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「TDR」3つの吹奏楽メドレーを聴いてみよう

「ディズニーメドレー」を名乗る曲はたくさん存在するが、なかでもパークのメドレーを名乗った曲はごく一部の吹奏楽向け楽曲に限られる印象がある。そのなかで、東京ディズニーを取り上げたメドレーはしっかりと「ランド」「シー」「リゾート」の3つの吹奏楽メドレーが存在する。自分自身これまで触れてきたことはなかったが、吹奏楽部出身・メドレー好きのパークオタクとして、しっかりチェックして雑感をまとめておこうと思う。

「東京ディズニーランド・メドレー」

・2017年
・編曲: 船山基紀

楽曲構成
・ワンス・アポン・ア・タイム
・Happiness Is Here
・東京ディズニーランド・エレクトリカルパレード・ドリームライツ
・Zip-A-Dee-Doo-Dah
・It's A Small World
(約7分)

まずは「東京ディズニーランド・メドレー」。これは人気シリーズ「ブラバン・ディズニー!」第2弾に収録された。
編曲の船山基紀は昭和ポップスのヒットを連発した大物編曲家。学生時代は早大学院→早稲田政経(中退)と歩み、早稲田大学ハイソサエティ・オーケストラでリードアルト兼コンマスという輝かしいキャリアを持っている。

そんな超大物によるメドレーは堅実な構成。2017年当時のナイトタイム・エンターテイメント→デイパレード→エレクトリカルパレードという、目玉ショーパレをふんだんに盛り込み、まさに「東京ディズニーランド・メドレー」である意義が詰まった展開である。特に「ハピネス・イズ・ヒア」のマーチ風アレンジはメドレーの山場といえるほど美しくまとまっており、「エレクトリカルパレード」もin Fに転調して木管楽器の負担を軽減してくれている点がやさしい。
一方アトラクションにはそこまで時間を割かず、舞浜駅の発車メロディーにもなっている「Zip-A-Dee-Doo-Dah」「It's A Small World」の2曲に留める。ランドのアトラクションは固有のテーマソングを持たない物が多く、曲の抽出が難しい傾向にある。そこでショーパレの楽曲を多く使うことで個性を出しているわけだが、ここには欠点もあるのではないか。
ショーパレ楽曲の欠点は、いわゆる“賞味期限”が来やすいことにある。「ワンス・アポン・ア・タイム」や「ハピネス・イズ・ヒア」は数年で終了することが決定しているプログラムで、長期ではあるが「期間限定」を前提にしたものだ。すると、このラインナップは程なくして少し古さを感じさせるものになってしまう。実際「ワンス」はこの楽曲が世に出てわずか半年後に終了、元々開園30周年ソングである「ハピネス・イズ・ヒア」も1年後の2018年に開園35周年を迎えたパークの前で次のパレードに交代し、聴けなくなってしまった。メドレー構成としては素晴らしいのだが、需要としては出鼻をくじかれてしまったような惜しい曲でもある気がする。

「東京ディズニーシー・メドレー」

・2016年
・編曲: 金山徹

楽曲構成
・東京ディズニーシー・テーマソング
・レジェンド・オブ・ミシカ Part 6
・ブラヴィッシーモ!
・When Your Heart Makes A Wish
(約7分50秒)

こちらも非常に「シー」らしさが出ているメドレー。ニュー・サウンズ・イン・ブラスから発売され、2016年ということもあり、明確に開園15周年をお祝いするというコンセプトに立って制作されている。
編曲の金山徹は吹奏楽ポップスではよく見かけるレジェンドの1人。不朽の名曲「ディスコ・パーティーⅢ」から怪作(?)「〔ニコニココレクション〕みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」まで多数のポップスを編曲しており、「ブルー・コーナー」というオリジナル楽曲も作曲している。

さて、コンセプトとしては開園15周年のお祝いなので、パークのメインテーマである「東京ディズニーシー・テーマソング」をしっかりと開幕に投入し、15周年テーマソングである「When Your Heart Makes A Wish」はしっかりと大トリを飾っている。ここを固めただけでもオタクは後方腕組み面で満足してくれるだろう。特にパークのテーマソングは、パークを語る上で必須ともいえる一方、知名度の低さゆえメドレーで堂々とお出ししにくいというジレンマを抱えている。オタクもそうでない人もどう満足させるか、というところで、しっかりと中継ぎには「ミシカ」「ブラヴィッシーモ!」という強力な布陣で固めることになる。

ここでひとつ疑問なのが、この時すでにナイトタイム・スペクタキュラーは「ブラヴィッシーモ!」から「ファンタズミック!」に交代しているという点。当時で既に終演から6年も経っていたブラヴィッシーモをなぜ採用したのか。それはズバリ「シーらしさの追求の結果」だと考える。
「ファンタズミック!」は素晴らしいショーなのだが、その大元は本家ディズニーランドであり、世界的に見れば本家ディズニーランドの定番ショーという認識が強い。さらに、同じ吹奏楽譜に「ディズニーランド・セレブレーション」という人気曲が存在し、そこでは大々的に「ファンタズミック!」を取り上げている(それもそのはず、あれは本家パークのメドレーなのだ)。
一方、一つ前の「ブラヴィッシーモ!」は東京ディズニーシー完全オリジナルの演目であり、思想的にもディズニーシーのコンセプトがよく表れている。このショーで語られる物語は、シーの海が魔法と冒険に満ち溢れている理由に繋がる重要な話なのだ。

そしてこの曲の凄いところは、アトラクション楽曲が全く入っていないところ。パークの稼ぎ頭であるアトラクションを無視して、ディズニーシーの根幹をなす重厚なストーリーに関わるショーで脇を固めた、まさに真正面すぎる正面からパークをお祝いしているメドレーがこの曲なのである。脱帽。

「東京ディズニーリゾート・メドレー」

・2018年
・編曲: 高橋宏樹

楽曲構成
・東京ディズニーランド・イズ・ユア・ランド
・Yo Ho
・Compass of Your Heart
・Grim Grinning Ghosts
・東京ディズニーシー・テーマソング
(約7分30秒)

まさかまさかの両パークを取り上げた「リゾート」のメドレー。「ブラバン・ディズニー!」第3弾に収録され、何の曲を入れるか非常に苦労したとは思うが、その分なかなかに面白い構成になっている。

編曲は高橋宏樹。吹奏楽を中心に作曲活動もしているが、学生にとってはジブリ作品のメドレーで出会うことが多いかもしれない。『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『千と千尋の神隠し』など、多数手掛けている。

構成としては非常に特殊。テーマソング(ランド)→アトラクション(ランド)→アトラクション(シー)→アトラクション(ランド)→テーマソング(シー)と、2つのパークを反復横跳びするようなユニークな展開を取る。
なかでも一曲目とトリを両パークのテーマソングで固めるという構成は「そっ そうきたかァ〜〜〜ッ」と唸りたくなる素晴らしいアイデア。ちなみに、一応リゾートのテーマソング「This Is A Place」も存在するのだが、さすがにこちらは知名度が皆無に等しいため使わなかったと思われる。欲を言えばこの曲もそろそろ何らかの形で吹奏楽譜化してほしいところなのだが…

間に挟まるアトラクションのメンバーは「カリブの海賊」「シンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジ」「ホーンテッドマンション」の3つ。今度はショーパレに一切触れることなく、アトラクションも「ランド・メドレー」と異なるチョイスで攻めてきた。ここは差別化を図ったのか不明だが、カリブとホンテという思いつきそうでつかない2つは、王道すぎずニッチすぎもしない絶妙なラインを突いていて面白い。
一方、3曲のなかでは唯一のシーアトラクションである「シンドバッド」。シーのアトラクションの曲やって!と言われれば、まあこれだよねというくらいには定番であるが、他に知名度ある楽曲がほぼ無いので、実質一人勝ちである。タワテラはホンテとキャラ被りしてしまうし、ストームライダーは2018年当時すでにクローズしており、ソアリンもまだオープンしていない。センター・オブ・ジ・アースのテーマソングはもう少し知名度が上がっても良いと思うのだが、やはり巨匠アラン・メンケンの手がけた「Compass of Your Heart」が最も華がある。シーもシーでアトラクションの曲を抽出するのは大変である。

パークのメドレーって難しい!

さて、以上3曲をみてきたわけだが、パークのメドレーというものがいかに難しいかという問題が垣間見えてしまった気がしてならない。
その原因は「アトラクション楽曲の抽出難易度」と「ショーパレ音楽の賞味期限」ではないか。思ったよりアトラクションで流れる音楽に「アトラクションの楽曲」として送り出せるものは少ない。原作映画の曲がそのまま使われる場合も多く、そうなってしまえば単なるディズニー作品メドレーにしたほうが圧倒的に自由度もコスパも高い。かといってパークを象徴するショーやパレードの音楽は移り変わりが激しく、そもそもショーを見ない層もかなりいる点で、訴求力と持久力に欠ける。やっぱり素直にディズニー作品メドレーを作ったほうが楽。

それでも、この3曲がある、ランドもシーも揃っているおかげでパークのオタクは希望を持つことができる。パークの曲だって需要があるぞ。そう胸を張って言えるくらい、今後もっとパークに焦点をあてた曲が増えると嬉しい。

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