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No. 6 英語教育とidentityについて⑤【人種、ジェンダー、言語identityなど】

はじめに

ここまで英語教育とidentityについて、主にidentityについて書いてきました(これまでの投稿も読んでいただけたら嬉しいです!)。
今回もまたBlock (2014)から、具体的なidentityのカテゴリーについて書いていきます。今までよりさっぱりとしていると思うので、読みやすい(はず。。)です!

・・・結局長くなったので、先に結論を書いておきます笑

「identityには色々なカテゴリーがあり、人はみな複数のidentitiesを併せ持っている」

それでははじめていきましょう!

identityのカテゴリー

Block (2014)の第2章では、以下の6つのidentityのカテゴリーについてまとめられています。

Ethnicity and race

まずは、ethnicity「民族性」とrace「人種」です。identityの一つとしてイメージしやすいですよね。しかしBlockは、これらはnationality「国民性」などとミックスされるのが普通なので、ひとまとめにしてしまう危険性を指摘しています。
特に日本に住む人々は(この「日本に住む人々は」というのもある種の「ひとまとめ」ですが、、、)、民族や人種に対して意識が薄い傾向があると思います。「日本人」といっても、両親とも外国の方ということもあるし、いわゆる「ハーフ」の人も増えてきていますが、まだ「日本人」というのは一つの民族、人種で構成されていると思いがちです(これに起因する問題もたくさんあります。いずれこのことについても書きますね)。もっと真剣に考えなければいけないidentityの一つですね。

National identity

次は、national identity「国民/国家」identityです。上記に述べたことと重なる部分に加えて、Blockはimagined communitiesについても言及しています(詳細はこちらの投稿へ)。また、national identityは、様々な「象徴となるもの」や「活動」を通して養成されていくものであるとも述べています。

Migrant identity

続いては、migrant「移民」identityです。これも島国・日本に住む人々には少し馴染みがないidentityかもしれません。(参考:「データであぶり出す移民と日本社会の関係」)この記事にもあるように、日本人は外国から来た人を「お客さん」と見る傾向があるようですが、Blockは以下のようにまとめています。

Whereas in the past, immigration, with the connotation of 'staying for life,' was the dominant option, today migrants can live, as it were, straddling geographical, social and psychological borders.
かつては、移民といえば、「一生そこで住む」という含意があり、それが有力な選択肢だったが、今日では、移民はいわば地理的、社会的、心理的な境界線を跨いで生きているのだといえよう

コロナ以前を思い出すと、確かに世界中を簡単に行き来し、留学やワーキングホリデー、移住をする人が多かったように思います。「移民」identityも変わってきているのですね。

Gender

gender「ジェンダー」identityは日本でも随分注目されるようになっているでしょうか。しかし依然として問題解決には時間がかかりそうですね(参考:「ジェンダーギャップ、日本は146カ国中116位 : 政治分野では下から8番目」)。
Blockは、「生まれ持った」「固定観念化された」性別を、ポスト構造主義的に見るとどうなるか、以下のように述べています (pp. 42-43)。

  1. ジェンダーとは、「持っている」「そうである」ものではなく、「するもの」である

  2. ジェンダーとは、言葉や(言葉以外の)意味を示す行動によって媒介される、社会の中での実践行動による結果である

  3. ジェンダーを決める営み (=gender work)は、女性だけでなく全ての人間がすることである

  4. ジェンダーidentityは、他のカテゴリー(民族、人種、国民性、社会階級など)とともに研究されるべきである                

第二言語習得論 (SLA)の文脈でジェンダーを考えると、例えば日本語話者が英語を使うと一人称が「I」ひとつになるため、ジェンダーidentityを表すのが難しくなります。反対に、英語話者が日本語を使うときは、一人称で多様なジェンダーidentityを示すことができると気づくでしょう。このように、ジェンダーidentityもことばと密接に関わっています。

Social class

5番目は、「社会階級」のidentityです。これも比較的想像しやすいと思います。

私は留学時代、大学にある語学学校に通っていたのですが、そこにいた中国人の生徒は間違いなくhigh-classな家庭の人々でした(よくご飯を奢ってくれました笑)。また、UAEと韓国出身の中年の生徒もいて、お二方とも生活にゆとりがあったと思います。彼らのそのidentityは、少なからずクラスで影響力がありました(なんとなく「大人」として扱われていました)。それでも、アメリカという地で私や他の留学生と同じクラスにいるため、社会階級identityの効果が弱まり、「留学生」というidentityで括られるというのもまた面白いことではありました(このことについてもいずれ書きます)。
また、日本でも裕福な地域では塾や英会話教室がたくさんあり、高い人気を博しています。これもまたsocial classと英語学習・教育における一つのissueです。

Language identity

最後に、「ことば」identityです。ことばidentityの単位は、例えば日本語といった「言語」、関西弁といった「方言」、ある社会的なグループ(スポーツ集団など)特有の「社会言語」といった感じです。

ここには注意すべき点があります。一つには、その人のidentity が言語能力によって「評価」されるということが出てくるということです。また、ことばとコミュニティを過度に結びつけてしまい、「このことばを話すからこんな感じの人だよね」というふうにidentityが決められる可能性があります。と同時に、「このことばを話せないなら、このコミュニティの人ではないよね」といった排他的な見方につながる危険性もあります。最後に、ことばとidentityが密接な関係だと思いすぎることで、不必要に「外国人」扱いしてしまうことがあります。たとえば、見た目が「外国人っぽい」人に、「日本語話せますか?」などとなんとなく聞いてしまうことがあります。そうすると、相手に「外国人扱い」されたと思わせることになり、不快な思いをさせてしまうことがあります。

この最後のidentityカテゴリーこそ、このnoteの主題になるので、これから詳しく書いていきますね。何か感じていただけたら幸いです!

おわりに

結局長くなってしまいました。。。笑
最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。先に書いた結論である、

「identityには色々なカテゴリーがあり、人はみな複数のidentitiesを併せ持っている」

という一文に納得いただけたかと思います。

英語学習者のみなさま

皆さんは「英語学習者」である以前に、様々なidentitiesを持つ一人の人間です。得意・不得意や、好き・嫌いがあるのは当然のことです。自分が獲得したい、あるいは表現したいidentitiesは何か考えながら、「自分らしく」英語学習に励んで欲しいと思います。

英語教育者のみなさま

英語学習者が持つidentitiesに注意を払いましょう。問題を起こさないために、というのはもちろんのこと、レッスンにうまく取り入れることができればとても快適なクラスになると思います。また、私たちも「教育者」というidentity以前に、一人の人間として様々なidentitiesを持っています。自分のどのidentityがどのように生徒に影響に与えるかわかりませんので、常に意識をしていきましょう!

参考文献

Block, D. (2014). Second language identities. Bloomsbury.

PS.
Block (2014)では、上記の6つのカテゴリー以外にも、multimodal「マルチモーダル」やreligious「宗教」identityについても言及されています。興味のある方はご一読ください:)


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