意見さえ散見される。

他のクローズドアトラクションでここまでの感情を持たれるものは無いといってもいい。今年展開中の「メモリーゴーラウンド」シリーズでは過去のアトラクションにまつわるグッズが多数販売されているが、ストームライダーのようなプチ炎上まで起こしたアトラクションは他にみられない。なぜ、ストームライダーだけがある種”執拗な”愛を受け続けることになったのか、クローズの要因をなんとな~く考えてみた。

「唯一無二」ゆえの人気

「ストームライダー」は2001年、東京ディズニーシーと同時にオープンし、テーマポート「ポートディスカバリー」の世界観の中心を担う重要なアトラクションとして誕生した。

東京ディズニーシーは世界で唯一“海”をテーマにしたパークであり、ポートディスカバリーもまた、ディズニーシーのコンセプトに合わせて生み出された世界で唯一のオリジナルエリアである。その核となる「ストームライダー」も当然世界で唯一、東京のために作られたアトラクションなのである。とどのつまりストームライダーとは、唯一無二のテーマパークにおける唯一無二のテーマエリアの根幹をなす唯一無二のアトラクションなのである。

そんな大きな付加価値を持つアトラクションが無くなるとなれば、ファンの悲しみも高いことは想像に難くない。だが、ストームライダーが当時のファンに(あえて印象の悪い言い方をすれば)粘着されてしまっている理由をもう少し詳しく探してみたい。

テーマポートとの結びつきが「強すぎた」という欠点

先ほども少し触れたが、ストームライダーはテーマポートであるポートディスカバリーとの結びつきが非常に強いアトラクションだった。

ポートディスカバリーはストームなどの気象災害を研究すべくできた科学都市であり、甚大な災害をもたらすストームを撃滅すべく開発されたのがストームライダーであった。また、ポートディスカバリーはストームライダーの完成を祝うフェスティバルの最中という設定も存在した。エリアの地面が赤色なのはレッドカーペットを模しているという説もある。

このように、ポートディスカバリーの現状を説明するときにストームライダーの話は避けて通れなかった。裏を返せば、ストームライダーが無くなってしまったポートディスカバリーは存在意義の大部分が宙づりになってしまうのだ。

このようなエリアの存在意義に深く食い込んだアトラクションがクローズした事例は東京ではほとんど見られない。強いて言えば、クリッターカントリーのスプラッシュ・マウンテンは存続が危ぶまれており、エリアのストーリーの大部分に関わるため、もしクローズした場合ストームライダーと似たような反応が起こる可能性はある。

ただ、パーク全体を見渡した時に、ストームライダーのような「エリアありきのストーリー」を持つアトラクションよりも「アトラクションありきのストーリー」を持つアトラクションのほうが(特にランドでは)圧倒的である。後者はクローズしたとしても柔軟に新施設をオープンさせることができるが、前者のクローズにはエリア全体の世界線の改変というスケールの問題がのしかかってくる。

特に、東京ディズニーシーはエリアとアトラクションの結びつきがとても強い場合が多い。その分アトラクションを「そこにたまたまある楽しい乗り物」からもう一段踏み込んだエンターテイメントにしている側面もあるが、クローズが引き起こすダメージがアトラクションの外へ波及してしまうという問題が、ストームライダーによって浮き彫りになったといえるだろう。

そういった理由もあってか、ディズニーシーはクローズしたアトラクションの数が少ない。ストームライダーの他には、シンドバッド・セブンヴォヤッジのみである。「シンドバッド」の場合、人気の低いアトラクションであったこと、エリアのストーリーに深くは食い込んでいないこと、同じテーマでリニューアルを行なったことなどがあり、クローズのショックは大きくなかった。では、ストームライダーはこれとはどう違ったのか。

見えにくかった「クローズの理由」

2016年、ストームライダーは突然クローズを発表し、多くのファンをざわつかせた。前章で引き合いに出したシンドバッド・セブンヴォヤッジとの大きな違いはこうだ。

  • ファストパス対象となるほど人気アトラクションであったこと

  • ポートディスカバリーの成り立ち・現在と密接に関わっていること

  • 後任のアトラクションは全くコンセプトの異なる「ニモ&フレンズ・シーライダー」

先述した通り、エリアの世界設定との兼ね合いは繊細な問題だ。ただ、正直なところこれはオタク以外はあまり気にしない部分だろう。

ストームライダーのファンにとって最も腑に落ちないのは、やはり1点目の「人気アトラクションであるにも関わらずクローズしてしまった」ということだろう。採算が取れていないわけでもないアトラクションをどうして潰してしまうのか、という嘆きは想像に難くない。

そして、次に出来上がる「シーライダー」は、完全な建替ではなく、内部のリフォーム、つまりストームライダーの設備を活用して運用される。つまり、面影が全く消えてしまうわけではない。これがファンにとっては逆に残酷であった。老朽化でもないのであればそのまま運営してほしかったと思った人も多いだろう。

こういった不満の出どころを確認すると、ストームライダーにはクローズせざるをえない理由が見えにくかったことが、ファンにとって一番悲しみを増幅させる事実だったのだろうと思われる。公式からも明確なクローズの理由はいまだ明かされていない。では、なぜストームライダーはクローズし、シーライダーへと生まれ変わらなければならなかったのか。

なぜシーライダーへ 3つの仮説

一つ目にあげられる仮説は、IPビジネスの強化である。

ストームライダーは東京ディズニーシーオリジナルのアトラクション。リアルSF路線で、原作映画やキャッチーなキャラクターは無い。対して、シーライダーは『ファインディング・ニモ』シリーズを原作とし、ニモをはじめ映画のキャラクターが矢継ぎ早に登場する。

近年のエンタメ業界はIP、つまりキャラクタービジネスがアツい。ノータイムで視覚的に魅力が伝わりやすいキャラクターの訴求力はやはり大きいのだ。

ディズニーシーにはストームライダーと同様IPに乏しいアトラクションが多い。それだけフラットな体験ができることも事実であり、この路線が崩れてゆくことに不満を持つシーのファンは少なくない。ポップなキャラクターに頼りすぎることをよしとしない評価はネット上でもよく見られる。(こんな状況がディズニーのテーマパークで巻き起こっていることこそディズニーシーのいびつさの証明でもあるのだが………)

二つ目の仮説は運営の効率化である。

ストームライダーはフィルムは一種類のみ、ストームディフューザーが突き刺さってきたり、水がかかったりと、毎回大がかりな演出が用いられ、お世辞にも回転率が良いとはいえなかった。

対してシーライダーは送風以外の演出はカットされ、代わりに映像の賑やかさで勝負する。ストームライダー時代に活用できていなかったシアター斜め上のスペースも常にキャラクターが動き回り、運行コースも「スター・ツアーズ:ザ・アドベンチャーズ・コンティニュー」のように、複数のコースがランダムに選択され、行くたびに異なる体験ができる。

メンテナンスの単純化とバリエーションの強化という2つの軸で、より回転率の高くスタミナのあるアトラクションに生まれ変わったことは間違いない。

三つ目の仮説は、ネットで見つけた興味深いものだ。東日本大震災がクローズの遠因になったというものである。

ストームライダーは自然災害をテーマにしている。荒れ狂う海を舞台にストームに突っ込んでいくのだ。もちろん最終的に描いているものは災害の克服なのだが、それに至るまでに暴風雨や大波がこちらに襲いかかる描写は、東日本大震災による津波を目の当たりにした人にとっては十分すぎるトリガーだったかもしれない。

シーライダーへの交代が済んだ直後も、大災害が立て続けに日本を襲った。2018年の西日本豪雨によって、いよいよストームライダーは「楽しいエンタメショー」の位置にはしばらく舞い戻れないことが約束されてしまったようにも思える。

「最近災害が多いのはストームライダーがクローズしたせいだ」という冗談もネット上には多くみられるが、それは順序が逆である。度重なる災害で日本中がダメージを受けてしまった今、ストームライダーはもはや人々に夢や希望をノーリスクで届けられる存在ではなくなってしまったのだ。

余談ではあるが、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの隠れた人気アトラクション「バックドラフト」がクローズした。映画スタジオでの実際の火を用いた火災の撮影をテーマにしたアトラクションだった。コロナ禍に運営を休止し、エリア再開発のためそのままのクローズとなったが、フィクションという保険では埋められないほど災害で心に深い傷を負った人への配慮も、クローズの理由に含まれているのではないかと推測してしまう。

未来のマリーナの“輝かしい過去”として

ニモ&フレンズ・シーライダーが開業して5年以上が経った。今では子供たちに人気のアトラクションとして、親子連れを中心に新たな賑わいを見せている。『ファインディング・ニモ』が幼少期に大ブームとなった世代の筆者としては、令和の子供たちがニモたちと出会って喜んでいる光景が、たまらなく嬉しい。

ストームライダーが姿を消したことに対して文句を言うなというつもりもないし、悲しみを無理に押し留める必要も無いと思う。それだけ多くの人々に愛された証であることは間違いない。

人々の夢は時代と共に変わっていく。残念ながらストームライダーは完全に“過去の栄光”になってしまったかもしれない。個人的には、それでもたまには公式から顔を覗かせてくれると、その栄光が忘れられずに受け継がれていることに安心するのである。

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